発達障害児家族サポートシステムのあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700138A
報告書区分
総括
研究課題名
発達障害児家族サポートシステムのあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
阪上 裕子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発達障害児家族のニーズ特性を明らかにし、ノーマライゼーションの早急な実現に有効な支援システムのあり方を考察することを目的として、次の2研究を実施した。
(A)家族のもつ情報を分析した2つの調査
1)子どもの障害が家族の生活に及ぼす影響ー発達障害児と健常児の家族の比較ー
2)発達障害児が母親から離れて過ごす時間ー発達障害児の母親のグループ調査ー
(B)障害児の育て支援策が女性の就業行動に及ぼす影響
研究方法
(A-1)子どもの障害が家族の生活に及ぼす影響ー発達障害児と健常児の家族の比較ー
Ecocultural Family Interview(発達障害児家族総合評価法)を用いて、首都圏および東北地方の都市部に在住する発達障害児の母51人、および、健常児の母親41人を対象とする個別面接調査の結果を比較した。 調査内容は、(1)家族の社会経済状況、(2)サービス利用(3)環境づくり、(4)育児・家事への取り組み、(5)家族の親密性、(6)社会的統合と交流、(7)宗教によるサポート、(9)情報の9領域に関する51項目とした。 各項目につき、9段階区分で点数化した。「障害群」(発達障害児の母親)と「健常群」(健常児の母親)の2群の調査結果を比較した。
(A-2)発達障害児が母親から離れて過ごす時間ー発達障害児の母親のグループ調査ー
Focus Group 小集団面接調査法)を用いて、東北地方の都市、首都圏お、ロサンゼルス市と近郊に在住する日本人の母親(発達障害児の母親)のグループ調査17回の結果を検討した。 レスパイトケア、緊急一時保護、ショートステイ、学童保育、キャンプ等、障害をもつ子供が母親から離れる時間に関連する話題で経験を話し合い、逐語記録を用いて分析した。
(B)障害児の子育て支援策が女性の就業行動に及ぼす影響の考察
女性の雇用政策と保育政策に関連する資料・文献の分析、および、1996年3月、日本労働機構が実施した「女性の職業意識と就業行動に関する調査」に基づき、ミクロ経済学を応用して、障害児の子育て支援策が女性の就業行動に及ぼす影響を分析した。
結果と考察
(A-1)子どもの障害が家族の生活に及ぼす影響ー発達障害児と健常児の家族の比較ー
健常児の家族と比較して、発達障害児の家族は、母親の育児負担が大きく、とくに送迎が母親の生活時間を圧迫していた。母親は、希望しても、職業を持つことは困難と認識していた。 父親の育児・家事参加には、個人差が大きく、全体的には大きな違いはなかった。 障害児は、健常児より、放課後の活動への参加が少なく、友だちも少なく、主に自宅で過ごしていた。 母親が、遊び相手や見守りに時間を使っていた。 親は、きょうだいへの影響や将来の負担を心配していた。 医療・教育のシステム専門職への満足度は低かった。 親は障害児を社会の否定的態度から保護する必要を感じていた。また、性についても心配が大きかった。 健常児の母親の一部は、子どもの統合教育、自らのボランティア活動を通して障害児者と接する機会を持っていた。
(A-2)発達障害児が母親から離れて過ごす時間ー発達障害児の母親のグループ調査ー
在米日本人の母親は、日本の母親より豊富なレスパイトケア、ショートステイ等のサービスを利用しており、アメリカのシステムの基本的仕組みと具体的内容を肯定的に評価していた。 日本の母親は、サービスの不備を、母親仲間の活動、行政への働きかけ、地域活動、近隣に理解者・協力者を広げる努力等で補っていた。 母親が、子どもを安心して預けるには、子どもが慣れた人や場所、年齢に適した楽しいプログラム等が重要で、親の休息を目指すだけではよいサービスは実現しないと考えていた。 「障害児は母親が育てるべき」とする差別意識が、母親の意識と行動を束縛していた。 母親は、社会と自分自身の意識改革が必要と認識していた。 日米双方で、母親仲間のサポートが大きな力となっていた。
(B)障害児の子育て支援策が女性の就業行動に及ぼす影響の考察
女性雇用者の就業意識は、企業規模間と既婚・未婚の別によって大きな相違が見られ、大企業では、退職を希望する者の割合が高く、中小企業では、育児休業制度を利用したいとする者の割合が高い。 障害児の母親の育児支援策は、育児休業制度、障害児保育、幼稚園での障害児受け入れ、一時預かり施設の拡充、レスパイトケアの普及・啓蒙、学校における統合教育・共同教育など多様で、提供する主体も、政府、地方自治体、企業、地域のボランティア、近隣など多様である。 子育て支援策が育児と就業に伴う育児コストを低減させると仮定し、この制度が障害児をもつ女性の就業期間(勤続年数)に及ぼす効果をモデルを用いて分析した。
結論
 発達障害児の子育ては、健常児の子育てに比較して、学齢期以降も、送迎、世話、見守りなどの必要が継続し、母親の時間的・労力的・心理的負担が軽減しないという特徴がある。 障害児とそのきょうだい、および同地域内で育つ健常児の望ましい成長、社会性の発達、人生・生活の質の確保には、母親の負担の一部を社会が担うシステムの構築が不可欠である。 一般の子育て支援策が、障害児をもつ母親の生活のノーマライゼーションについても効果的に機能するための検討が必要である。 本研究は、パイロットスタディであり、今後、学際的研究チームによる取り組みが望まれる。

公開日・更新日

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