ヒト型遺伝毒性試験系の開発とそのバリデーション

文献情報

文献番号
200614064A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト型遺伝毒性試験系の開発とそのバリデーション
課題番号
H16-創薬-077
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 有(八戸工業高等専門学校・物質工学科)
  • 築舘 一男(エーザイ株式会社・研究開発本部)
  • 岡 宏昭(大鵬薬品工業・安全性研究所)
  • 高崎 渉(三共株式会社・安全性研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
1,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト培養細胞、ヒト代謝系を基礎とし、遺伝毒性の発現メカニズムを考慮した最適なエンドポイント(コメット試験(COM)、小核試験(MN)、チミジンキナーゼ遺伝子をターゲットとした遺伝子突然変異試験(TK))の組み合わせからなるヒト型in vitro遺伝毒性試験法を構築し、そのバリデーションを行うことを目的とする。本年度は主としてヒト肝臓由来S9の有用性を、ラットのそれと比較した。また、最終年度であることから、本ヒト型試験の最終評価を行う。
研究方法
細胞としてヒトリンパ芽球細胞株WTK-1を用い、代謝系として、ラット非誘導S9、ラット誘導S9、ヒトプールS9、ヒト高活性S9(lot#HLS-059)を用いた。遺伝毒性のエンドポイントとしては、COM、MN、TKを選択した。主として17の代謝活性化を必要とする化学物質について試験を行った。ヒトリンパ芽球細胞株TK6を用いた試験結果については既存の遺伝毒性、発がん性データと比較した。
結果と考察
代謝活性化を必要とする17の化合物に関して、2種類のラット肝由来S9と、2種類のヒト肝由来S9を用いて、WTK-1でTK試験を行った。多くの化合物はラットS9の系と同程度の反応性を示したが、いくつかの化合物(芳香族炭化水素、ヘテロサイクリックアミン)は、ヒトS9ではほとんど遺伝毒性を示さなかった。また、ヒトS9で特に強い遺伝毒性を示すものもあった(2-AA)。概して、ヒト型試験系はヒトでの発がん性のポテンシャルと相関した。TK6細胞を用いたTK試験の検出能力を、同じ遺伝子突然変異試験であるMLA、エームス試験と比較するため非S9系で追加試験を行い、トータル18の試験化合物の結果を比較した。18化合物には6種類のエームス試験陽性物質と、12種類のエームス試験陰性の染色体異常誘発物質が含まれる。6つのエームス陽性物質は、全てTK試験で陽性を示した。全ての化合物に対するTKとエームスの結果の一致率は78%であり、これはMLAの一致率(40%)よりも高かった。MLAは偽陽性率が高いことが懸念されているが、TK6-TKへの代替により、発がん性との相関性の高いヒト型試験になりうることが示された。
結論
本ヒト型試験系は、人に対する発がん、遺伝毒性のリスク評価に有用であると考えられる。新たな遺伝毒性試験系として、人に対する安全性を担保しうる試験系であり、今後医薬品開発に利用できる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200614064B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト型遺伝毒性試験系の開発とそのバリデーション
課題番号
H16-創薬-077
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 有(八戸工業高等専門学校・物質工学科)
  • 築舘 一男(エーザイ株式会社・研究開発本部)
  • 大内田 昭信(大鵬薬品工業・安全性研究所)
  • 岡 宏昭(大鵬薬品工業・安全性研究所)
  • 高崎 渉(三共株式会社・安全性研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト培養細胞、ヒト代謝系を基礎とし、遺伝毒性の発現メカニズムを考慮した最適なエンドポイント(コメット試験(COM)、小核試験(MN)、チミジンキナーゼ遺伝子をターゲットとした遺伝子突然変異試験(TK))の組み合わせからなるヒト型in vitro遺伝毒性試験法を構築し、そのバリデーションを行うことを目的とする。最終的に新たな試験法として国際的に認知させ、医薬品や、化学物質の安全性確保のための行政活動に反映させることを目指す。
研究方法
細胞としてヒトリンパ芽球細胞株TK6、WTK-1を用い、ヒト代謝系として、ヒトプールS9、ヒト高活性S9(lot#HLS-059)からなる、in vitro系を構築した。COM、MN、TKをエンドポイントとして、14の代謝活性化と必要としない化学物質、17の代謝活性化を必要とする化学物質について試験を行い、既存の遺伝毒性試験結果と比較して評価を行った。
結果と考察
代謝活性化を必要としない14の染色体異常誘発物質についてTK6、WTK-1両細胞を用いて試験した。14化合物には4種類の典型的遺伝毒性物質と、10種類のエームス試験陰性の染色体異常誘発物質が含まれる。4つの遺伝毒性物質は、両細胞の3つのエンドポイントで明らかな陽性を示したが、10の染色体異常誘発物質の遺伝毒性は、細胞、および試験系によって異なる反応性を示した。全体的には、MNが最も感度の高いエンドポイントであり、また、WTK-1はTK6より陽性と判定しやすい傾向にあった。TK6とWTK-1の違いは、p53の状態の違いを反映しているものと予想される。代謝活性化を必要とする17の化合物には4つのヒトに対する発がん物質(Group1)、10の齧歯類発がん物質(Group2)が含まれる。本ヒト型試験系ではGroup1をほとんど陽性と判定できたが、Group2のいくつかは陰性を示した。また、Group2にはヒトS9の系で特に強い陽性反応を示すものがあった。
結論
本試験系は、ヒト型遺伝毒性試験系として、人に対する安全性を担保しうる試験系であり、今後医薬品開発に利用できる。今後、国際的に認知させ、医薬品や、化学物質の安全性確保のための行政活動に反映させることを目指したい。また、試験法としてだけでなく、DNA損傷、染色体異常、突然変異等のメカニズムの解明にも有用であり、研究ツールとしての利用価値も高いものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614064C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本ヒト型試験法はDNA損傷(COM)、染色体異常(MN)、遺伝子突然変異(TK)のマルチエンドポイントから遺伝毒性試験であり、単なる毒性試験として適応できるだけでなく、その毒性プロファイルから毒性メカニズムを知ることができるため学術的価値は高い。また、遺伝子発現解析、突然変異体の遺伝子解析似も応用することができ、遺伝毒性、DNA修復研究等の研究ツールとしての利用価値も高い。
臨床的観点からの成果
TK6を用いた遺伝毒性試験結果は、エームス試験、齧歯類発がん性試験の結果とよく相関する。本試験は、weight of evidence (WOE)に基づく新たなヒト型遺伝毒性試験として、医薬品の開発に貢献できることが期待できる。また、ヒト型試験はリスクベースで安全性を評価することが可能であるため、ヒトに対する安全性評価法に利用できる。

ガイドライン等の開発
医薬品開発のための国際的ハーモナイゼーション会議(ICH)では、これまでの哺乳類細胞を用いたin vitro遺伝毒性試験結果が偽陽性を引き起こしやすいため、その改訂が求められている。本試験方法は、エームス試験、発がん性試験との高い相関性を示すことからあらたなガイドラインに取り入れられる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
これまでのin vitro遺伝毒性はバクテリア、齧歯類細胞等からなる試験法であったが、今後、生物学的、科学的妥当性に基づく試験法の開発が求められている。本ヒト型試験法を遺伝毒性試験法として、医薬品、食品添加物、農薬等の合成化学物質や、食品等の安全性試験に適用し、ヒトに対する安全性を担保することにより厚生行政に大きく貢献することができる。
その他のインパクト
本共同研究は、日本環境変異原学会・哺乳動物試験研究会(MMS)の協力を得、57の試験研究機関を協力研究者として実施された。共同研究を通じて、本試験法を国内外に普及することができた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Zhan, L., Sakamoto, H., Sakuraba, M. et al.
Genotoxicity of microcystine-LR in human lymphoblastoid cells
Mutation Research , 557 , 1-6  (2004)
原著論文2
Matsura-Eisaki, K., Sakamoto, H., Sofuni, T. et al.
In vitro genotoxicity of inorganic arsenics and their genotoxic risk through food intake
環境変異原研究 , 27 , 153-160  (2005)
原著論文3
Koyama, N., Sakamoto, H., Sakuraba, M. et al.
Genotoxicity of acrylamide and glycidamide in human lymphoblastoid TK6 cells
Mutation Research , 603 , 151-158  (2006)
原著論文4
Oka, H., Ikeda, K., Yoshimura, H. et al.
Relationship between p53 status and 5-fluorouracil sensitivity in 3 cell lines
Mutation Research , 606 , 52-60  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-