Toll様受容体(TLR3)を介したミクログリア活性化機序の解明と脳炎治療薬開発のためのハイスループット試験系への応用

文献情報

文献番号
200614075A
報告書区分
総括
研究課題名
Toll様受容体(TLR3)を介したミクログリア活性化機序の解明と脳炎治療薬開発のためのハイスループット試験系への応用
課題番号
H16-創薬-091
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中道 一生(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢神経系における免疫システムでは、常在型のマクロファージ様細胞であるミクログリアが中心的かつ多彩な役割を担う。近年、ミクログリアの活性化が脳の恒常性維持において必須である反面、過剰な炎症応答は神経細胞等のダメージを誘発し、様々な神経疾患の重篤化に繋がることが知られている。前年度までの本研究では、ミクログリアを指向する抗炎症剤を細胞レベルで探索するための試験系を開発した。本年度では、「抗炎症剤の有効性を生体レベルで評価するための脳炎動物モデルを確立する」ことを目的として研究を行った。
研究方法
C57BL/6J系統マウスを脳定位固定装置に固定した後、脳座標に従って脳室内カテーテルを挿入し、炎症誘導物質であるpoly(I:C)を微量投与した。もしくは、大腿部に狂犬病ウイルス固定毒株(病原性を減弱させた実験室株)を接種した。各群のマウスに血管内灌流による脱血処置を施した後、全脳を摘出し、大脳および間脳、脳幹、小脳からRNAを抽出した。逆転写反応によってcDNAを合成し、ウイルスゲノムに由来するcDNAをリアルタイムPCR法により定量した。また、脳の各部位における炎症関連遺伝子群の発現プロファイルを同様の手法により解析した。
結果と考察
炎症誘導物質を脳内に微量投与した場合、炎症関連遺伝子の発現レベル自体は増加するが、①各領域における誘導性に相違がある、②組織損傷の可能性がある、③外科手術において煩雑かつ長時間の作業を要する、等の課題から、薬剤評価系としてのハイスループット化には限界があると判断した。一方、弱毒化した狂犬病ウイルス固定毒株を大腿部に接種した場合、①神経接続を介して脳特異的にウイルスが伝播すること、②脳の各領域において高いレベルの炎症応答が誘導されること、③体重減少や麻痺等の症状によって脳炎の程度を把握できること、が分かった。固定毒株は一般的な感染実験施設において取り扱いが可能であり、1匹あたり数十秒の作業によって迅速かつ簡便に脳炎を誘導できるため、本ウイルスを用いた脳炎動物モデルは抗炎症剤の有効性を評価するための基盤的技術となり得る。
結論
病原性を減弱させた向神経性ウイルスがマウスの脳において効率よく炎症を誘導する性質を応用し、抗炎症剤の有効性を生体レベルで評価するための迅速かつ簡便な脳炎動物モデルを確立した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200614075B
報告書区分
総合
研究課題名
Toll様受容体(TLR3)を介したミクログリア活性化機序の解明と脳炎治療薬開発のためのハイスループット試験系への応用
課題番号
H16-創薬-091
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中道 一生(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ミクログリアは脳に常在するマクロファージ様の免疫細胞である。ミクログリアの過剰な炎症応答は神経破壊を誘発するため、様々な脳疾患における創薬のターゲットとして注目されている。本研究は、「ミクログリアの炎症応答を標的とした創薬技術の確立」を目的とする。平成16年度および17年度では、新規の不死化細胞を基盤として、ミクログリアに対する抗炎症剤の影響を細胞レベルで解析するための試験系を開発した。平成18年度では、抗炎症剤の有効性を生体レベルで評価するための脳炎動物モデルを確立した。
研究方法
初代培養ミクログリアに由来する不死化細胞株MG6-1をTLR3リガンドであるPoly(I:C)を用いて刺激し、形態レベルおよび分子レベルにおける炎症応答(細胞形態の変化、細胞骨格構造の再構築、炎症関連遺伝子の発現、細胞内シグナル伝達)を包括的に解析した。また、様々な抗炎症剤の存在下においてMG6-1細胞を刺激し、上記の解析に供した。脳炎マウスモデルの解析では、脳室内にPoly(I:C)を微量投与した個体群、および大腿部に狂犬病ウイルス固定毒株(病原性を減弱させた実験室株、BSL2)を接種した個体群から脳を採取し、炎症関連遺伝子群の発現プロファイルを比較した。
結果と考察
Poly(I:C)刺激したMG6-1細胞では、1) 細胞骨格が再構築されることでアメーバ型の活性化細胞へ変化すること、2) 炎症関連遺伝子の発現量が顕著に増大すること、3) NF-kBおよびMAPKを介したシグナル経路が鋭敏に活性化すること、が分かった。また、これらの応答をマーカーとして、ミクログリアに対する薬剤の作用点を多面的に解析するための試験系を構築し、創薬技術としての有用性を示した。加えて、他の脳炎モデル動物と比較した場合、ウイルスを接種したマウスでは、1) 脳の各領域において効率的に炎症が誘導されること、2) 体重や神経症状等によって脳炎の程度を容易に把握できること、が分かった。本動物モデルは、一切の外科的処置を施すことなく数十秒の接種のみによって脳炎を誘導できるため、多数の候補物質を対象とした有効性評価において有用であると考えられる。
結論
新規の不死化細胞株を基盤として、ミクログリアに対する脳炎治療薬候補物質の作用を多面的に解析するための試験系を開発した。また、薬剤の有効性を生体レベルで評価するための簡便な脳炎動物モデルを確立した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614075C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ミクログリアの過剰な活性化は脳疾患の重篤化に深く関与する。ミクログリアの培養や維持における課題(専門的な手技ならびに長期間の培養等)を解決するため、新たに樹立された不死化細胞株(MG6-1細胞)の性状解析を行った。また、MG6-1細胞がToll様受容体3(TLR3)リガンドに対して鋭敏に応答する性質を応用し、ミクログリアの活性化を多面的に調べるための試験系を確立した。さらに、抗炎症剤の有効性評価のための簡便な脳炎動物モデルを構築した。研究によって得られた成果を国際的な学術専門誌において発表した。
臨床的観点からの成果
ミクログリアの炎症応答が関与する疾患としては、アルツハイマー病やパーキンソン病、多発性硬化症、ウイルス性脳炎等が挙げられる。また、血管障害や頭部外傷における炎症においてもミクログリアの活性化が深く関与することが知られている。これらの知見は、ミクログリアの活性化を一時的に抑制する薬剤が脳疾患治療薬として有効であることを意味する。本研究によって確立した試験系は、ミクログリアを指向する脳疾患治療薬の開発における有用な薬剤評価技術となり得る。
ガイドライン等の開発
特記事項なし。
その他行政的観点からの成果
特記事項なし。
その他のインパクト
特記事項なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamichi K, Saiki M, Sawada M, et al.
Double-stranded RNA stimulates chemokine expression in microglia through vacuolar pH- dependent activation of intracellular signaling pathways.
Journal of Neurochemistry , 95 (1) , 273-283  (2005)
原著論文2
Nakamichi K, Saiki M, Sawada M, et al.
Rabies virus-induced activation of mitogen-activated protein kinase and NF-kappaB signaling pathways regulates expression of CXC and CC chemokine ligands in microglia.
Journal of Virology , 79 (18) , 11801-11812  (2005)
原著論文3
Nakamichi K, Saiki M, Kitani H, et al
Suppressive effect of simvastatin on interferon-beta-induced expression of CC chemokine ligand 5 in microglia.
Neuroscience Letters , 407 (3) , 205-210  (2006)
原著論文4
Nakamichi K, Saiki M, Kitani H, et al.
Roles of NF-kappaB and MAPK signaling pathways in morphological and cytoskeletal responses of microglia to double-stranded RNA.
Neuroscience Letters , 414 (3) , 222-227  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-