病院ボランティアの現状とその保健医療における役割に関する調査

文献情報

文献番号
199700146A
報告書区分
総括
研究課題名
病院ボランティアの現状とその保健医療における役割に関する調査
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中山 博文(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
  • 後籐淑子(国立大阪病院)
  • 高羽津(国立大阪病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 今日まで我が国における病院ボランティアに関する調査は少なく、本研究の目的は、基礎調査としてその現状を明かにし、加えて医療に与える影響を多角的に調査分析することである。
研究方法
 基礎調査として、現状については、全国の大学病院と臨床研修指定病院を対象とした郵送アンケートによって調査した。
医療に与える影響については、国立大阪病院のボランティア、患者、職員を対象とした調査によって分析した。国立大阪病院は大阪市の中心部に位置するベッド数710床の病院で、1997年1月27日からボランティアが外来案内、初診・再診手続の介助活動を開始し、更に同年5月から入院案内(入院時の医事課から病棟までの案内)サービスも開始した。継続的に活動をしているボランティアは約70名で、平日は毎日、主として午前9時から11時の間を活動時間としている。
国立大阪病院におけるボランティア受けの経緯は、平成8年11月からは職員へのオリエンテーションおよびボランティアの募集を開始し、1月中旬までに病院の全部門へのオリエンテーションを終了している。募集にあたっては、NHKラジオ・テレビ等のご協力をいただき、多数の応募があった。応募したボランティアは、面接・オリエンテーションを経た上で平成9年1月27日から活動を開始した。
国立大阪病院へのボランティア導入6カ月後にあたる平成9年7月、患者、ボランティア、職員を対象としたボランティアに関するアンケート調査を行い、ボランティア導入が与える影響について分析した。
結果と考察
基礎調査結果
アンケートを郵送した439病院のうち333病院から回答を得た。分析対象となった病院の内訳は、大学病院38%、国立病院・療養所10%、地方自治体病院22%、その他30%であった。
ボランティアの導入状況は、導入済み43%、導入検討中23%、未導入・未検討34%であった。導入状況には病院のカテゴリーによる相違が見られ、大学病院では導入済みが31%であるのに対し、国立病院は38%、地方自治体立病院では51%、その他の病院では54%であり、大学病院と国立病院におけるボランティア導入率の有意な低さが認められた(Chi-square test検定, p<0.01)。
すでに導入済みの病院において、平均導入期間は9.6年で、導入一年以内が10%、2年以内が24%で、多くの病院は最近ボランティア受入を開始していた。
規模については、登録ボランティア数40名以下が77%を占め、大半が小規模であることが明らかになった。
導入目的については、55%の病院が患者サービスの向上、18%が地域社会への社会貢献の機会の提供、9%が病院の人手不足解消を掲げ(複数回答可)等の目的が挙げられていた。
主な活動内容は、外来案内を行っている病院は55%、入院患者の話相手は36%、衛生材料作りは36%、入院小児患者の遊び相手は34%、入院時の病棟までの案内は18%、入院患者に対する院内案内、移動介助は29%、入院患者のADL(日常生活動作)介助は26%、図書貸出は22%、入院患者の買い物代行、手紙の代筆等は15%、配茶、配膳は13%、事務補助は8%、入院患者の理容は8%であった(複数回答可)。
募集方法は、ボランティアセンターを利用している病院が25%、病院内掲示が15%、市町村広報が14%、新聞・ラジオが10%で、その他には口コミ、大学への募集案内等があった。
ボランティアの問題点としては、次の点が指摘されていた。病院職員のボランティアに対する意識の低さを指摘した病院は27%で、25%がボランティア人数の少なさを、13%が定着するボランティアの少なさを指摘していた。患者とのトラブルを挙げたところは1%しかなかった(複数回答可)。但し、病院のボランティアに対する評価は86%の病院がが肯定的であった。
評価調査結果
外来患者94名、ボランティア62名、病院職員156名から回答を得た。
A. 患者を対象としたアンケート
1. 病院ボランティアに対する意見
約半数がボランティア活動を知っていると答えた。90%の回答者は病院にボランティアがいる方が良いと答えた。ボランティア導入による病院の患者サービスの変化について、70%は改善した、4%は変化なし、26%は導入前を知らないので比較できないと答えた。
当院のボランティア活動を知っていると答えた患者において、40%の患者は今後の活動の拡大を、56%は現状維持を、4%の患者は縮小・廃止を希望した。
B. ボランティアを対象としたアンケート
ボランティア募集を何によって知ったかについてはラジオ・テレビが多く、両者で6割を占めた。満足度については79%が満足しており、高齢者ほど満足度が高かった。82%の回答者は今後の活動内容の拡大を希望していた。ボランティア活動に対する自己評価は、90%が肯定的評価をしており、問題点(職員の態度等)を挙げたの8%であった。
C. 職員を対象としたアンケート
ほぼ全員の職員が当院でのボランティア活動について知っていた。63%は実際のボランティア活動が開始された1997年1月27日以前から知っていた。
ボランティアの効果として、患者へのきめ細かいサービス(62%)、外来のアメニティの改善(48%)、地域社会への貢献(49%)、地域社会との交流(36%)、職員が本務に専念出来た(26%)、職員の接遇態度の向上(23%)等が挙げられていた。
問題点については、20%の回答者が患者からの苦情(案内間違い等)、患者の秘密侵害のおそれ等を指摘していた。
今後の活動に関しては、71%の回答者が拡大を望んでいた。
職員のボランティア観に関しては、実際にボランティア活動を知る以前は肯定的な見方が73%、中立的見方が23%、否定的見方が4%であった。ボランティア活動を知った後は有意な変化が生じ、否定的見方の職員はいなくなり、94%が肯定的見方をし、6%が中立的見方を持つようになった。
考察
本調査により始めて病院ボランティアの全国的な状況が明らかになり、さらには、患者、職員、ボランティア自身による多角的評価が得られた。
まず第一に現状については、返答を得た教育病院の約4割において、既に病院ボランティアが導入されていることが明らかになった。その大半の規模は小さく、最近2年以内に導入したところが多かった。主な導入目的は患者サービスの向上であり、大きな問題点は病院職員のボランティアに対する認識の低さであり、病院のボランティアに対する評価は大半が肯定的であった。教育病院のなかでも大学病院における導入率が他の病院に比して低く、国立病院はそれについで低かった。今後大学病院および国立病院における導入を促進することと、職員の意識改革の必要性が示唆された。
第二に国立大阪病院を対象としたボランティアに関する多角的評価については、患者を対象としたアンケートから、患者による評価が高いことが明らかになった。
ボランティアを対象としたアンケートからは、ほとんどのボランティアが活動に満足しており、高齢者ほど満足しているボランティアの比率が高いことが明らかになった。自己評価としては、他者の役にたっているという満足感、生き甲斐等の肯定的評価が多く、多くのボランティアが今後の活動の拡大を望んでいることが明らかになった。ボランティアが当院での募集を知ったのはラジオ、テレビが多く、募集におけるマスコミの利用の重要性が明らかになった。
職員を対象としたアンケートからは、職員のボランティアに対する認知度が高く、半数以上が活動を開始する前から知っており、これは職員向けに行われたオリエンテーションの効果と思われた。ボランティアのもたらす効果については、患者に対するきめ細かいサービスや外来アメニティの改善、地域社会への貢献を挙げる職員が多かった。問題点については20%の職員が指摘していたが、その主な内容は、案内間違い等で、多くの職員が今後の活動の拡大を望んでいた。
職員のボランティア観については、実際にボランティアを知る以前から肯定的な見方が多かったが、実際に知ることによってそれは有意に改善し、ほとんどの職員が肯定的になり、否定的見方がなくなった。
結論
1. 全国の大学病院と臨床研修指定病院を対象とした郵送アンケートによって我が国における病院ボランティアの現状を明かにした。
2. 1997年1月から病院ボランティアを導入した国立大阪病院のボランティア、患者、職員を対象とした調査によって病院ボランティアが医療に与える影響について多角的に評価した。
3. 我が国の教育病院において、もはや病院ボランティアは決して特殊なものではなく、小規模ではあるが広範に認められるものであり、最近急速に普及しつつあることが明らかになった。
4. 国立大阪病院のボランティア、患者、職員を対象とした調査により、病院ボランティアの導入が、患者サービスを向上し、ボランティアに満足をもたらし、職員のボランティアに対する評価を高め、患者、ボランティア、職員のいずれにおいても多くが今後の活動の継続・拡大を望んでいることが明らかになった。

公開日・更新日

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