細菌からの外毒素および内毒素遊離におよぼす抗生物質の影響

文献情報

文献番号
199700144A
報告書区分
総括
研究課題名
細菌からの外毒素および内毒素遊離におよぼす抗生物質の影響
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長 則夫(栃木県保健環境センター)
研究分担者(所属機関)
  • 切替照雄(自治医科大学微生物学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗生物質治療において細菌から遊離する外毒素および内毒素がどの程度病態に影響するのかを解析し、さらにその臨床的意義について検討する。
研究方法
本研究では、大腸菌O157および緑膿菌の外毒素と内毒素の遊離が抗生物質によってどのように影響されるのかを解析し、さらに生体内で抗生物質投与が同様な遊離を引き起こすのかどうかを検討した。研究は試験管内実験とマウス感染実験の2種類で解析した。マウスは、内毒素に感受性のあるC3H/HeNと感受性の低いC3H/HeJの2系統を用いた。
結果と考察
1. 試験管内でPBP-1/3結合薬剤により遊離されたエンドトキシンの致死毒性は,精製したLPSにきわめて近い性質であると考えられた。
2. 緑膿菌感染マウスでの抗生剤の治療効果の違いは、抗生剤によって遊離される何らかの因子がLPS低感受性C3H/HeJマウスの致死にも関与していることを示唆している。また、抗生剤遊離エンドトキシンがLPS感受性宿主ばかりでなくLPS低感受性宿主の致死に同じように関与している可能性も考えられた。
3.緑膿菌から遊離するエクソトキシンAおよび大腸菌O157から遊離するベロ毒素は,菌をPBP-2結合薬剤であるIPMで処理した時、PBP-1/3結合薬剤であるCAZのそれと比較して明らかにエクソトキシンAやベロ毒素の遊離量が少ない。
4. C3H/HeJマウスに無毒化エクソトキシンA産生変異株を感染させCAZまたはIPMを投与し、その後D-GalNを投与した。感染後48時間で生死を観察した。
IPMを投与したマウスのほとんどが生存したのに対して、CAZ投与マウスはほとんどが生存できなかった。このことは、無毒化エクソトキシンA産生変異株を感染させたLPS低感受性C3H/HeJマウスにおいて、IPMのほうがCAZより明らかに治療効果があることを示している。
抗生剤の違いによってエンドトキシンばかりでなくエクソトキシンAおよびベロ毒素の遊離に違いがあることが明らかになった。試験管内の実験では抗生剤によって遊離されるエンドトキシンは精製したLPSと同様に内毒素低感受性C3H/HeJマウスに対して無毒であった。C3H/HeJマウスはLPSに低感受性であるが、菌体から抽出したリピドA結合蛋白には反応することが知られている。このような活性をもった蛋白は、試験管内での実験では遊離されなかった。これとは対照的に、緑膿菌感染マウスでは、CAZの投与による致死がLPS感受性C3H/HeNマウスばかりでなくLPS低感受性C3H/HeJマウスでも観察された。どのようにCAZが緑膿菌を感染したC3H/HeJマウスの致死を助長するのかに関する正確な説明は不明であるが、エンドトキシンやエクソトキシンAを含め複数の要因がこれに関与していると考えられる。
結論
抗生物質投与に基づく内毒素および外毒素の遊離が患者の病態を増悪させ、ショックを誘発する危険性が指摘されているが、さまざまな種類の感染症、それぞれに異なった患者の状態があることから、どのような抗生物質をどのように使用すべきかは、さらに臨床例を集めて検討する必要がある。 抗生物質の選択は、これまで細菌が抗生物質に感受性であるかどうかを主な指標にしてなされてきた。しかし、このような選択だけで良いのかという反省がなされてきている。一つは、最近の腸管出血性大腸菌O157感染の治療経験で、必ずしも抗生剤の使用が病態の回復と相関しせずむしろ抗生剤の使用が病態を悪化させることがあることがわかってきた。抗生物質による毒素遊離の研究は始まったばかりであり今後の研究の発展が望まれる。

公開日・更新日

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