臓器移植患者の小腸及び肝組織を用いた遺伝子機能解析に基づくテーラーメイド免疫抑制療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200614061A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植患者の小腸及び肝組織を用いた遺伝子機能解析に基づくテーラーメイド免疫抑制療法の確立に関する研究
課題番号
H16-創薬-072
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
乾 賢一(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 上本伸二(京都大学)
  • 田上昭人(国立成育医療センター研究所)
  • 加賀山彰(アステラス製薬株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体肝移植術時に切除される小腸組織と移植肝生検組織の一部を用いて、P-糖タンパク質やCYP3A遺伝子群の発現レベルの数値定量化と遺伝子多型情報などを利用し、患者一人ひとりの術後経過に応じたタクロリムスの投与設計法の確立を目的とした。
研究方法
ヒト組織検体は、生体肝移植術中に切除される小腸組織の一部と、病理検査用に採取される移植肝生検組織の一部とした。RNA、ゲノムDNA の抽出を行い、小腸及び肝臓におけるMDR1、CYP3A4、5、7、43のmRNA発現レベルを測定した。本研究計画は、京都大学医学研究科・医学部医の倫理委員会の審査を受け、研究科長より承認を得ている。なお、患者個々のインフォームド・コンセントについては、肝臓移植前における説明と同時に担当医から十分な説明(約1時間程度)を行い、後日同意書(同意または拒否・撤回)をコーディネーターに提出するというシステムで実施している。本年度では、術直後のタクロリムス初期用量の設定について、上記遺伝子情報を基に移植術翌日夕の第1回目投与前(15:00まで)に担当医に報告することとした。 
結果と考察
本年度においては、術直後4日目までのタクロリムス血中濃度を平均7ng/mLを目標に初期用量の設定を行った。その結果、ほとんどの症例において術後3日目の血中濃度が10ng/mL以上にコントロールされていること、術直後3日間の平均血中濃度も7ng/mL以上に維持されていることが明確になった。さらに、術後2週間における急性拒絶反応発現の著明な低下という成績を得ることができた。すなわち、術時小腸の検体を用いた研究開始当時(1998年11月)から2004年12月末までの164例においては、肝移植後10日間における無症状90例(55%)、急性拒絶反応発現42例(26%)であったが、初期用量設定の介入を実施した99例(2005年3月~2007年3月)においては、無症状76例(77%)、急性拒絶反応発現8例(8%)であり、急性拒絶反応発現のリスクが従来の30%にまで低下することを実証することができた(カイ二乗検定:P=0.00015)。これらは、生体肝移植術時のヒト組織を用いた遺伝子情報に基づくタクロリムスの初期用量設定は、極めて重要な薬物投与設計法であることが明確になった。
結論
肝臓移植時に得られるヒト組織を用いた遺伝子情報に基づく術後管理の介入を実施した。その結果、本投与設計法は82%以上の目標血中濃度域達成率であること、介入以前と比較して急性拒絶反応発現の割合が70%低下することを実証することができた。 

公開日・更新日

公開日
2007-04-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200614061B
報告書区分
総合
研究課題名
臓器移植患者の小腸及び肝組織を用いた遺伝子機能解析に基づくテーラーメイド免疫抑制療法の確立に関する研究
課題番号
H16-創薬-072
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
乾 賢一(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 田中紘一(京都大学)
  • 高田泰次(京都大学)
  • 上本伸二(京都大学)
  • 田上昭人(国立成育医療センター研究所)
  • 加賀山彰(アステラス製薬株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝移植後の術後管理には、カルシニューリン阻害薬タクロリムスやシクロスポリンを中心に小用量のステロイド薬の併用を基本としているが、有用な分子生物学的マーカーの不足から投薬量の設定は困難であった。本研究では、生体肝移植術時に切除される小腸組織と移植肝生検組織の一部を用いた遺伝子情報に基づき、患者一人ひとりの術後経過に応じたタクロリムスの投与設計法の確立を目的とする。
研究方法
ヒト組織検体は、生体肝移植術中に切除される小腸組織の一部と、病理検査用に採取される移植肝生検組織の一部とした。RNA、ゲノムDNA の抽出を行い、小腸及び肝臓におけるMDR1、CYP3A4、5、7、43のmRNA発現レベルを測定した。本研究計画は、京都大学医学研究科・医学部医の倫理委員会の審査を受け、研究科長より承認を得ている。患者個々のインフォームド・コンセントについては、担当医から十分な説明を行い、後日意思を書面にてコーディネーターに提出することとした。計画第3年度では、術直後のタクロリムス初期用量の設定について、上記遺伝子情報を基に移植術翌日夕の第1回目投与前(15:00まで)に担当医に報告することとした。
結果と考察
術時小腸MDR1 mRNAレベルは、タクロリムス初期用量設定のための有用なバイオマーカーであること、さらに、術時の移植肝/患者体重比(GRWR)が初期用量の指標となることを見出した。次に、CYP3A5の役割について調べた結果、移植肝に加え患者小腸におけるCYP3A5の重要性が認められ、術前検査におけるドナー及び患者のCYP3A5 SNP解析は、肝移植後のタクロリムス体内動態の個人差を説明するための分子情報であることが示された。さらに、計画第3年度におけるタクロリムスの初期用量設定について介入を実施した結果、タクロリムスの初期血中濃度は82%の症例において達成されていた。さらに、術後2週間における急性拒絶反応発現の著明な低下という成績を得ることができた(26%から8%、カイ二乗検定:P=0.00015)。これらは、生体肝移植術時のヒト組織を用いた遺伝子情報に基づくタクロリムスの初期用量設定は、極めて重要な薬物投与設計法であることが明確になった。
結論
肝臓移植時に得られるヒト組織を用いた遺伝子情報の術後管理への有用性について、明確にすることが出来た。さらに、肝臓移植時に得られるヒト組織を用いた遺伝子情報に基づく術後管理の介入を実施した。その結果、本投与設計法は82%以上の目標血中濃度域達成率であること、介入以前と比較して急性拒絶反応発現の割合が70%低下することを実証することができた。 

公開日・更新日

公開日
2007-04-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614061C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小腸上皮細胞に発現する薬物トランスポータMDR1(P-糖タンパク質)が、タクロリムスの吸収障壁として機能していることがヒト組織を用いた検討により明らかにすることができた。また、薬物代謝酵素CYP3A5の一塩基多型(*3)によって、術後のタクロリムス体内動態が変動すること、CYP3A5は移植肝のみならず患者自身の小腸においても重要な役割を示すことを初めて明らかにすることができた。さらに、母集団薬物動態学的解析から、これらの遺伝子情報は肝機能検査値等に加えて有意なパラメータであることも実証した。
臨床的観点からの成果
得られた遺伝子情報に基づく生体肝移植直後のタクロリムス初期用量設定について、介入試験を行った結果、従来の画一的な投与設計法とは異なり、初期の急性拒絶反応の発現リスクが大きく低減されることを実証できた。従って、今後術直後の急性拒絶反応に端を発する合併症の連鎖(ステロイド剤大量投与による副作用、易感染、肝機能低下)を予防することができ、周術期の安全性確保に役立つと考える。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
本研究によって、確立されたタクロリムスの肝移植直後の投与設計法を進めることによって、25%超であった急性拒絶反応を8%にまで低減することができ、多くの患者について術後管理の安全性確保、QOLの向上、在院日数の短縮化による医療費の節約に加えて、最終的な生体肝移植治療の成績向上に役立つと考える。
その他のインパクト
主任研究者 乾 賢一が平成18年度薬学会賞受賞

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
2件
総説
その他論文(英文等)
1件
総説
学会発表(国内学会)
28件
一般15件、招聘講演・特別講演13件
学会発表(国際学会等)
5件
一般3件、招聘講演・特別講演2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Goto, M., Masuda, S., Kiuchi, T., et al.
CYP3A5*1-carrying graft liver reduces the concentration/oral dose ratio of tacrolimus in recipients of living-donor liver transplantation
Pharmacogenetics , 14 (7) , 471-478  (2004)
原著論文2
Masuda S, Uemoto S, Goto M, et al.
Tacrolimus therapy according to mucosal MDR1 levels in recipients of small bowel transplantation
Clin Pharmacol Ther , 75 (4) , 352-361  (2004)
原著論文3
Fukudo, M., Yano, I., Masuda, S., et al.
Distinct inhibitory effects of tacrolimus and cyclosporin A on calcineurin phosphatase activity
J Pharmacol Exp Ther , 312 (2) , 816-825  (2005)
原著論文4
Omae, T., Goto, M., Shimomura, M., et al.
Transient up-regulation of P-glycoprotein reduces tacrolimus absorption after ischemia-reperfusion injury in rat ileum
Biochem Pharmacol , 69 (4) , 560-567  (2005)
原著論文5
Masuda S, Goto M, Okuda M et al.
Initial dosage adjustment for oral administration of tacrolimus using the intestinal MDR1 level in living-donor liver transplant recipients
Transplant Proc , 37 (4) , 1728-1729  (2005)
原著論文6
Masuda S, Goto M, Fukatsu S, et al
Intestinal MDR1/ABCB1 Level at Surgery As a Risk Factor of Acute Cellular Rejection in Living-donor Liver Transplant Patients
Clin Pharmacol Ther , 79 (1) , 90-102  (2006)
原著論文7
Uesugi M, Masuda S, Katsura T et al.
Effect of intestinal CYP3A5 on postoperative tacrolimus trough levels in living-donor liver transplant recipients
Pharmacogenet Genomics , 16 (2) , 119-127  (2006)
原著論文8
Fukudo M, Yano I, Masuda S, et al.
Cyclosporine exposure and calcineurin phosphatase activity in living-donor liver transplant patients: twice daily versus once daily dosing
Liver Transpl , 12 (2) , 292-300  (2006)
原著論文9
Fukatsu S, Fukudo M, Mausda S, wt al.
Delayed effect of grapefruit juice on pharmacokinetics and pharmacodynamics of tacrolimus in a living-donor liver transplant recipient.
Drug Metab Pharmacokinet , 21 (2) , 122-125  (2006)
原著論文10
Fukudo M, Yano I, Masuda S, et al.
Population pharmacokinetic and pharmacogenomic analysis of tacrolimus in pediatric living-donor liver transplant recipients.
Clin Pharmacol Ther , 80 (4) , 331-345  (2006)
原著論文11
Sato E, Shimomura M, Masuda S, et al.
Temporal decline in sirolimus elimination immediately after pancreatic islet transplantation.
Drug Metab Pharmacokinet , 21 (6) , 492-500  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-