小児の地域保健医療および政策医療の計画、推進に関する研究

文献情報

文献番号
199700135A
報告書区分
総括
研究課題名
小児の地域保健医療および政策医療の計画、推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 武(国立名古屋病院小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井實(三重大学医学部小児科)
  • 近藤直實(岐阜大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の日本における小児医療の領域では基本的、一般的医療の提供が私的医療機関および地方公共団体立等の公的医療機関で十分賄いえていない現状にある。従って、国の医療施設は高度または専門医療といった国の政策医療を行える実状にないところが多い。
小児の地域医療については現行医療法の理念に基づいて地方公共団体立の医療機関、私的医療機関が基本的、一般的医療を円滑に提供できるような小児地域医療の基盤整備をするために小児人口の年次推移、年齢別人口構成と疾病構造の変化および小児医療需要供給の実情を調査した。
研究方法
(1)愛知県下主要な4医療施設を対象に過去20年間の国勢調査年(昭和55年、昭和60年、平成2年、平成7年)の小児医療需要・供給の実状についてアンケート調査を行った。アンケート調査の項目は 各施設の 1)医療圏、2)過去20年間の国勢調査年における a)総病床数、b)総医師数、c)小児科総病床数、小児科単独病棟か混合病棟かd)病的新生児病床数、e)小児科医師数、f)外来・病棟看護婦数、g)その他の職員数、h)病棟の設備・機能、i)外来診療活動、j)外来の設備・機能、k)時間外診療活動、3)過去20年間の国勢調査年における各施設の a)入院患者延数、b)入院患者のうち多い順に5疾患、c)平均入院日数、d)病床稼働率、e)外来患者延数について 各施設の小児科部長に尋ねた。
(2)総務庁の統計をもとに愛知県の過去20年間にわたる総人口ならびに15歳以下の人口の推移を調べた。同時にアンケート調査を行った対象医療施設の診療圏の総人口ならびに15歳以下の人口の推移も調べた。
結果と考察
結果=愛知県の全人口および小児人口の推移は全人口が昭和50年の 5,923,569名から 平成7年の 6,868,336名へと増えているが、15歳以下の小児人口は1,616,479名から1,205,804名へと減っている。国立名古屋病院と 名古屋市立城北病院の診療圏(名古屋市北区、西区、東区、中区、守山区、西春日井郡師勝町、豊山町)の総人口は都市人口のドーナツ化現象で年々減少している。小児人口は少子化の影響で総人口に占める比率が 24.4%(132,760名)から 15.0%(74,252名)へと減少している。
国立名古屋病院小児科は過去20年間の入院患者延数、外来患者延数で見る限り、それぞれ年間 9,339~ 9,730名、15,329~16,410名で大きな変化はない。主な対象疾患は小児の呼吸器・消化器感染症、低出生体重児、てんかん等神経疾患、発達障害児、政策医療の対象でもある小児がん(白血病、固形腫瘍)、成育医療の一環でもある小児心身症である。元来国立名古屋病院の小児病棟は小児内科、小児外科、小児整形外科等の小児混合病棟であった。近年少子化で確かに小児外科、小児整形外科等小児内科以外の入院患児は減っているため小児病棟に占める子供の患者数が減った結果、病院管理者は子供の患者減少、即小児科の患者数減少と短絡的に解釈して小児科医師数を 5名から 3名まで削減した。NICUがこの数年間で5床減り小児科の診療活動が低下しているようにみえるが、これは誤りである。元々NICUは開設時から6床以上は収容不可能な病室に定床10床が計上されていたのであり今回の定数変更で設計上の誤りが訂正されたに過ぎない。書類上減った5床はプレールームのスペースを病床に転用することで病棟内の合計病床数はプラスマイナス増減なしという結果になったが入院患児の日常生活に必要欠くべからざる場所であるプレールームは縮小され、憐れにも以前の10分の1程度に縮小されてしまった。
名古屋市立城北病院は過去20年の間 入院患者延数、外来患者延数共それぞれ年間12,613名から15,187名へ、17,689名から26,983名へと増加している。その大きな要因は一般小児病棟31床の他 NICU 31床を稼動させ、未熟児・新生児医療は一般小児の診療圏を超えて名古屋市内はもとより尾張地区、知多地区と広域を対象に診療活動を続けており、昼夜を問わず救急患者、搬送されてきた患者への対応に忙しい。通常の外来は一般外来の外に未熟児病棟を退院した児のフォローアップ外来で患者数は累積する一方である。こうした事情から小児科医師数は常勤、非常勤共増加の一途を辿っている。
国立名古屋病院の小児科で重症の病的新生児、超未熟児が生まれた時 および生まれそうな時には市立城北病院へ児の搬送や母体の搬送をし、入院治療を依頼する。逆に市立城北病院へ心身症が受診し、紹介が必要な時には国立名古屋病院小児科へ紹介するなど診療圏内で機能的に役割分担をはかり円滑に診療を進めている。
豊橋市民病院小児科では過去20年間に診療圏(豊橋市、豊川市、蒲郡市、宝飯郡小坂井町、一宮町、音羽町、渥美郡田原町、渥美町)の全人口は増加傾向にある中で小児人口が著しく減っているにもかかわらず、入院患児数が年間18,238名から22,005名へ右肩上がりに増えていることは、NICUを増床し各専門分野のスタッフを揃え 特殊外来を充実させ、入院患児には教育を受ける権利を保障しプレールームを整備してアメニテを高めるなど東三河の中核病院小児科として高度専門医療を追求し、その機能を十分発揮していることによる。同時に医療の質の向上を図り、平均入院日数を短縮し、外来患者については過去20年間に年間53,447名から47,692名と減っていることは地域医療の発展という観点から病病連携、病診連携を推進し、地元の医療施設へ患者を戻している結果である。新城市民病院小児科では 過去20年間に診療圏(新城市、鳳来町、作出町、設楽町)の全人口は横ばいの中、小児人口はご多聞に漏れず減少傾向にあるが、地域住民の期待にこたえて、小児科医師数は1名から3名へ病棟看護婦数は12名から14名、外来看護婦数1名から2名へとスタッフを増やし、アレルギー、神経、循環器等の専門外来を充実させ、病床を増加させることによって 入院患者数は 2,219名から 3,344名へ、外来患者数も 10,794名から 15,569名へと増えており、自治体の病院として地域医療の充実に十分貢献している。
考察=今回行った各施設の小児医療の実態調査結果から21世紀を担う子供たちの健康を守るため各地域で、それぞれの小児医療関係者は知恵を絞り、体を張って努力している姿が浮かび上がっているが、個々の努力には自ずから限界がある。少子社会を迎え小児の医療ニーズは高度化するとともに、ますます多様化、個別化してきているが、他方医療経済は厳しい時代となってきている。従って限りある医療資源を有効に且つ効率よく利用する必要がある1)2)。そして医療法の理念である政策医療が完全に遂行され、地域医療が順調に計画・推進されるには当該地域の小児人口の推移、年齢別人口構成と疾病構造の変化および医療供給体制の実状をもとに新しい小児医療のニーズにこたえるため小児の地域医療の基盤整備と小児の包括医療を目指してのシステム構築が焦眉の急である。
結論
新しい時代のニーズにあった小児の地域医療供給体制を作るには地域の特性を十分把握し、医療が保健・医療・福祉といった社会保障の一環であるという考えのもとに地域包括医療という位置づけをして、関係者は意識改革、発想の転換、相互連携をして今後速やかに小児医療の基盤整備とシステム構築をする必要がある。

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