食中毒集団発生時における国立病院療養所の機能と国民の健康危機管理に関する研究

文献情報

文献番号
199700150A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒集団発生時における国立病院療養所の機能と国民の健康危機管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
額田 忠篤(国立大阪南病院)
研究分担者(所属機関)
  • 上田英之助(国立療養所近畿中央病院)
  • 高橋洋一(国立泉北病院)
  • 今泉昌利(国立大阪病院)
  • 木下直和(国立大阪南病院)
  • 有馬重昭(国立大阪南病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒により生じる国民の生命、健康の安全を脅かす事態に対し、医療行政的な面から、平成8年に大阪南部地域で集団発生をみた病原性大腸菌O-157・サルモネラ腸炎菌感染食中毒を中心にその実態を調査研究し、国民の健康危機管理面上、国立病院・療養所としての機能の適正化を明らかにすることを目的とする。
研究方法
平成8年度に大阪南部を中心に集団発生をみたサルモネラ食中毒、病原性大腸菌O-157感染症を教訓に、その発生予防、被害拡大の防止、発生源調査法、実態調査法、収容可能医療機関調査などを検討する。そして国立病院・療養所としてどのように機能すべきかを調査し、国民の健康危機管理の適正化を計る。
結果と考察
1)食中毒の原因鑑別診断;平成8年の国立大阪南病院でのサルモネラ食中毒発生事件の場合、疑いのもたれる腹部症状のあるものはすべてをサルモネラ食中毒として保健所に届け出た。しかし検便にてサルモネラ菌が診断されたのはその約1/3症例であった。保健所に届け出た可成りの症例は、サルモネラ以外の感染性胃腸炎、感冒性消化管機能障害であったかも知れない。自然治癒例が多かった。正確な診断と治療を個々の症例で行ったことは言うまでもない。従って早急に医学的問題、すなわち感染の拡大は解決した。2)起因菌診断技術の開発とその技術の確保:当時、サルモネラ菌の確診に2日を要した。病原性大腸菌O-157になると自施設で菌の同定ができたとしても、それには3日を要した。堺地区でのO-157中毒症発生時、菌の同定は、殆どが自施設でなされず、多くが大阪府立公衆衛生研究所に提出されていたため、疫学調査資料が重なった時は、診療所・病院からの検体の菌同定には一週間以上を要した時があった。従って疑いのままで治療がなされたと考えられる。現在では数時間で菌の同定可能な方法が輸入されている。ベロ毒素の判定も同じく複雑で、当時は阪大微生物研究所といった特殊な機関でのみ確定診断がなされた。現在(平成9年)では測定キットが発売されたが、相当数の検体がなければ費用高になるので、普及していない。3)食中毒の近隣局所集団発生時の感染ルート調査と地域における管理体制の確立:?感染ルートの調査・管理;食中毒の大規模な集団発生の場合には、これに当たる保健所員のみでは、その感染ルートの調査に人的要員が不足した。そのことが事態の正確な把握に時間を要し、その対策が遅れた可能性がある。?正確な診断治療;病原性大腸菌O-157感染症は、正確な診断、菌株の同定がなされないままで抗生物質が投与されると、病状を悪化させることがある。平成8年の堺地区での病原性大腸菌感染の場合、不正確なマスコミの報道が患者の不安感を強まらせ、それが正確な診断のないまま、下痢患者に抗生物質の投与を急がせた。?収容病床の確保・診断・治療;病院に患者を収容する場合、入院中の他の患者への感染防止、院内発生の防止は言うまでもないが、重要なことは、病棟婦長によるそのための部屋、特に大部屋の確保、管理を、速やかに行える体制である。そして近隣の病院への情況連絡を色々なメディアで行うと同時に、院内職員の感染管理を徹底すべきである。4)入院患者食の確保:国立大阪南病院でのサルモネラ食中毒に関して、厨房は保健所に届けると同時に閉鎖した。直ちに入院患者給食を数カ所の民間の給食会社に依頼したが、500数十症例の病人食を用意できる所はなく、結局、近畿地方医務局のお世話により、大阪地区すべての国立病院療養所と国立奈良病院に入院患者食の調理、配達を、厨房閉鎖改装の間、お願いした。す
なわち、国立奈良病院、国立療養所刀根山病院、国立療養所千石荘には、給食の応援を、国立大阪病院、国立泉北病院、国立療養所近畿中央病院には、国立大阪南の患者入院給食をそれぞれの自施設で献立、搬送していただいた。その間、民間の病院数施設から、厨房閉鎖の間の入院患者給食はどうされたかの問い合わせが国立大阪南病院に続いたが、民間病院で食中毒の病院内発生をみた場合どうすればよいのか?との問い合わせに答えることが出来なかった。5)食中毒発生時の行政上の問題点:?国立病院としての地方医務局・厚生省への届け出義務;堺市における病原性大腸菌O-157感染症発生時、国立泉北病院への人員の援助、国立大阪南病院・国立大阪病院への一部患者収容のための患者搬送、中毒症による腎不全症例発症時の国立大阪病院への透析依頼等は、全て近畿地方医務局で調整された。如何に国立病院間の行動連携を有効に動かすための厚生省関係への速やかな届け出が必要かが実証された。?保健所への届け出;食中毒発症時は、国立病院は正確な診断のもとに、速やかに所管の保健所に届け出、そして感染ルートの調査に協力、感染の拡大防止、予防に協力する必要があった。?院内発生をみた場合の各都道府県の保険医療局への給食関係保険医療辞退届け;医療を行う施設が、治療食によって患者に新たに疾病を発症せしめたことは、極めて遺憾であり、施設長は、患者の治療を何よりも優先、発生源を根絶することを計ると同時に、その責任上、施設の給食関係の保険医療請求を辞退しなければならない。これを放置すると社会保険庁(都道府県)から、不法医療行為(診療報酬の不法請求)の罪に問われ、後に保険医療機関としての機能停止命令が下されることになる。?院内発症時の患者補償問題;入院中の患者に食中毒院内発生をみた場合、食中毒の診療に要した費用の病院負担は元より、入院期間が長引いたり、この感染症のために要した検査、精神的負担、入院中働けなかったための経費などの補償を、施設は予め設定しておかねばならない。6)病院における予防対策:?調理対策;日常の手洗い、給食材料内容の吟味、食材の管理体制、調理場の清潔管理、調理・配膳時の注意事項、食事摂取のあり方、等の指導体制の継続・維持体制が必要である。?調理師教育;食中毒の医学的知識の教育、院内発生時の事の重大性を認識させる教育の必要があった。元来調理関係者は、感染源等の知識に乏しい場合が多い。定期的な検便の必要性、流水での手洗いの断行、調理場の衛生管理、調理場における水分貯留の厳禁、流行期には火をよく通す調理など、科学的教育の継続が必要である。?健康保菌者の早期発見・院内感染対策;O-157病原性大腸菌は平成8年より全国的に蔓延し、平成9年も患者の発生を見ている。平成8年に大集団発生をみた大阪堺地区の国立泉北病院においては、医療関係者のO-157健康保菌者を定期的にチェック、院内発生を未然に防止している。国立大阪病院でも同様に定期検診により院内発生の防止に勤めている。
結論
1)細菌性食中毒発生時、起因菌の速やかな同定、菌株の鑑別診断は、その治療、以後の発生の予防に極めて重要で、とくに国立病院の検査科は緊急時に備えておかねばならない。2)食中毒集団発生時、その感染ルートの疫学的調査、消毒等の事後発生の防止には、保健所のみならず、その地域自治体と近隣の国立病院は、その発生予防、被害拡大の防止に協力出来る体制が必要と考える。3)感染性食中毒集団発生時、その治療、感染の予防に、患者の収容が必要な場合、近隣の国立病院療養所が中心になって、収容病床の確保に当たらねばならない。4)食中毒の院内感染が疑われ、その病院の厨房が消毒、改装などで閉鎖することが必要な場合、厨房閉鎖の病院の患者食確保に国立病院療養所は協力出来る体制が必要である。5)院内発生などの場合、医療保険上、介護保険上の問題点の処理を怠ってはならない。6)食中毒とくに病原菌O-157、サルモネラ腸炎菌などに関しては、院内感染対策の一つとして、定期的に検便を行い、また従業者に腹部症状をみた場合、保菌者の発見を早期に行い、院内感染予防に寄
与しなければならない。

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