被虐待児童等のトリートメントのあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700140A
報告書区分
総括
研究課題名
被虐待児童等のトリートメントのあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
庄司 順一(日本子ども家庭総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋重宏(駒澤大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近広く関心をもたれるようになった児童虐待は、児童をめぐる諸問題の中でももっとも重要な課題の一つといえる。それは、虐待を受けた子どもは心身に大きな傷を受けること、また対応がたいへん困難であるからである。近年、虐待の発見から保護にいたるまでの対応については、関係者の理解は深まってきた。しかし、虐待を受けた児童を入所施設に保護したのちの対応、すなわち子どもへのトリートメントと、親への治療と支援については未だ不十分な状況にある。そこで、本研究では、子どもに焦点をあて、虐待を受けた子どもへのトリートメントについて検討を行った。なお、より広い視野から検討を加えるために、アメリカの国立児童虐待・ネグレクト・センター(National Center on Child Abuse and Neglect)で発行しているマニュアルの中の「心理治療」にかかわる章を翻訳、紹介した。
研究方法
臨床心理学、発達心理学、小児精神医学、子ども家庭福祉の臨床家や研究者、児童相談所や児童福祉施設職員、行政担当者を含んだ研究グループを組織し、レポートにもとづいた討議を行い、それをふまえて論稿をまとめた。また、外国における被虐待児へのトリートメントに関する資料も検討した。
結果と考察
本報告書の構成は次のとおりである。1)子ども虐待の動向と研究課題(庄司順一)、2)被虐待児童のトリートメントの枠組み(庄司順一)、3)虐待を受けた子どもの心的外傷(トラウマ)(西澤 哲)、4)被虐待児童に見られる精神的問題と精神的治療(奥山眞紀子)、5)虐待を受けた子どもの心理療法(西澤 哲)、6)心理療法(庄司順一・安藤朗子訳)、7)-1入所施設における被虐待児童のケアについて(鈴木祐子)、7)-2児童養護施設における被虐待児童の処遇について(平本 譲)、8)結論。
分担研究報告書の構成は以下のとおりである。1)被虐待児童のトリートメントを実践する条件及び課題(高橋重宏)、2)子どもの社会的保護に携わるソーシャルワーカーの業務概念の再考に関する試論-ニューヨーク市とトロント市の子どもの保護に携わるワーカーの業務から-(農野寛治)、3)被虐待児童のトリートメントのあり方-大阪府子ども家庭センターから-(澤田和加子)、4)神奈川県児童相談所における被虐待児童のトリートメントのあり方(石川 修)、5)提言-被虐待児童のトリートメントを実践するために-(高橋重宏)。以下、研究結果及び考察のポイントを述べる。
1)トリートメントの概念。トリートメント(treatment)とは、狭義には治療(心理治療)をさすことはいうまでもないが、広義にはそのような治療を可能ならしめる体制(施設での養育のあり方等)を意味するものであると考える。トリートメントを広義にとらえることは重要である。それは、心理治療も重要であるが、現状ではそれを行える機関、専門家も多くはなく、また施設での養育のあり方が心理治療の前提ともいえるからである。
2)虐待を受けた子どもの心的外傷(トラウマ)。虐待を受けた体験は心的外傷(トラウマ)になりえるのであり、子どもが虐待行為に慢性的、反復的にさらされることで、子どもの行動や性格などを大きく歪めてしまうおそれがある。
3)被虐待児童への支援計画。被虐待児への治療は、そのケース全体への支援の一部としてなされるべきものである。支援計画の概略を示したが、虐待を受けた子ども、およびその家族への支援の方法論は確立しているとはいえず、なお、検討していく必要がある。
4)虐待を受けた子どもの治療療法。虐待を受けた子どもの治療療法は修正的接近と回復的接近とに分けられる。修正的接近とは、心的外傷が存在することによる心の領域のさまざまな歪みに働きかけ、その修正を目的とする、いわば間接的なアプローチである。こうした修正的接近は、カウンセリングやセラピーというよりも、むしろその子どもをとりまく日常的な環境内で行われる方が効果的と考えられる。このような日常生活において子どもの生活環境の中で行われる治療的な働きかけのことを環境療法という。これに対して、回復的接近とは心的外傷の解消を目的に心的外傷体験そのものを扱うことである。これはポストトラウマティックプレイセラピーという。虐待を受けた子どもの治療にはこのような2面が必要であるが、その前提となるのは、子どもが「保護されている、安全である」という実感をもてることである。
分担研究においては、被虐待児童のトリートメントにおいて、児童相談所の児童福祉司(ソーシャルワーカー)が中心的役割を担うことから、まず、ソーシャルワーカーの業務のあり方について、ニューヨーク市とトロント市のソーシャルワーカーの業務を紹介し、次いで、大阪府と神奈川県における児童相談所での取り組みについて述べた。これらの検討をふまえ、被虐待児童とその親へのトリートメントを実践していくために、?専門用語の統一、?専門職の確保、?ソーシャルワーカーの養成、?スーパーバイザーの確保、?トリートメントモデルの開発、?社会資源の開発と連携、について提言を行った。
結論
本研究により、トリートメントの概念、被虐待児童の心理的状況、被虐待児への支援計画のあるべき内容、具体的な子どもへの心理療法の考え方が明確になった。心理療法を含めた、被虐待児童への総合的な支援計画を作成する必要性が指摘された。

公開日・更新日

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