文献情報
文献番号
200614074A
報告書区分
総括
研究課題名
腎不全の進展・増悪因子の解明と腎機能保護法の開発に関する研究
課題番号
H16-創薬-090
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
増田 智先(京都大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢者を含めた腎機能低下患者では、薬物の腎排泄能の低下から薬剤性腎障害発症のリスクが潜在的に高い。これまで、糸球体濾過能に着目した薬物使用が行われてきたが、尿細管分泌能の指標となる分子生物学的マーカーが不足しており、予期せぬ副作用の発現が問題とされてきた。そこで本研究では、慢性腎不全モデルラットを用いて経時的な腎病変の進展を分子レベルで明らかすることを目的とした。
研究方法
慢性腎不全モデル動物として5/6腎摘出ラットを、シスプラチンを用いた薬剤性腎障害ラットを使用した。左腎を実体顕微鏡下で尿細管分節の形態的特徴に着目し、10種の分節に単離した。DNA Chipによる遺伝子発現解析用としては、糸球体は50個、尿細管は20mm、小腸粘膜は10mgを1サンプルとした。
結果と考察
DNA Chipによる発現解析の結果、慢性腎不全下の小腸では、遺伝子発現の変化に対してインスリンが関与すること、whole kidneyと近位尿細管の比較から、近位尿細管の単離は糸球体や浸潤リンパ球などに発現する遺伝子等ノイズの排除可能なことが判明した。そこで、5/6腎摘出1、2、4、8週間のラット残存腎由来近位尿細管を試料としてGene Chip解析を行った結果、約10,000遺伝子が有意に検出され、7クラスターに分類することができた。一方、シスプラチンを用いた薬剤性腎障害の検討では、炎症性サイトカインヤケモカインの発現量が著明に増大していた。これらの結果は、これまでのwhole kidneyを用いた検討では見落とされてきた重要遺伝子の発現変化の発見に繋がることが示唆された。本研究では、カチオン性薬物の尿細管分泌を媒介するMATE1をラット腎より、MATE2-Kをヒト腎より単離することができた。輸送実験の結果から、オキサリプラチンはhMATE2-Kによる積極的な尿細管分泌を受けることによって、シスプラチンに比べ低腎毒性であることが見出された。さらに、5/6腎摘出ラットを用いた検討では、慢性腎不全時においてrMATE1の発現量低下に加えNa+/H+アンチポータNHE3も減少し、カチオン性薬物の尿細管上皮細胞内への蓄積による薬剤性腎障害発現に繋がることが示唆された。
結論
慢性腎不全の進展に関わる病期特異的、細胞特異的なマーカー候補遺伝子の抽出に成功した。さらに、新しい有機カチオントランスポータhMATE2-K、rMATE1の単離にも成功し、オキサリプラチンの腎低毒性に関する分子機構の解明を行うことができた。これらの成果は、薬剤性腎障害の克服と予防を念頭にした腎保護法開発のための有用な基礎情報になると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2007-04-12
更新日
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