新しい動脈塞栓物質による出血性病変の治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700153A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい動脈塞栓物質による出血性病変の治療法開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
堀 信一(りんくう総合医療センター市立泉佐野病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀慶悟(りんくう総合医療センター市立泉佐野病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的は、 経カテーテル的動脈塞栓術に用いる動脈塞栓物質の開発で、 従来の塞栓物質がもつ欠点を克服し、 十分な治療効果をもち副作用のない物質を研究開発する事を目的とした。
研究方法
研究に当たりまず、 今回の主たる研究対象とした高吸水性ポリマーを数種取り上げその物性を調査し、 動脈塞栓物質として使用できるかを検討した。 次に動物実験として家兎の腎臓を用いて塞栓効果、 組織反応の検討を行った。 臨床研究として、 従来の動脈塞栓材料では十分な治療効果が得られないと考えられた症例に対して本研究物質を用いて塞栓術を行い、 その治療効果を評価した。
結果と考察
物性実験: 本研究で材料とした高吸水性ポリマーはさまざまな分野で使用されている材料で、 分子構造が簡単で比較的簡単に合成が可能な材料である。 この材料は毒性がなく医療分野にも用いられることが多いが、 体内に留置する目的で使われることはなかった。 しかし、 本材料の持つ性質は塞栓材料として極めて優れたものであることに着目し研究を行った。 まず、 塞栓物質としての物性の調査を行い、 塞栓物質としての特性を有するのはアクリル酸とビニールアルコールの共重合体(SAP-MS)と考え、 この物質の研究を行い、 SAP-MSは十分に塞栓物質として実用可能であることを確認した。即ち、 粒子の大きさを調節できること、 水溶性造影剤に分散させることができること、 マイクロカテーテルを通過すること、 球形を常に保つこと、 滅菌が可能であることが証明され、 この材料を滅菌バイアルに封入し臨床使用できるまでに完成させた。
動物実験: 家兎の腎臓を用いた実験を行い、 SAP-MSが完全に血管腔を占拠する形で塞栓合併症が起こり、 この場所で血清を吸収し粒子径が増大し、 血管を押し広げ塞栓が完成することが証明された。 SAP-MSは血管内皮細胞の破壊、 弾性繊維の断裂、 平滑筋の肥厚を惹起するものの炎症反応はほとんど認めず、 異物としての組織反応も認めなかった。 塞栓効果は永久的で再開通をきたさないこと、粒子の大きさにより塞栓効果の異なることを確認した。 従来の塞栓物質ではこれらの事をすべて満たすことは不可能で、 この塞栓物質が優れた特質を有することが証明された。 例えば、 最近盛んに行われるアルコールを用いた塞栓術では、塞栓する範囲を調節することは難しく、 かつ塞栓する血管の径を選ぶことができず、 炎症性の変化は著しい。 結果として組織の広範な壊死と癒着を生じる結果となるが、 本材料を用いた場合は、 塞栓した腎と周囲組織の癒着は全く起こらなかった。
臨床研究: 出血または出血の恐れのある症例を選び、 従来の塞栓物質では治療効果が得られないと判断された症例について、 臨床試験を行った。 動静脈奇形では半数の患者で根治的な治療効果が得られ、 残り半数で他の塞栓物質との併用が必要であったが、 難治性の疾患である血管奇形に対してSAP-MSは治療の道を開くと考えられた。 外傷性の出血に対しても治療が試みられ、 正常組織を傷つける事なく止血を完了することができた。 出血のコントロールに有用であったことは言うまでもないが、 従来では阻血だけでは腫瘍壊死効果は疑問視されていた肝細胞癌でも、 選択的な塞栓術で抗癌剤の併用なく良好な腫瘍壊死効果を得ることができる事が示された。
臨床研究では、 正常組織の壊死など従来の塞栓物質では避けることができなかった合併症は全く認めなかった。 これは目的とする太さの血管だけを塞栓することができたこと、 炎症などの組織反応が起こらなかったこと、 目的部位以外の塞栓が起こらなかったことなどが挙げられる。 具体的には、 鼻出血で上顎動脈を塞栓した場合でも、 鼻粘膜は正常に保ったまま出血を完全に止めることができた。 腫瘍症例においても腫瘍出血、 術中出血をコントロールするためにSAP-MSを用いて塞栓術を行ったが、 阻血効果は十分であり、 術中の出血量も大幅に押さえることができた。 腫瘍出血、 術前処置として腫瘍性疾患に対しても塞栓術が試みられた。 SAP-MSの確実で永続的な塞栓効果により腫瘍の壊死効果は高く、 今回の研究で試験的に塞栓した肝細胞癌は抗癌剤の併用を行わなくとも、 想像以上に強い壊死を示し、 肝細胞癌の治療としてもSAP-MSを用いることができる可能性が示唆された。 臨床研究で本材料が優れていることを証明するには、 さらに症例を増やし評価しなければならないが、 本研究を発展させることにより、 動脈塞栓術の副作用を減らし、 かつ、 治療成績を向上させることができるものと考えている。
結論
高吸水性ポリマーの一種であるアクリル酸とビニールアルコールの共重合体(SAP-MS)は、 塞栓物質として優れた特質を持つものであった。
動脈の確実な塞栓効果を持ち、 炎症反応は軽微で、 動脈の永久塞栓が得られた。 臨床例においても従来の塞栓物質に比べて高い治療効果が得られ、 副作用の低減化が可能であった。
SAP-MSにより悪性腫瘍の強い壊死効果も得られた。

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