アルツハイマー病における新規創薬ターゲット検索のための、APP細胞内ドメインの機能解析

文献情報

文献番号
200614023A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病における新規創薬ターゲット検索のための、APP細胞内ドメインの機能解析
課題番号
H16-創薬-027
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中山 耕造(信州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤俊孝(エーザイ株式会社シーズ研究所)
  • 樋口進(国立病院機構・久里浜アルコール症センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、NotchやDeltaの解析結果から、γ―セクレターゼによって、I型膜蛋白質の細胞内ドメインが切り出され、切り出された細胞内ドメインが核に移行して特定の転写因子に結合し、遺伝子の転写を調節するという新しいシグナル伝達様式を提唱している。生理的機能があまり解析されていないAmyloid Precursor Protein (APP)も同様のシグナル伝達の様式をとるという仮説のもと、APPの細胞内ドメイン(APPIC)がアルツハイマー病(AD)に関係している可能性を考えて、本研究をおこなっている。
研究方法
1)バックが低い事より、Tet Offシステムを用いて、APPIC発現ベクターを構築し、常法に従って受精卵に注入してトランスジェニックマウスを作製した。
(2)E2F4遺伝子のシークエンスをおこない、孤発AD症例と正常人で比較して相関解析をおこなった。
(3)APPICに結合する蛋白質を精製し、マススペクトルを用いて同定した。
結果と考察
(1)APPIC導入遺伝子を持つトランスジェニックマウスを27系統作製した。現在、脳内でAPPICの発現をコントロールできるマウスを得るために、これらの27系統のトランスジェニックマウスをCamKII-tTAトランスジェニックマウスと交配している。これらの解析をおこなっているうちに、1系統のトランスジェニックマウスが、生後10ヶ月程度からhead tossig及び運動失調という行動異常を示すようになった。
(2)E2F4遺伝子coding regionのsequencingを行い、exon 7にAGCまたはCAGのtriplet repeatのVNTRを同定した。これをマーカーにして、case-controlデザインの遺伝子相関解析を行った。その結果、VNTRのlong alleleがADの高リスク、short alleleがADの低リスに関与している可能性が示唆された。
(3)APPIC結合蛋白質として、チュブリンが同定された。また、APPICはチュブリンの重合を促進した。

結論
 現在までの我々の結果は、APPICがE2Fファミリーを介してアポトーシスを引き起こし、それがADの発症に関与している可能性を示唆している。今後、本研究によって得られた脳内でAPPICの発現をコントロールできるマウスが、ADのモデル動物となる事を期待して、解析をおこなう予定である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200614023B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病における新規創薬ターゲット検索のための、APP細胞内ドメインの機能解析
課題番号
H16-創薬-027
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中山 耕造(信州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 俊孝(エーザイ株式会社シーズ研究所)
  • 樋口 進(国立病院機構・久里浜アルコール症センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我々は、NotchやDeltaの解析結果から、γ―セクレターゼによって、I型膜蛋白質の細胞内ドメインが切り出され、切り出された細胞内ドメインが核に移行して特定の転写因子に結合し、遺伝子の転写を調節するという新しいシグナル伝達様式を提唱している。生理的機能があまり解析されていないAmyloid Precursor Protein (APP)も同様のシグナル伝達の様式をとるという仮説のもと、APPの細胞内ドメイン(APPIC)がアルツハイマー病(AD)に関係している可能性を考えて、本研究をおこなっている。

研究方法
(1)APPICを発現するP19細胞を作って、アポトーシスの検討を行った。
(2)APPICに結合する蛋白質を同定する、新規な方法を開発した。
(3)APPICに結合する蛋白質を精製し、マススペクトルを用いて同定した。
(4)E2Fファミリーの遺伝子相関解析をおこなった。

結果と考察
1)APPIC及び全長のAPPを強制発現するP19細胞を作製し、神経細胞へと分化誘導した。その結果、神経細胞への分化に伴って、APPICが核へ移行し、アポトーシスによる細胞死を誘導した。
(2)APPICに結合する転写因子として、E2F1を同定した。E2F1は、細胞死を調節していることが知られている。これらのことから、核に移行したAPPICがE2F1に結合することにより何らかの変化がおき、細胞死を引き起こすと考えられた。
(3)ウエスタンブロッテイングにより、AD脳では多量のE2F1蛋白質が存在する事を明らかにした。従って、前述した細胞レベルでの結果が、ADの病態を反映していることを期待している。
(4)遺伝子相関解析をおこない、E2F1とE2F4遺伝子の多型がADの発症に関係する可能性を示唆する結果を得た。
(5)APPIC結合蛋白質としてチュブリンを同定し、APPICはチュブリンの重合を促進する事を示した。
結論
 現在までの我々の結果は、APPICがE2Fファミリーを介してアポトーシスを引き起こし、それがADの発症に関与している可能性を示唆している。既に我々は、脳内でAPPICの発現をコントロールできるマウスを作製しているが、今後、このマウスがADのモデル動物となる事を期待して解析をおこなう予定である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 我々は、γ―セクレターゼによって、I型膜蛋白質の細胞内ドメインが切り出され、切り出された細胞内ドメインが核に移行して特定の転写因子に結合し、遺伝子の転写を調節するという新しいシグナル伝達様式を提唱している。γ―セクレターゼはもともとAPPを切断する酵素として発見された物であるが、本研究によってAPPも同様のシグナル伝達様式をとる可能性が高い事が示された。これらの結果は基礎科学に貢献し、国際的にも学術的にも重要であると考えられる。
臨床的観点からの成果
 APPの細胞内ドメインが神経細胞選択的に細胞死を引き起こすと言う本研究で得られた結果は、アルツハイマー病(AD)の発症において、Aβの沈着意外にも別の機序が存在する可能性を示唆している。もし、この可能性が正しければ、ADに対する創薬において作用機序の異なる新規な薬剤の開発につながる可能性が考えられ、社会的にも重要である。従って早急に、実際のADにおいてもAPPの細胞内ドメインによる細胞死が起こっているかを検討する必要がある。
ガイドライン等の開発
 本研究は、新規な創薬のターゲットとなる分子を検索するために、現在考えられているADの発症機構以外にもその発症に関係する別の機構が存在する可能性を検討した基礎研究である。具体的には分子細胞生物学的な手法で、APPの細胞内ドメインが神経細胞死を起こす事を示している。また、それが実際のAD脳で起こっているのか検討しようとしている。従って、ガイドライン等の開発はおこなっていない。

その他行政的観点からの成果
 多くの神経疾患、特にアルツハイマー病(AD)は加齢に伴って発症し、現在のところ有効な治療法もない。従って高齢化社会において、有効な治療法の開発は急務であり、新規の創薬ターゲット分子を見いだすためにも、新しい観点からの病因の解明に社会的な期待が寄せられている。本研究は、Aβの沈着以外にもADの発症に関係する機序が存在する可能性を示している。従って今後ますます高齢化社会を迎える事を考えると、行政的観点からも重要な成果である。
その他のインパクト
 アルツハイマー病(AD)は加齢に伴って発症するために、現在の高齢化社会において極めて社会的な関心の高い疾患である。現在のところ有効な治療法がなく、新規な治療法の開発は社会的な要請である。我々はAβ沈着以外にもADの発症に関係する機序が存在する可能性を示している。さらにこれらの結果に基づいて、現在開発中の治療薬とは異なる作用機序を持つ薬剤の開発を目標としている。まだ将来の事ではあるが、新規な治療薬を開発できれば、その社会的な貢献は極めて大きく、インパクトは強いと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakayama K., Nagase K., Tokutake Y., et al.
Multiple POU-binding motifs, recognized by tissue-specific nuclear factors, are important for Dll1 gene expression in developing neural stem cells.
Biochem. Biophys. Res. Commun., , 325 , 991-996  (2004)
原著論文2
Tian B.Q., Suzuki T., Yamauchi T., et al.
Interaction of LDL receptor-related protein 4 (LRP4) with postsynaptic scaffold proteins via its C-terminal PDZ domain- binding motif, and its regulation by Ca2+/calmodulin -dependent protein kinase II.
Eur. J. Neurosci., , 11 , 2864-2876  (2006)
原著論文3
Hiratochi M., Nagase H., Kuramochi Y., et al.
The Delta intracellular domain mediates TGF-β/Activin signaling through binding to Smads and has an important bi-directional function in the Notch-Delta signaling pathway.
Nucleic Acids Research , 35 , 912-922  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-