医療用具滅菌バリデーションに於けるバイオバーデン菌抵抗性の変動要因の究明に関する研究

文献情報

文献番号
199700141A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具滅菌バリデーションに於けるバイオバーデン菌抵抗性の変動要因の究明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
新谷 英晴(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療用具滅菌バリデーションは平成9年7月1日より実施され、査察用件となった。滅菌バリデーションに於いては滅菌保証を達成する目的で適切な生物指標(BI)を用い、滅菌後滅菌器よりBIを無菌的に取り出し、SCDB(soybean casein digest broth、大豆カゼイン消化物)液体培地あるいはSCDB/A(soybean casein digest broth/agar、大豆カゼイン消化物/寒天)固形培地で培養させ、菌の無生育で滅菌保証が確認される。ISO 11138シリーズならびにISO/DIS 14161ではいずれの培地を用いて滅菌保証を行うことも容認される。それゆえ何れの培地を用いても得られる結果が同じでなければならない。しかしながら現実には培地が異なることにより、異なった抵抗値を与えることがわかった。
それゆえ本実験の目的は普遍的な滅菌保証が達成できるBIならびに生育培地の再現性のある条件を見つけることである。なぜならSCDBあるいはSCDB/A培地製造メーカー間の違い、同一メーカーでのロット間の違いで同一生物指標菌(BI)の抵抗値(D値)が異なるためである。従ってSCDBあるいはSCDB/A培地何れの培地の使用も可能であるが培地組成のどの成分がBIのD値に変動を与えているかを解明することは重要である。
SCDBあるいはSCDB/A培地は蛋白質消化物を主成分とする培地で、カゼイン蛋白質消化物(カゼイン製ペプトン)、大豆蛋白質消化物(大豆製ペプトン)、ブドー糖、寒天、無機成分の5種に大きく分類することができる。
これら5主成分の中で天然物由来であるカゼイン製ペプトンと大豆製ペプトンの生産地ならびに生産者の違いがBI加熱滅菌後の生存率に影響を及ぼす影響を調べた。
研究方法
1)培地の調製
SCDB培地の成分としてのカゼイン製ペプトンは3産地を選択した。大豆製ペプトンは3製造業者の物を使用した。これらの成分の組み合わせから9種類の培地を作成した。
2)生物指標(BI)
BIには蒸気加熱滅菌の指標菌であるBacillus stearothemophilus ATCC 7953芽胞(ペーパーストリップ型、STS-05, NAmSAR, USA)を用いた。実験には別個の2ロットのBIを使用した。またBI製造業者がラベルに記載したBIのD値は1.9分であった。D値とは菌数が1/10 になるのに要する滅菌時間のことである。D値の測定にはISO 11138-1,2,3で要求されているBiological Indicator Evaluator Resistometer for Steam Sterilization (BIER、生物指標抵抗性評価装置、Joslyn Sterilizer Corporation, USA)を用い生残曲線法ならびに部分生残法の一つであるStumbo-Murphy-Cochran法で計算した。
3)公称菌数の測定
BIは0.1%Tween80含有0.1M燐酸緩衝液(pH 7.2)に入れ、撹拌した。撹拌されたBIは段階希釈後、寒天平板混釈法で菌数を決定した。寒天培地としてSCDA(DIFCO, USA)を用いた。平板は57.5+1oCで5日間培養した。初期菌数(ラベル公称数)の測定には10枚のBIを用いた。
4)D値の測定
ISO 11138-1,2,3に拠りBIERを用い、50枚のBIを使用した。121+1oCで所定の時間蒸気加熱後、無菌的に損傷を受けたBIをSCD液体培地に転送した。BIを入れた培地は57.5+1oCの湯浴で15分間加温した後、培養器(57.5+1oC)に入れ7日間培養した。D値の測定には部分生残法であるStumbo-Murphy-Cochran法を用いた。
結果と考察
 7日間の培養は損傷菌の生育が見られる培養期間のバリデーション結果の数字である。
公称菌数の測定で得られた結果から試験した全てはISO 11138-1で要求されているラベル表示の-50~+300%までの許容範囲にはいることを確認したため、全て合格となる。
9種類の培地(A~I)を用いたD値の結果を以下に記載する。ISO 11138-1ではラベル表示の+0.5分までの-許容を認めているため、BIの1ロットの一つの培地での1値を除いて全て合格となっている。2回目の実験では本品も許容範囲に入るためISO 11138-1に合格することになる。これらのことから考えて培地組成で大豆消化物ならびにカゼイン消化物は培地のD値にばらつきを与えない可能性を示唆していると考える。しかし今回の実験ではあるアミノ態窒素濃度で消化を停止させている。消化時間の設定は培地メーカーに拠り異なる可能性が考えられるため、消化時間を変えた場合の実験を行って今回の実験の再現性を確認する必要がある。
以前我々が実験で得られたデータは今回使用したSCD液体培地ではなくSCD寒天固形培地であった。異なる培地メーカーでの寒天培地を用いた場合培地メーカー間ならびに同一メーカーのロットの間で有意な菌数の差ならびにD値の差が認められた。しかしながら今回の液体培地を用いた実験ではこのばらつきを確認できなかった。
それゆえ培地に拠るD値のばらつきの原因物質は大豆消化物ならびにカゼイン消化物の可能性も消化時間の関係で完全には否定できないが、寒天に由来する他の成分に起因していることも推定される。
Grahamらも市販培地を種々変えてSCD液体培地ならびにSCD寒天固形培地を用いて蒸気加熱滅菌で同様にD値を測定し、D値がばらつくことを報告している。彼の実験結果から寒天がD値を高める原因物質らしいことが考察できるが、彼の実験の場合には市販のSCD液体培地でも同様なばらつきを認めるため、彼の実験結果から培地のばらつきの原因物質が寒天であることを結論することは不可能である。
それゆえ我々は次年度の実験では今回と同様な操作で寒天の産地、季節などを変えて種々の種類の寒天を購入し、それらの寒天を用いて作成されたSCD固形培地のD値のばらつきについて検討し、寒天がSCD固形培地でのD値ばらつきの原因物質であるかどうかの確認実験を行う予定である。同時に消化時間を変えたSCD液体培地についてもばらつきの原因を追及する。
結論
 生物指標を用いて滅菌保証するに際し、SCD液体培地もSCD固形培地の使用も容認されているが、培地ロットにより滅菌保証結果が異なる可能性がある。それをなくすため、培地のどの成分がD値のばらつきに原因しているかを調べた。SCD液体培地でのD値のばらつきはISO 11138シリーズで要求する+0.5分に入ることから大豆消化物ならびにカゼイン消化物はばらつきの原因物質では可能性が考えられるが、アミノ態窒素量より消化時間を一定にしたためばらつかなかった可能性も同時に考慮する必要がある。以前の実験でばらつきを示したのはSCD寒天固形培地であるので寒天がばらつきに関与している可能性も同時に考慮する必要はある。それゆえ今後の実験で種々の異なる寒天を用い、寒天が培地のD値の変動に与える可能性を調べる予定である。同時に消化時間を変えたSCD液体培地を用いてD値の変動要因を確定していく予定である。

公開日・更新日

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