胎児発育遅延と血小板活性化因子の関連に関する研究

文献情報

文献番号
199700148A
報告書区分
総括
研究課題名
胎児発育遅延と血小板活性化因子の関連に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
名取 道也(国立大蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 石本人士(済生会神奈川県病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、解明が急がれている胎児発育遅延(IUGR)の発症機序を、我々が開発した虚血再灌流により惹起したラットIUGRモデルにおいて、特に血小板活性化因子(PAF)の関与の観点から明らかにすることである。
研究方法
妊娠S/Dラットを用い、妊娠17日目にハロセン麻酔下に開腹し、血管クリップを用いて子宮血流を30分間遮断した後、開放、閉腹した。その後妊娠21日目に開腹、帝王切開術にて胎仔を娩出し、その体重を計測し、血流遮断側 (右子宮角) と非遮断側 (左子宮角) の間で比較検討した。
またIUGR発症におけるPAFの関与を検討するため血流遮断前にPAF受容体阻害剤であるTCV-309 (0.1 mg/kg) をラットに静注した。なおコントロールは生理的食塩水投与群とした。なお統計学的検討にはWilcoxon rank-sum testを用い、p<0.05をもって有意とした。
結果と考察
非遮断側(右)の子宮角の胎仔体重の平均を100とすると、遮断側(左)の胎仔平均体重は生食投与群(コントロール)で89.2と非遮断側に比べ遮断側が有意の体重減少を認めたのに対し、PAF受容体阻害剤投与群では遮断側(左)の胎仔平均体重は101.5となり非遮断側、遮断側の胎仔体重間に有意差は認められず胎仔 IUGR の発症が抑制された。
血小板活性化因子 (PAF) は多岐にわたる生物活性を示す脂溶性メディエーターであり、数多くの生理現象や病態に関与することが明らかとなっている。重要な周産期合併症であるIUGRを伴った妊婦では、血小板のturnoverが早く、また一定の条件下においては血小板凝集能の低下が見られることから、以前より血小板の活性化が指摘され、この過程にPAFの関与が示唆されているが、この点に関する研究はまだほとんどなされていない。一方虚血再灌流傷害のメディエーターとしても、近年、PAFは注目されつつあり、虚血再灌流後の血流量減少の原因と考えられる局所因子との関連においても重要な役割を持つことが明らかとなってきた。我々は最近、ラット子宮胎盤循環の虚血再灌流によりIUGRが発症することを実験的に示し、さらに虚血再灌流後に持続的な子宮血流量の減少が生じることから、この現象が本モデルでのIUGRの発症に至る子宮・胎盤の虚血を招いている可能性を提示した。従って、虚血再灌流傷害の主要なメディエーターであるPAFは、本モデルのIUGR発症にも重要な役割を担っている可能性があるものと考えられた。
本研究においては、既報の方法に従い、妊娠17日目のS/Dラット子宮を虚血再灌流することにより胎児発育遅延 (IUGR) モデルを作製し、このIUGR発症にPAFが関与しているか否かについて検討を行うため、ラット子宮胎盤循環の虚血再灌流に先だってPAF受容体拮抗剤投与を行うと、ラット胎仔IUGRの発症が抑制されるという実験結果を得た。この結果より、本モデルにおけるIUGR発症機序においてPAFが関与している可能性が強く示唆された。
胎児発育遅延(IUGR)の発症機序の解明は周産期医学において重要な課題の一つであるが、実験的検討は未だ進んでいない。IUGRの成因として、以前より子宮・胎盤における虚血が基本的病態として重要視されてきたが、虚血に至る機序の解明は不十分であった。我々はラット子宮胎盤循環の虚血再灌流によりIUGRが発症することを実験的に初めて示し、さらに虚血再灌流後に持続的な子宮血流量の減少が生じることから、この現象が本モデルでのIUGRの発症に至る子宮・胎盤の虚血を招いている可能性を提示した。一方、虚血再灌流傷害のメディエーターとして、近年、血小板活性化因子(PAF)が注目され、虚血再灌流後の血流量減少の原因と考えられる局所因子との関連においても重要な役割を持つことが明らかとなってきた。
本研究で得られた成績は、まだ端緒とはいえ、PAFと関連することが知られる各種メディエーターや諸現象のIUGR発症における役割の解明へ道を開くものと考えられる。実際、予備的検討において、PAFと関連が深い顆粒球組織浸潤が再灌流後の子宮に認められることから、PAFがどのようにIUGR発症機序に関わっているのかについて、今後、関連した事象である内皮-顆粒球接着や顆粒球組織浸潤の観点からの検討が必要であろうと思われる。
結論
我々が開発した子宮の虚血再灌流により惹起したラットIUGRモデルにおいて、PAF受容体阻害剤を血流遮断前に投与しておくとIUGRの発症が抑制された。これは、本モデルのIUGR発症機序におけるPAFの関与を強く示唆するものと考えられる。

公開日・更新日

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