成人T細胞性白血病(ATL)をモデルとしたウイルス感染関連がんに対する革新的治療法の開発(若手医師・協力者活用に要する研究)

文献情報

文献番号
200618003A
報告書区分
総括
研究課題名
成人T細胞性白血病(ATL)をモデルとしたウイルス感染関連がんに対する革新的治療法の開発(若手医師・協力者活用に要する研究)
課題番号
H16-チーム(がん)-若手-017
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所感染免疫研究領域)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 臨床研究基盤整備推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
11,102,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では難治性血液悪性腫瘍である成人T細胞白血病(ATL)に対して骨髄非破壊的移植療法(ミニ移植)の有効性を明らかにすると共にヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)の分子生物学的解析、ウイルスに対する宿主の免疫反応の解析を行うことによって移植療法有効性の分子基盤を解明し、この研究をウイルスによる悪性腫瘍に対する治療法開発のモデルとすることを目的とする。
研究方法
1)HTLV-Iプロウイルスの組み込み部位はinverse PCRによって同定し、腫瘍細胞特異的な検出系を確立した。
2)HTLV-Iプロウイルスのtax遺伝子の全塩基配列を決定した。
結果と考察
1)移植後、早期にドナー由来ATLが発症した症例の解析:再発したリンパ腫型ATL患者にHLA一致同胞(HTLV-I陽性者)からの移植を行った。移植後にATLが再発したが、この時のTリンパ球のキメリズム解析でドナー型であることが示された。組み込み部位を使った腫瘍特異的PCRにより腫瘍細胞の検出を行った所、移植後3週間でATL細胞が出現していることが示された。ドナー体内におけるこのHTLV-I感染クローンの存在を解析したところドナー末梢血単核球中に、このクローンの存在が証明された。この結果より、移植患者でATLとなったHTLV-I感染細胞はドナー体内に存在しており、移植に伴いレシピエント体内に移入されATLとなったことが示された。ATL細胞の解析からプロウイルス内部にDNAメチル化の蓄積を認めた。このためドナー体内にある期間存在していたHTLV-I感染細胞が移植後、早期にレシピエント体内でATLとなったことが示唆された。
2)移植症例の解析:移植症例の内、5’側LTRの欠損した2型欠損型プロウイルスを有するものを同定した。このような場合、組み込み部位によってはゲノムに存在する細胞側遺伝子プロモーターをプロウイルスがトラップしている可能性がある。解析できたケースでは、プロウイルスは細胞側プロモーターをトラップしていなかった。このため本症例ではtax遺伝子の発現はないことが予想された。本症例は移植後にATLを再発していた。
結論
キャリアドナーからの移植によるATL発症例が初めて報告され、今後、キャリアからの移植には十分な注意が必要であることが明らかとなった。また、移植症例の解析からTax発現と予後の相関が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2007-04-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200618003B
報告書区分
総合
研究課題名
成人T細胞性白血病(ATL)をモデルとしたウイルス感染関連がんに対する革新的治療法の開発(若手医師・協力者活用に要する研究)
課題番号
H16-チーム(がん)-若手-017
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所感染免疫研究領域)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 臨床研究基盤整備推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では難治性血液悪性腫瘍である成人T細胞白血病(ATL)に対して骨髄非破壊的移植療法(ミニ移植)の有効性を明らかにすると共にヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)の分子生物学的解析、ウイルスに対する宿主の免疫反応の解析を行うことによって移植療法有効性の分子基盤を解明し、この研究をウイルスによる悪性腫瘍に対する治療法開発のモデルとすることを目的とする。
研究方法
1)HTLV-Iプロウイルスの組み込み部位はinverse PCRによって同定し、腫瘍細胞特異的な検出系を確立した。
2)HTLV-Iプロウイルスのtax遺伝子の全塩基配列を決定した。
結果と考察
1)HTLV-Iプロウイルスの解析
ATLにおけるTax発現抑制機構を明らかにした。ATL細胞におけるプロウイルス解析の結果、5’側LTRを欠くプロウイルスは組み込み前後で形成され、キャリアに比べて頻度が高いことを明らかにした。ATL細胞が抗ウイルス免疫を逃避するように選択されていることが示された。
2)残存ATL細胞の検出
Inverse PCRを用いて組み込み部位を同定することにより腫瘍細胞特異的PCR、定量的PCRを確立した。
3)移植症例におけるHTLV-Iプロウイルスの解析
移植症例の解析から多くの症例ではtax遺伝子変異、5’側LTRのメチル化を認めなかったが、5’側LTRを欠失するプロウイルスを有していたATL1例でプロウイルスは細胞側プロモーターをトラップしていなかった。本症例ではtax遺伝子の発現はないことが予想された。本例は移植後にATLを再発していた。この結果からTax発現自身が腫瘍抗原として働き、腫瘍再発防御に作用していることが示唆された。
4)移植後、早期にドナー由来ATLが発症した症例の解析
移植後ドナー由来ATLを早期に発症した症例を見出した。ドナーはキャリアであり、免疫がATL発症を抑制していることが示された。今後、キャリアドナーからの移植には十分な注意が必要であることが明らかとなった。
結論
ATLに対するミニ移植療法の有効性の分子基盤を明らかにすると共にATL発症における抗ウイルス免疫の重要性を示した。今後、移植症例におけるHTLV-Iプロウイルスの解析を積み重ねることによりウイルス遺伝子発現と予後の関連、移植療法有効性の分子基盤が一層、明らかになるであろう。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200618003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で明らかにしたドナー由来ATLの発症では、HTLV-Iキャリアドナーからの移植でドナー感染細胞が短期間に腫瘍となっている。ドナーではATLの発症は認められず、ドナー体内では免疫系により増殖がコントロールされているHTLV-I感染細胞クローンが移植という免疫抑制状態によってレシピエント体内で短期間に悪性化したことを明らかにした。また移植症例のHTLV-Iプロウイルス解析によってtax遺伝子を発現できない場合に再発が起こり、宿主免疫のTaxに対する効果を示唆する所見が得られた。
臨床的観点からの成果
ATLはウイルス学的・免疫学的解析が進み、その病態が明らかとなったが、治療に関しては、大きな進展が認められていなかった。造血細胞移植は、この予後不良な疾患の根治を目指すことが可能な治療法と期待されるが、その有効性の分子基盤が依然として不明である。本研究によりウイルス遺伝子との関連が明らかになりつつある。この成果は難治性のATLの治療方針決定の際に重要な意義を有するものと考えられる。
ガイドライン等の開発
ATL患者に対する造血細胞移植は、大きな成果を挙げているものの、その適応基準は明らかではない。本研究からHTLV-Iプロウイルスの解析が、その判断基準の一つとなりうる可能性が示された。今後、症例の蓄積により適応基準となることが期待される。
その他行政的観点からの成果
HTLV-I感染者は日本に約100万人存在し、年間1000名がATLを発症していると予想されているが、有効な治療法がない現状であり、造血細胞移植と分子生物学的解析を融合させた本研究は難知性疾患の治療法開発という観点からも行政的に必要なものである。
その他のインパクト
本研究はHTLV-Iの流行地域である日本でしか遂行できない臨床研究であり、世界に向けた情報を発信できる研究になると期待される。また今後、諸外国での治療方針決定の際にも有用な情報を提供できるものと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mitchell MS, Bodine ET, Hill S, etal.
Phenotypic and genotypic comparison of human T-cell leukemia virus type 1 reverse transcriptase from infected T-cell lines and patient samples.
J Virol  (2007)
原著論文2
Miyazaki M, Yasunaga J-I, Taniguchi Y, et al.
Preferential Selection of HTLV-1 Provirus Lacking the 5’LTR during Oncogenesis.
J Virol  (2007)
原著論文3
Tamaki H, Taniguchi Y, Kikuchi A, et al.
Development of adult T-cell leukemia in donor-derived human T-cell leukemia virus type I-infected T cells after allogeneic bone marrow transplantation.
Leukemia  (2007)
原著論文4
Matsuoka M and Kuan-Teh Jeang.
Human T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1) infectivity and cellular transformation.
Nat Rev Can  (2007)
原著論文5
Satou Y, Yasunaga J-I, Yoshida M, et al.
HTLV-I basic leucine zipper factor gene mRNA supports proliferation of adult T cell leukemia cells.
Proc Natl Acad Sci USA , 103 , 720-725  (2006)
原著論文6
Miyazato P, Yasunaga J-I, Taniguchi Y, et al.
De Novo Human T-Cell Leukemia Virus Type 1 Infection of Human Lymphocytes in NOD-SCID, Common gamma-Chain Knockout Mice.
J Virol , 80 , 10683-10691  (2006)
原著論文7
Ahsan MK, Yamaguchi Y, Kim Y-C, et al.
Loss of interleukin-2-dependency in HTLV-I-infected T-cells on gene silencing of thioredoxin-binding protein-2.
Oncogene , 25 , 2181-2191  (2006)
原著論文8
Tamaki H, Matsuoka M.
Donor-derived T-cell leukemia after bone marrow transplantation.
N Engl J Med , 354 (16) , 1758-1759  (2006)
原著論文9
Taniguchi Y, Nosaka K, Yasunaga J-I, et al.
Silencing of human T-cell leukemia virus type I gene transcription by epigenetic mechanisms.
Retrovirology , 2 , 64-  (2005)
原著論文10
Doi K, Wu X, Taniguchi Y, et al.
Preferential selection of human T-cell leukemia virus type I (HTLV-I) provirus integration sites in leukemic versus carrier states.
Blood , 106 , 1048-1058  (2005)
原著論文11
Matsuoka M.
Human T-cell leukemia virus type I (HTLV-I) infection and the onset of adult T-cell leukemia (ATL).
Retrovirology , 2 , 27-  (2005)
原著論文12
Matsuoka M, Jeang K-T.
Human T-cell leukemia virus type I at age 25: a progress report.
Cancer Res , 65 , 4467-4470  (2005)
原著論文13
Taylor G P, Matsuoka M.
Natural history of adult T-cell leukemia/lymphoma and approaches to therapy.
Oncogene , 24 , 6047-6057  (2005)
原著論文14
Yasunaga J-I, Taniguchi Y, Nosaka K, et al.
Identification of Aberrantly Methylated Genes in Association with Adult T-Cell Leukemia.
Cancer Res , 64 , 6002-6009  (2004)
原著論文15
Yoshida M, Nosaka K, Yasunaga J-I, et al.
Aberrant expression of the MEL1S gene identified in association with hypomethylation in adult T-cell leukemia cells.
Blood , 103 , 2753-2760  (2004)
原著論文16
Okayama A, Stuver S, Matsuoka M, et al.
The role of HTLV-1 proviral DNA load and clonality in the development of adult T-cell leukemia in asymptomatic carriers.
Int J Cancer , 110 , 621-625  (2004)
原著論文17
Takeda S, Maeda M, Morikawa S, et al.
Genetic and epigenetic inactivation of tax gene in adult T-cell leukemia cells.
Int J Cancer , 109 , 559-567  (2004)
原著論文18
Satou Y, Nosaka K, Koya Y, et al.
Proteasome inhibitor, bortezomib, potently inhibits the growth of adult T-cell leukemia cells both in vivo and in vitro.
Proteasome inhibitor, bortezomib, potently inhibits the growth of adult T-cell leukemia cells both in vivo and in vitro. , 18 , 1357-1363  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-