ヒト胎盤組織を用いた薬物の胎児移行性及び胎児毒性の定量的評価

文献情報

文献番号
200614072A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト胎盤組織を用いた薬物の胎児移行性及び胎児毒性の定量的評価
課題番号
H16-創薬-086
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
澤田 康文(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大谷壽一(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 堀 里子(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 月森 清巳(九州大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎盤灌流法によりパロキセチンの経胎盤移行動態を解明するとともに、昨年度までに求めた NSAIDs の経胎盤透過パラメータに、胎児動脈管収縮の既報データを併せて薬物動態学的解析を加えることで、ヒトにおける胎児動脈管収縮を予測することを目的とした。また、ヒト胎盤組織、単離トロホブラスト細胞ならびに各種の胎盤絨毛癌由来培養細胞で、既知11種のOATPsアイソフォームの発現の有無を確認することとした。さらに、単離トロホブラスト細胞の分化・増殖調節や培養日数の経過に伴う OATPs の発現変動についても検討した。加えて、MCTs の輸送特性についても検討した。
研究方法
サリチル酸、ジクロフェナクならびにアンチピリンの胎盤灌流の結果と既報の動物実験の結果を薬物動態・動力学的に統合解析し、ヒトにおいて母親が常用量の NSAIDs を経口服用した後の、胎児動脈管収縮作用の経時推移を推定した。ヒト胎盤灌流実験法により、パロキセチンの胎児移行性を評価した。ヒト胎盤組織、単離トロホブラスト細胞ならびに各種絨毛癌由来培養細胞における OATPs の発現を RT-PCR 法により解析した。単離トロホブラスト細胞の分化・成長に及ぼす培養条件の影響を検討した。MCT1 及び MCT4 の輸送能をアフリカツメガエル卵母細胞外来遺伝子発現系を用いて評価した。
結果と考察
アンチピリンやサリチル酸は、妊婦が常用量摂取してもほとんど動脈管収縮を引き起こさないと推定されたのに対して、ジクロフェナクは、妊婦が常用量摂取した場合、胎児において動脈管収縮を引き起こす可能性が高いと予測された。また、パロキセチンのTPTss 値は 0.8% 程度と、過去に検討した 3 種の NSAIDs と比較して小さかった。絨毛癌由来培養での OATPs の発現プロファイルはヒト胎盤組織とは異なっていたことから、培養細胞を用いた評価結果の解釈にあたっては注意が必要と考えられた。また、単離トロホブラスト細胞における一部の OATPs の発現は、培養日数の経過とともに様々に変化していた。サリチル酸、イブプロフェン、バルプロ酸はどれも MCT1、MCT4 いずれの基質にもならなかった。したがって、これら薬物の胎児移行には、MCT1 や MCT4 の寄与は小さいかもしれない。
結論
本研究の成果は、薬物の胎盤透過及び胎児移行性を評価する上で有用な知見と方法論を提供するものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200614072B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト胎盤組織を用いた薬物の胎児移行性及び胎児毒性の定量的評価
課題番号
H16-創薬-086
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
澤田 康文(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大谷 壽一(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 堀 里子(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 辻本 雅之(京都薬科大学)
  • 月森 清巳(九州大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物の有害反応の中でも、胎児毒性は最も注意しなければならない毒性の一つだが、現在臨床上使用されている薬物のほとんどは、妊婦に投与した場合、胎児に対する安全性が保証されていない。本研究では、ヒト胎盤を活用した胎盤灌流実験、胎盤由来膜小胞での輸送実験、並びに胎盤由来培養細胞系での輸送実験などを行うとともに、分子生物学的手法も併用して、薬物の胎児移行性を定量的に評価するための方法論を構築し、評価することを目的とした。
研究方法
ヒト胎盤灌流は、母体側薬物灌流実験、胎児側薬物灌流実験及び washout 灌流実験の三種のプロトコルで行った。薬物としてはアンチピリン、サリチル酸、ジクロフェナク、パロキセチンを検討対象とした。灌流液中及び組織中の薬物濃度推移を測定し、新規に構築した薬物動態モデルを測定結果に当てはめてキネティックパラメータを算出した。このパラメータを用いて、妊婦に NSAIDs を投与した際の胎児毒性を薬物動態・動力学的手法により予測した。
胎盤、単離トロホブラスト細胞、ヒト胎盤絨毛癌由来培養細胞における OATs, OATPs, MCTs の発現を RT-PCR 法により確認した。OAT4 の発現局在を Western blot 法により評価した。単離トロホブラスト細胞の調製、培養の条件を検討するとともに、細胞の培養経過に伴う OATPs の発現変動を realtime PCR 法により評価した。ヒト OAT4, OATP-B, MCT1, MCT4 の機能を、遺伝子導入安定発現細胞または卵母細胞外来遺伝子発現系を用いて評価した。
結果と考察
アンチピリン、サリチル酸、ジクロフェナク、パロキセチンの TPTss 値はそれぞれ 6.94%, 4.13%, 2.22%, 約 0.8% であった。ヒト胎盤灌流実験系により得られたパラメータと、妊娠ラットを用いた薬物動態試験及び胎児毒性試験の結果を統合解析することで、ヒトにおける薬物の胎児毒性の経時的プロファイルを定量的に予測できる可能性が示された。胎盤には、有機アニオンを輸送すると考えられている多くの薬物輸送担体の発現が確認された。また多くの薬物が多くの輸送担体の基質や阻害剤となる可能性が示された。一方、胎盤透過の評価に頻用されている培養細胞系では、OATPs や MCTs の発現プロファイルがヒト胎盤組織とは異なっていたことから、培養細胞を用いた評価結果の解釈にあたっては注意が必要と考えられた。
結論
本研究により、薬物の胎児移行性を評価する上で有用な知見や方法論が提供できたと考える。

公開日・更新日

公開日
2007-04-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614072C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト胎盤灌流実験法に薬物動態・動力学的解析の手法を導入することで、薬物の経胎盤透過機構を定量的に評価することを可能にするとともに、その結果をもとに薬物の胎児毒性を予測する方法論を構築した。また、薬物の経胎盤透過機構解明へのヒト胎盤組織の利用を確かなものにした。さらに、主にアニオン性薬物の胎盤透過にかかわる分子生物学的機構の一部を詳細に解析し、薬物の胎児移行メカニズムの解明に資することができた。
臨床的観点からの成果
特に妊娠末期における薬物の胎児毒性については、良好な評価系がなかった。本研究では、胎児毒性を規定する要因の一つである薬物の胎盤透過性を定量的に評価するための方法論を確立した点、ならびにその成果に薬物動態・動力学的解析手法を応用して薬物の胎児毒性を in vitro 実験から評価するための方法論を提唱できた点が、新薬開発研究や育薬研究に貢献できる成果と思料される。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
2006 年度東京大学薬学部先端創薬科学講座セミナーコースにて製薬企業の研究者等に対して結果を講演し、研究成果を還元した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
関連論文を含む
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
直接に関係のある内容のみの件数。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
2006 年度東京大学薬学部先端創薬科学講座セミナーコースにて製薬企業の研究者等に対して結果を講演し、研究成果を還元。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
K. Shintaku, Y. Arima, Y. Dan et al.
Kinetic analysis of the transport of salicylic acid, an NSAID, across human placenta.
Drug Metabolism and Disposition , 35 (5)  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-