微生物からみた院内環境

文献情報

文献番号
199700147A
報告書区分
総括
研究課題名
微生物からみた院内環境
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
那須 正夫(大阪大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 石本章子(大阪大学医学部)
  • 岩間昭男(日東電工株式会社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗生物質の不適切な使用にともなう耐性菌の出現および院内感染が医療現場での大きな問題となってきた。院内感染の解決には抗生物質の使用方法、使用量に十分な注意を払うとともに、微生物汚染を迅速に検出する必要がある。しかしながら、従来の培養法では検出までに数日を要するためにリアルタイムで細菌数を知ることができない、あるいは培養困難な微生物の検出が難しいという問題があった。
そこで、本研究ではこれまでに当研究グループが開発した粘着転写集菌法を応用し、迅速かつ簡便な院内環境の微生物学的評価法の検討を目的とした。
研究方法
粘着転写法の実験操作をより簡便にするために、プラスチックバイアル、ポリエチレンフォームおよび水溶性粘着剤からなる粘着パッド容器を作成した。そして本使用した水溶性粘着剤の集菌効率を定量的に評価した。実験にあたっては、大腸菌を塩化ビニール板の上に一定量塗布し、風乾後複数回粘着転写を行い、塩化ビニール板上に残った細菌数を蛍光顕微鏡下で直接計数した。
次に粘着パッド容器とSLP試薬を用い固体表面上の細菌量とペプチドグリカン量の関係を求めた。実験にあたっては、先の集菌効率の測定と同様に一定量の大腸菌を塩化ビニール板の上に塗布し、風乾後5回粘着転写することで、塩化ビニール板上の菌体を容器に捕集した。容器中に一定量の注射用蒸留水を加え、激しく撹拌することで大腸菌を回収し、得られた菌けん濁液中のペプチドグリカン量をSLP試薬により測定した。
さらに粘着パッド容器とSLP試薬を用い、ナースステーションに設置されているプロセステーブルの微生物汚染について調査した。またガーゼを用いたふき取り操作によるテーブルの除菌効果の評価をした。なお同時にフードスタンプ法およびふき取り法により生菌数および全菌数計測を行なった。
結果と考察
N-ビニルピロリドンと2-メトキシエチルアクリレートの共重合体と平均分子量400のポリオキシプロピル化グリセリンを10:2の比率で混合した水溶性粘着剤をポリエチレンフォーム表面に塗布した粘着パッドを5回圧着することで、固体表面上の約70%の細菌を回収できた。
粘着パッド容器とSLP試薬を用い固体表面上のペプチドグリカン量と細菌数との関係を求めたところ、10 cm2あたり105個以上の細菌が存在する場合には検出されたペプチドグリカン量と細菌数の間に正の相関が見られた。しかしながら細菌数が104個/cm2以下では両者の間に相関性は見られなかった。
粘着パッド容器とSLP試薬を用いナースステーション(12か所)に設置されているプロセステーブルの微生物学的調査を行なったところ、部屋およびテーブルの部位の違いにより微生物汚染の度合いが異なることが分かった。
さらに清掃効果を評価するために滅菌ガーゼと滅菌水および消毒用アルコールによるふき取りを行なったのち、同様の調査を行なったところ、ほとんどの箇所でペプチドグリカン量は検出限界以下となり、ふき取りによる清掃効果が確認された。しかしながら同時に行なったフードスタンプ法およびふき取り法による生菌数および全菌数計測では、定量性のある結果が得られなかった。
今回検討した粘着パッド容器とSLP試薬を組み合わせた手法は、これまで当グループが検討してきた転写集菌法の実験操作をより簡便にし、さらに微生物汚染の定量的評価を可能なものとするものである。
大腸菌を用いた定量性の検討において、固体表面上に10 cm2あたり105個以上の細菌が存在する場合にはグリカン量と細菌量の間に正の相関が見られ、またナースステーションに設置されているプロセステーブルの微生物学的調査および清掃効果の評価において、設置された部屋および同一テーブル表面の部位の違いによる微生物汚染の度合いの相違、またふき取りによる清掃効果を明確に示すことができた。同時に行なった従来法による生菌数および全菌数計測では、定量性のある結果が得られなかったのに対し、本方法では微生物汚染を定量的に解析でき、微生物汚染を評価するうえでSLP試薬を用いた本方法が有効なものであった。
固体表面上の細菌数が104個/10 cm2以下では菌数と回収されたペプチドグリカン量の間に相関性は見られなかったが、これは容器自体に付着していた微生物の影響によるものと考えられる。したがってより厳密な微生物管理が求められる場合には、熱処理が可能なガラスバイアル等を使用することでより高感度な定量が可能になるものと期待される。
今後より本手法によるより広範囲な調査・研究を行なうことにより日和見感染・院内感染の防止に関する基礎的知見を集積することが期待できる。
なお上記の結果は、第13回日本環境感染学会(1998年2月21日:東京プリンスホテル)で発表した。
結論
日常的な院内環境の微生物モニタリングを可能とするために、粘着パッド容器とSLP試薬を組み合わせた手法を開発し、その有効性を評価した。その結果この手法を用いることによって、従来法と比べて極めて迅速かつ簡便に微生物汚染を評価ことができた。

公開日・更新日

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