細胞内エネルギー代謝制御分子の機能発現機構の解明と新規治療薬への応用

文献情報

文献番号
200614022A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞内エネルギー代謝制御分子の機能発現機構の解明と新規治療薬への応用
課題番号
H16-創薬-024
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
江崎 治(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 服部 浩明(株式会社ビー・エム・エル 先端医療開発部)
  • 矢野 崇(持田製薬株式会社 開発研究所)
  • 後藤 正英(アステラス製薬株式会社 研究本部分子医学研究所分医第二研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メタボリックシンドローム予防法として、筋肉での脂質代謝を盛んにすることや肝臓における中性脂肪の合成を抑制し末梢組織への供給量を減らす方法が考えられる。 骨格筋特異的にPGC-1αを過剰発現させたトランスジェニックマウス(PGC-1αマウス)は、ミトコンドリア量が増加し、脂質代謝を亢進させて、メタボリックシンドロームを予防する。このため、PGC-1αを増加させる方法を探した。Wistarラットに高果糖食を負荷すると肝中性脂肪(TG)含量も血中TGも増加する。 高果糖食に魚の成分であるEPAを添加し、肝TG含量の減少と、血中TG、肥満への影響を調べた。共役リノール酸(CLA)の多量摂取は脂肪細胞のアポトーシスを生じ、抗肥満作用を示すが、脂肪肝、糖尿病(リポジストロフィー)を生じる。C57BL/6マウスを用いて低用量のCLA摂取の抗肥満効果と安全性を検討した。
研究方法
1)アドレナリン受容体刺激薬、β遮断薬投与によるPGC-1α発現変化
 α、β1、β2、β3刺激薬を皮下投与し、筋肉でのPGC-1α発現量を調べた。又、β遮断薬のプロプラノロールを前投与し、PGC-1α増加量の変動を調べた。
2)EPAのラットへの効果
雄性Wistarラットにスターチ食、高果糖食、高果糖食+エイコサペンタエン酸エチル(EPA-E)を与え、血清TG及び肝臓TG含量を測定した。
3) CLAのマウスへの影響
マウスに高炭水化物食摂取下で低用量0.1% (W/W)のCLA添加群、非添加群の2群に分けて10ヶ月間飼育した。脂肪、肝臓、脾臓重量、血中インスリン値、インスリン抵抗性、GOT、GPT、レプチンを測定した。

結果と考察
1)β2受容体刺激薬を投与すると、筋肉でのPGC-1α発現量が30倍以上に増加した。β遮断薬の前投与はPGC-1α発現増加を抑制した。
2)高果糖食で肝TGと血清TGの上昇が認められた。しかし、EPA添加で肝、VLDL画分および血中TGの上昇が抑制された。 
3)低用量CLAで10ヵ月間飼育すると、肝臓、脾臓の重量、血中GPT値が増加した。
結論
β2受容体刺激は筋肉での有力なPGC-1α増加法であることが示された。CLAは細胞内エネルギー代謝を亢進させる分子としては不適当であり、一方、EPAは適当な分子であった。

公開日・更新日

公開日
2007-04-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200614022B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞内エネルギー代謝制御分子の機能発現機構の解明と新規治療薬への応用
課題番号
H16-創薬-024
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
江崎 治(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 服部 浩明(株式会社ビー・エム・エル 先端医療開発部)
  • 矢野 崇(持田製薬株式会社 開発研究所)
  • 後藤 正英(アステラス製薬株式会社 研究本部分子医学研究所分医第二研究室 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 細胞内エネルギー代謝制御分子PGC-1α、PGC-1β、FOXO1を筋肉に過剰発現させたマウスを作出し、これらエネルギー代謝制御分子の生体での役割を推定した。日本人でのこれらの遺伝子多型と肥満との関連を調べた。
 メタボリックシンドローム予防法には、肝臓における中性脂肪合成を抑制し脂肪組織への供給量を減らす方法もある。魚油、エイコサペンタエン酸(EPA)、共役リノール酸(CLA)投与時の体内での脂肪の流れを解明し、肥満の有効な予防法になるかどうか調べた。脂肪細胞の肥大化のマーカー同定蛋白の同定を試みた。
研究方法
PGC-1α過剰発現マウス表現型の分析
アドレナリン受容体刺激薬、β遮断薬投与によるPGC-1α発現量の測定
FOXO1トランスジェニックマウスの表現型の分析
遺伝子多型の判定
肝臓でのDGAT1、DGAT2の過剰発現マウスの分析
魚油、EPA、及びCLA摂取時の体内脂肪流れの測定
脂肪細胞サイズマーカーの検索
結果と考察
 PGC-1α過剰発現マウスでは、筋肉中のミトコンドリア量が増加し個体のエネルギー代謝が亢進した。ミトコンドリアでは脱共役呼吸が亢進しATP生成が著しく低下し、筋が萎縮した。又、交感神経刺激剤投与でPGC-1α発現量が著明に増加した。FOXO1が筋萎縮に関与する重要な分子であることが示された。更にこれらエネルギー代謝に関連する遺伝子、ERR遺伝子の多型ESRRA23が日本人の肥満と関連した。
 肝臓DGAT1はVLDLの分泌量を増強し、内臓脂肪の量を増加させた。生理的な魚油の摂取量でSREBP-1c蛋白の分解が抑制され、脂肪合成が抑制された。EPA投与は高果糖食による肝TGと血清TGの増加を抑制した。低用量のCLA摂取(0.1%、w/w)でも、肝肥大、インスリン値の増加を生じた。脂肪細胞のサイズを簡便に把握する蛋白Mestを見出した。
結論
 PGC-1αの発現量を適度増加させることは、肥満の有効な予防法と考えられ、交感神経刺激がこの有効な方法の一つである可能性が示唆された。FOXO1は筋萎縮に関与する重要な分子であり、この機能を抑制することは筋萎縮の予防に有効な手段と考えられた。ERR遺伝子の多型ESRRA23はヒト肥満の遺伝的要因の一つであった。CLAは細胞内エネルギー代謝を亢進させる分子としては不適当であり、一方、EPAは適当な分子であった。脂肪細胞のサイズマーカー蛋白Mestの発見は、臨床における肥満診断に有用になるかもしれない。

公開日・更新日

公開日
2007-04-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
細胞内エネルギー代謝制御分子PGC-1α、FOXO1を筋肉に過剰発現させたマウスを作出し、生体での役割を推定した。PGC-1αは、筋肉中のミトコンドリア量を増加させ、個体のエネルギー代謝を亢進しさせる分子であり、FOXO1は筋萎縮に関与する重要な分子であることを見いだした。魚油はSREBP-1c蛋白の分解を抑制し、肝での脂肪合成を抑制することを明らかにした。低用量の共役リノール酸(CLA)摂取(0.1%、w/w)でも長期間摂取すると、肝肥大、インスリン値の増加を生じ、副作用が認められた。
臨床的観点からの成果
PGC-1α発現量を適度増加させることは肥満の予防、FOXO1機能を抑制することは筋萎縮の予防に有効かもしれない。高齢者の糖尿病は筋肉量の減少、運動量の減少が原因と推定されている。FOXO1の機能を抑制すること、PGC-1αの発現量を適度増加させることがサルコペニアの新しい予防法として浮かび上がってきた。魚油は肝臓でSREBP-1c蛋白を減少させ、肝での脂肪合成を抑制することを明らかにした。このことはSREBP-1cの活性化により生じる脂肪肝、肥満に対して魚油摂取が有効であることを示唆している。
ガイドライン等の開発
日本人食事摂取基準で扱われる、n-3系脂肪酸の摂取量策定の参考になる。脂肪肝の予防のガイドラインは策定されていないが、脂肪肝、例えば、C型肝炎、アルコール、高脂肪食、高フルクトース食の成因が推定できれば、どのタイプの脂肪肝に対して魚が有効か推定できる。
その他行政的観点からの成果
癌、I型糖尿病、エイズ、敗血症、クッシング症候群などの病気、絶食、除神経、筋肉を長い間使用しない場合に認められる廃用性萎縮の治療法は知られていない。今回の研究で、転写因子FOXO1の活性化が筋蛋白の分解の原因である可能性が示された。FOXO1蛋白の機能を抑制する薬は強力な廃用性萎縮の治療法となる可能性がある。
その他のインパクト
共役リノール酸(CLA)は欧米を中心に肥満予防の健康食品として広く用いられているが、マウスに於いては低用量でも害があることを示した。我々の報告をもとに、人でもCLA摂取により同様なインスリン抵抗性を生じることが外国から報告されていて、CLAの安全性が見直されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計7件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miura S, Tsunoda N, Ikeda S, et al.
Nuclear factor 1 regulates adipose tissue-specific expression in the mouse GLUT4 gene.
Biochem Biophys Res Commun , 325 (3) , 812-818  (2004)
原著論文2
Kubota N, Terauchi Y, Tobe K, et al.
Insulin receptor substrate 2 plays a crucial role in beta cells and the hypothalamus.
J Clin Invest , 114 (7) , 917-927  (2004)
原著論文3
Kamei Y, Miura S, Suzuki M, et al.
Skeletal muscle FOXO1 (FKHR)-transgenic mice have less skeletal muscle mass, down-regulated type I (slow twitch / red muscle) fiber genes, and impaired glycemic control.
J Biol Chem , 279 (39) , 41114-41123  (2004)
原著論文4
Yajima H, Ikeshima E, Shiraki M, et al.
Isohumulones, bitter acids derived from hops, activate both peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) and and reduce insulin resistance.
J Biol Chem , 279 (32) , 33456-33462  (2004)
原著論文5
Takahashi M, Kamei Y, Ezaki O.
Mest/Peg1 imprinted gene enlarges adipocytes and is a marker of adipocyte size.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 288 (1) , 117-124  (2005)
原著論文6
Yamazaki T, Sasaki E, Kakinuma C, et al.
Increased VLDL secretion and gonadal fat mass in mice over-expressing liver acyl CoA: Diacylglycerol acyltransferase 1.
J Biol Chem , 280 (22) , 21506-21514  (2005)
原著論文7
Nakatani T, Katsumata A, Miura S, et al.
Effects of fish oil feeding and fasting on LXRα/RXRα binding to LXRE in the SREBP-1c promoter in mouse liver.
Biochim Biophys Acta , 1736 (1) , 77-86  (2005)
原著論文8
Kamei Y, Lwin H, Saito K, et al.
The 2.3 genotype of ESRRA23 of the ERRα gene is associated with a higher BMI than the 2.2 genotype.
Obes Res , 13 (10) , 1843-1844  (2005)
原著論文9
Miura S, Tomitsuka E, Kamei Y, et al.
Overexpression of peroxisome proliferators-activated receptor γ co-activator-1 α leads to muscle atrophy with depletion of ATP.
Am J Pathol , 169 (4) , 1129-1139  (2006)
原著論文10
Kamei Y, Suganami T, Kohda T, et al.
Peg1/Mest in obese adipose tissue is expressed from the paternal allele in an isoform-specific manner.
FEBS Lett , 581 (1) , 91-96  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-