天然由来医用材料の生物学的安全性評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700145A
報告書区分
総括
研究課題名
天然由来医用材料の生物学的安全性評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中村 晃忠(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 配島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療用具に用いる材料には生体適合性が必要である。生体適合性の良い医用材料を作る方法として、従来、主に 3 つの戦略があった。第 1 は、同種または異種動物の組織を利用しようとするものである。第 2 は、人工材料の物理的特性を維持したまま、特殊な材料設計に基づいて材料・組織界面の反応を制御しようとするものである。第 3 は、この両者を組み合わせることによって両者の欠点を相殺しようとする戦略(ハイブリッド化)である。ごく最近は、材料・組織界面反応の制御だけでなく、生化学の革命的な進展の成果を取り入れて積極的に治癒や代替を図ろうとする組織工学的アプローチも盛んになってきた。これは非常に望ましい方向であるが、そこにはコラーゲン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸類、ラテックスゴムなどの天然由来材料が使われることになる。天然由来の材料は生体になじみやすいという利点がある一方で、その起源や品質をコントロールすることが難しいという欠点もある。例えば、コラーゲン中のプリオンの問題をとってみても、その起源はウシであるかヒトであるか、どこからどのようにして採取し、どのようにして精製するか、などを明確にする必要がある。また、ある種の多糖類はアジュバント効果があって、治癒を促進するという説があるが、材料の品質との関連性を調べた研究はない。他方、これらの天然由来材料を使った承認済み医療用具による発熱や浸潤(ラテックス製品、コラーゲン或いはゼラチン被覆人工血管)、脳血腫(コラーゲン止血剤)、浸潤性脊髄圧迫(キチン止血剤)、アナフィラキシー(ラテックス製品)など原因不明の副作用(不具合)が現実に起きている。本研究は、この問題を早期に解明し、天然由来医用材料の安全性確保は勿論、同材料を使用した各種製品、特に近年急速に進展してきた組織工学を利用した医療技術の進展に寄与することを目的とする。平成 9 年度の本研究では、天然由来材料を使用した医療用品としてラテックス製手術用手袋とカテーテルに注目し、市販されている同製品の発熱性に関する調査を行ったとともに、発熱を起こした製品中に含まれる発熱性物質の同定実験に着手した。 
研究方法
(1) 試料:A~Dの 4 社のラテックス製手術用手袋は市販品を購入した。また、EおよびFの 2 社のカテーテルは発売元より分与された。
(2) 試験液の調製:試料をおよそ 1 cm 間隔で無菌的に裁断し、ラテックス製手術用手袋は 1 g あたり 10 ml、また、カテーテルは 1 本あたり 100 ml の注射用蒸留水を用いて 50℃で 24 時間抽出処理を行った後、フィルタ濾過し、同濾液を試験液とした。手術用手袋の場合、製品の表面に塗布されているパウダー由来の発熱性物質を除去する目的で、裁断した試料を注射用蒸留水で数回洗浄した後、同様に抽出操作を行った試験液も調製した。
(3) 発熱性物質試験:第 13 改正日本薬局方[1]の記載に従って行った。
結果と考察
(1) ラテックス製手術用手袋の発熱性:A社、C社およびD社の製品は、いずれも顕著な発熱性を示さず、試験に供した全てのウサギの体温上昇が限度値の 0.6℃未満であり、また、その和もそれぞれ 0.9℃(0.1, 0.5, 0.3)、1.0℃(0.3, 0.2, 0.5)および 0.9℃(0.3, 0.3, 0.3)であったことから発熱性物質陰性と判定された。一方、B社の製品は、同試験におけるウサギの体温上昇の和が 4.1℃(1.1, 1.5, 1.5)であると共に個々のウサギの体温上昇も限度値である 0.6℃を上回っており、発熱性物質陽性と判断された。製品の表面に塗布されているパウダー由来の発熱性物質に関して検討する目的で、裁断した試料を注射用蒸留水で数回洗浄した後、同様に抽出操作を行って調製した試験液を使用した発熱性物質試験においても同様な結果が得られ、B社の製品のウサギに対する体温上昇の和は 3.2℃(0.9, 1.1, 1.2)であり、有意な発熱性が観察されたが、A社、C社およびD社の製品では発熱性が認められなかった。
(2) カテーテルの発熱性:E社およびF社のラテックス製カテーテルの発熱性を検討した結果、試験に供した各 3 匹のウサギの体温上昇の和は、E社が 4.0℃(1.4, 1.1, 1.5)、F社が 5.9℃(1.9, 2.1, 1.9)であり、また、個々のウサギの体温上昇も 0.6℃を上回っていたことから、いずれの製品も発熱性物質陽性と判定された。
(3) 発熱性物質の同定に関する研究:ラテックス製品に含まれる発熱性物質の同定に関する実験を行うにあたり、同製品の製造段階で使用される化学物質の種類を知ることは非常に有益なことである。それ故、発熱性物質の同定に関する実験の予備調査として、手術用ラテックス手袋の製造時に使用される各種添加剤の調査を行った。A社、C社およびD社から発売されているラテックス製手術用手袋はいずれもA社により製造されており、B社の同手袋は外国のG社において製造されていた。A社およびG社より、同製品を製造する際に使用している加硫促進剤、安定剤、分散剤、乳化剤、凝固剤、抗酸化剤、消泡剤および成型途中で使用するその他の薬品の種類を聴取した。各成分の名称および組成比は公開しない。
現在市販されているラテックス製手術用手袋のほとんどは主にコーンスターチ由来のパウダーが塗布されている。同パウダーはラテックスアレルゲンばかりでなく微生物やエンドトキシンを吸着し、手術時におけるこれらの生理活性物質の空気伝達(暴露)や患者体内への直接侵入を担っているという報告がある[2]。本研究において検討したB社のラテックス製手術用手袋は各ウサギに対して 1.1, 1.5, 1.5℃の発熱性を示し、また、若干発熱活性は低下しているが、予めパウダーを除去した後に抽出操作を行った場合でも 0.9, 1.1, 1.2℃の発熱を惹起した。この結果より、少なくともB社の製品が示した発熱性は主にラテックス自体に含まれる成分により惹起されており、パウダー由来の発熱性物質の影響は少ないものと思われる。
グラム陰性細菌の細胞壁外膜成分の一つであるエンドトキシンは代表的な発熱性物質として良く知られている。エンドトキシンによるラテックス製手術用手袋の汚染状況について検討した研究は非常に少ないが、同手袋には ng ~ mg オーダーのエンドトキシンが含まれていると報告されている。また、これらの研究の中には、ラテックス製手袋に含まれるエンドトキシンが、直接、接触皮膚炎を惹起するという報告[3]や、エンドトキシンがアジュバント活性、B細胞マイトジェン活性および各種炎症性サイトカイン誘導能などを示すことを理由に、ラテックスアレルゲンによる即時型アレルギーおよび化学物質による遅延型アレルギー反応の増強に関与していることを示唆する報告もある[4,5]。このように、医療用品の発熱性物質汚染による不具合は、単なる発熱のみにとどまらず、近年、急速に浮上してきたラテックスアレルギーの発症や症状の進展などにも関与していることが示唆されている。今後、発熱性が認められたラテックス製品に含まれる発熱性物質の同定に関する実験を行うと共に、臨床において報告されている各種の副作用との相関性を明らかにし、天然由来材料の生体影響(安全性)を総合的に評価するため、各製品による炎症性サイトカイン産生誘導能や成長因子産生誘導能などに関して検討する予定である。
結論

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)