高齢男子の排尿・睡眠症候群の成因解明と治療対策確立に関する研究

文献情報

文献番号
199700139A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢男子の排尿・睡眠症候群の成因解明と治療対策確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
志田 圭三(群馬大学)
研究分担者(所属機関)
  • 白川修一郎(国立精神・神経センター)
  • 平沢秀人(東京都老人医療センター)
  • 中内浩二(東京都老人医療センター)
  • 東原英二(杏林大学)
  • 今井強一(熱川温泉病院)
  • 河内明宏(京都府立医科大学)
  • 舛森直哉(札幌医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢男子の健康増進保健対策の要諦は、十分な睡眠と快適な排尿状態への回復にある。しかも、排尿障害と睡眠障害とは別個の事象ではなく、互いに密接な関連をもつ表裏一体の関係にあり、排尿・睡眠障害症候群として対応さるべきものである。本研究では、まず、アンケート調査等にて高齢者の排尿・睡眠障害の実態把握について再確認を行う。次いで、泌尿器科学の立場から排尿障害の成因を、また、精神医学の立場から睡眠障害の成因を解明すべく検討を進め、併せて排尿・睡眠障害症候群の病態診断の方策を図る。さらに、その成果に基づき、個々の病態成因に対応する治療法の開発、検討を進めることを目途とした。
研究方法
高齢者の排尿・睡眠障害の実態については、京滋地区、山梨・千葉地区在住中高年男子1500余名を対象にアンケート調査を行い、 夜間排尿回数と睡眠問題愁訴出現との関連について検討。 泌尿器科学の立場からの夜間頻尿の成因解明については、まず、中高年各年齢階層ボランチアグループを対象に、一年間にわたり昼夜間の排尿回数と排尿量を計測、加齢による推移、特に夜間多尿化現象に重点を置いて検討を進めた。また、泌尿器科外来受診者を対象に排尿障害、特に夜間頻尿を訴える症例の病因解析を進めるとともに夜間排尿回数と睡眠問題愁訴出現ならびに医療希望の有無との関連について検討した。一方、精神医学の立場からの睡眠障害の成因解明手段として、まず、若年者、高齢者各ボランチアグループについて、数日間にわたる深部体温計測を行い、深部体温リズム振幅を対比することにより生体リズム生理機能の加齢による変化を検討することにした。次いで、同様ボランチアグループについて数日間にわたる睡眠ポリグラフィー検査を施行。睡眠徐波出現率を指標として睡眠安定性の加齢に伴う変化について対比検討を進めた。最後に、明らかな原因疾患が確認されない夜間頻尿・睡眠障害患者への新しい対応として、短期作用型睡眠薬、α1-ブロッカー等の選択的投与法の検討を進めた。
結果と考察
京滋地区での排尿・睡眠障害の実態調査について見るに、夜間排尿回数2回以上の頻尿の訴えは加齢とともに増加、 60歳代で既に30%もみられ、70歳代になると実に68%の高率に達している。睡眠問題愁訴の頻度についても、非頻尿群の4%に対して頻尿群では13%と有意に高かった。一方、山梨・千葉地区集計でも、睡眠問題愁訴者は夜間頻尿2回以上の群では29%で、2回未満群の10%に比べ有意に高く、夜間頻尿と睡眠障害との間には密接な関連性が存在し、排尿・睡眠障害症候群なる概念が妥当であることを再確認することが出来た。泌尿器科外来受診者での病因解析において、夜間頻尿を訴える者の60~70%は前立腺肥大症を中心とする前立腺疾患であることが判明した。この前立腺疾患による膀胱刺激以外の因子としては当然のことながら加齢に伴う夜間多尿という事態が考えられる。昼夜間排尿量・排尿回数についての 1年間にわたる年齢階層別検討では,加齢とともに夜間排尿量が増し、70歳を過ぎる頃から夜間排尿量が昼間のそれを上回るようになることが明らかにされた。 年齢とともに腎機能が低下するため多量の低調尿が排泄して代謝のホメオスターシスを保つ生理的事象の現れともいうべきものである。 これに加うるに、高齢者では睡眠による膀胱容量増大効果の減弱もあり、 夜間 1回程度トイレに起きるのはやむを得ないことかもしれない。 2回以上になると睡眠も妨げられ治療希望の訴えが高まってくることがアンケ
ート調査、 泌尿器科外来調査でも確かめられたことは注目すべき所見であろう。 一方、 精神医学の立場からの高齢者睡眠障害の成因解明であるが, 高齢者群では若年者群に比べ深部体温リズム振幅の有意な低下が観察され、 生体リズム生理的機能の低下が確認されている。睡眠・覚醒スケジュールが乱れ睡眠の維持・安定性を阻害していることが考えられた。また、睡眠ポリグフィー検索にて、睡眠徐波出現の様相が検討された。睡眠徐波は覚醒刺激の閾値を上げ睡眠の安定した維持におおおきな役割を果たしているものである。高齢者群では睡眠徐波の出現率が若年者群の60%程度と有意に低下していることが確認され、若年者では問題にならないような軽度の刺激によっても容易に睡眠が妨げられることが示された。年をとると夜間多尿となり、ちょっと膀胱に尿が溜まっただけでも目が覚めトイレに起きるのはこのためである。勿論、前立腺肥大の発生はこれに拍車をかけるものである。いずれにせよ、加齢とともに生体リズムの生理的機能は低下し,睡眠機能も不安定かつ浅眠化が招来する。一方では、夜間多尿、睡眠による膀胱容量拡大効果の減弱、前立腺肥大症の発生など排尿刺激要因も進展し睡眠が妨げられるようになる。冒頭で述べたように、快適なる睡眠は高齢者の保健健康増進の要諦である。夜中に 2回以上トイレに起きるようになったら、 年だからといって放置せず医師のアドバイスを求べきである。 不眠が主訴の場合は神経内科または精神科を受診, また、 夜間頻尿が主訴の場合は泌尿器科を訪れるであろう。 通常このような患者の半数に前立腺肥大が認められる。 前立腺肥大ならば、 経尿道的前立腺切除術ゃ薬物投与により排尿回数の明らかな減少とこれに伴い睡眠の改善も期待される。 問題は、 精神医学的にも重大な異常が認められず、 また泌尿器科学的にも明らかなな原因疾患を見いだすことのできない患者への対応である。 今回複数の施設において、 排尿障害の内、 膀胱の刺激症状である残尿感に対しては抗ムスカリン剤が奏功、 放尿力の改善に対してはα1-ブロッカーが奏功し夜間排尿回数の減少も見られたことを経験している。 また、 精神科不眠外来において, 睡眠障害と同時に夜間頻尿を訴える症例に対し短期作用型睡眠薬投与を行うと、 不眠が改善するのみでなく夜間のトイレ回数も減少しQOL改善が見られることを経験している。現在,かかる症例への対応として、排尿・睡眠記録(日誌)に基づき上記薬剤の選択的投与を行う方策の確立を試みている。
結論
地域アンケート調査等により、高齢者男子の排尿障害並びに睡眠障害の実態を明らかにし、排尿・睡眠症候群の概念の妥当性を確認することが出来た。夜間頻尿の要因としては、前立腺肥大症のほかに夜間多尿、睡眠による膀胱容量増大効果の加齢に伴う低下も考慮されねばならない。睡眠障害の要因としは、生体リズム生理的機能並びに睡眠機能の低下による睡眠の浅眠化と不安定が挙げられ、これに夜間頻尿がからんで事態の増悪が招来するものである。治療の対象は夜間 2回以上の排尿、 覚醒に悩む症例であり、 明らかな原因疾患が認められない症例に対する方策として短期作用型睡眠薬、 α1-ブロッカー、抗ムスカリン剤等の選択的投与法の検討を提唱したい。

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