アンジオテンシン変換酵素遺伝子多型と脳・心血管病の関係に関する疫学調査:久山町研究

文献情報

文献番号
200501176A
報告書区分
総括
研究課題名
アンジオテンシン変換酵素遺伝子多型と脳・心血管病の関係に関する疫学調査:久山町研究
課題番号
H16-健康-013
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
清原 裕(九州大学病院 第二内科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田 三雄(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 )
  • 居石 克夫(九州大学大学院医学研究院病理病態学)
  • 恒吉 正澄(九州大学大学院医学研究院形態機能病理学)
  • 中別府 雄作(九州大学生体防御医学研究所個体機能制御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の分子遺伝学の進歩によって,レニン-アンジオテンシン系の遺伝子が心血管病の成因に深くかかわることが示唆されている.とくにアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の多型は, 心筋梗塞や他の心血管病のリスクとなる可能性が指摘され注目されている.そこで, 福岡県久山町における疫学研究で、ACE遺伝子多型と心血管病発症の関係を検討した.
研究方法
剖検例のパラフィン固定組織からDNAを抽出し, ACE遺伝子多型を測定する技術を確立した.これをもとに同意を得られた健診受診者の血液サンプルと保存されたパラフィン包埋組織ブロックからDNAを抽出し, 過去42年間における久山住民の4,159名のACE遺伝子多型を決定した.1988年に健診を受診した40歳以上の住民2,742名のうち, 心筋梗塞と脳卒中の既往がなく, ACE遺伝子多型のタイプを決定できた2,125名(男性866名,女性1,259名)を対象とし, 14年間追跡した.
結果と考察
ACE遺伝子多型と心血管病発症の検討では, 年齢調整後の虚血性心疾患発症率は, 男女ともACE遺伝子多型間で有意差はなかった.脳卒中発症率(対1,000人年)は, 男性ではACE遺伝子多型間で有意差を示さなかったが, 女性ではDD型(3.3)に比べ, ID型(8.9, p<0.05)とII型(8.1, p<0.05)で有意に上昇した.女性で認められたこの関係は, 多変量解析で他の危険因子を調整しても変わりなかった[ID型のRR=2.49(p<0.05), II型のRR=2.78(p<0.05)]. 脳卒中を病型別にみるとACE遺伝子多型と出血性脳卒中(脳出血+クモ膜下出血)の間に有意な関連はなかったが,女性の脳梗塞のリスクはDD型に比べ,ID型(RR=6.23, p<0.05)とII型(RR=7.29, p<0.01)で有意に高かった. ACE遺伝子多型と心血管病の関係を検討した報告は多数みられるが、未だに結論は出ていない。本研究では,予想に反しIDまたはII型はDD型に比べ, 女性の脳卒中発症の独立した有意な危険因子であった.しかし, ACE遺伝子のIDおよびII型と動脈硬化性疾患の関連についての機序は不明であり, 今後の検討課題として残される.
結論
ACE遺伝子多型のIIとID型はDD型に比べ, 女性の脳卒中の独立した有意な危険因子であった.

公開日・更新日

公開日
2006-04-21
更新日
-

文献情報

文献番号
200501176B
報告書区分
総合
研究課題名
アンジオテンシン変換酵素遺伝子多型と脳・心血管病の関係に関する疫学調査:久山町研究
課題番号
H16-健康-013
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
清原 裕(九州大学病院 第二内科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田 三雄(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)
  • 居石 克夫(九州大学大学院医学研究院病理病態学)
  • 恒吉 正澄(九州大学大学院医学研究院形態機能病理学)
  • 中別府 雄作(九州大学生体防御医学研究所個体機能制御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の分子遺伝学の進歩によって,レニン-アンジオテンシン系の遺伝子が心血管病の成因に深くかかわることが示唆されている.とくにアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の多型は, 心筋梗塞や他の心血管病のリスクとなる可能性が指摘され注目されている.そこで, 福岡県久山町における疫学研究で、ACE遺伝子多型と心血管病発症・腎血管病変の関係を検討した.
研究方法
剖検例のパラフィン固定組織からDNAを抽出し, ACE遺伝子多型を測定する技術を確立した.これをもとに過去42年間における久山住民の4,159名のACE遺伝子多型を同定しえた.心血管病発症の検討では, 1988年に健診を受診した40歳以上の住民のうち, 心筋梗塞と脳卒中の既往がなく, ACE遺伝子多型のタイプを決定できた2,125名(男性866名,女性1,259名)を対象とし, 14年間追跡した.また連続剖検例の817名について, ACE遺伝子多型と糸球体硬化, 腎細小動脈硝子化, 腎細動脈硬化との関係を検討した.
結果と考察
ACE遺伝子多型と心血管病発症の検討では, 年齢調整後の虚血性心疾患発症率は, 男女ともACE遺伝子多型間で有意差はなかった.脳卒中発症率(対1,000人年)は, 男性ではACE遺伝子多型間で有意差を示さなかったが, 女性ではDD型(3.3)に比べ, ID型(8.9, p<0.05)とII型(8.1, p<0.05)で有意に上昇した.女性で認められたこの関係は, 多変量解析で他の危険因子を調整しても変わりなかった[ID型のRR=2.49(p<0.05), II型のRR=2.78(p<0.05)].ACE遺伝子多型と腎血管病変の検討では, IDとII型は, DD型に比べ他の危険因子を調整しても糸球体硬化の頻度を有意に上昇させた[ID型のオッズ比2.18(p<0.05), II型のオッズ比2.05 (p<0.1)].細小動脈硝子化および細動脈硬化のリスクとの間に明らかな関連は認めなかった.本研究では,予想に反しIDまたはII型はDD型に比べ, 女性の脳卒中発症と糸球体硬化の独立した有意な危険因子であった.しかし, ACE遺伝子のIDおよびII型と動脈硬化性疾患の関連についての機序は不明であり, 今後の検討課題として残される.
結論
ACE遺伝子多型のIIとID型はDD型に比べ, 女性の脳卒中と糸球体硬化の独立した有意な危険因子であった.

公開日・更新日

公開日
2015-11-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501176C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来の生活習慣病の遺伝子研究では、断面研究が多数を占め交絡因子の適切な評価がなされていなかった。本研究では、遺伝的要因を従来の危険因子の一つと考え、生活習慣・環境要因に加味し前向きに検討したことにより、心血管病発症に対するACEの遺伝子多型の正確なリスクを算出しえた。これに加え、保存されたパラフィン包埋組織ブロックから遺伝子型を決定する技術により、過去の蓄積データの解析を行うことが可能となった。これらの研究方法は、今後のわが国の遺伝子研究に先鞭をつけた。


臨床的観点からの成果
心血管病発症を前向きに検討し、男女の虚血性心疾患と男性の脳卒中の発症はACE遺伝子多型と関連を認めなかった。一方女性の脳卒中発症では、ACE遺伝子のIDとII型はDD型に比べ多変量解析で他の危険因子(生活習慣・環境要因)を調整しても独立した有意な危険因子であった。DD型に比べてACEの血中濃度の低いIDおよびII型と動脈硬化性疾患の関連についての機序は不明であり、今後の検討課題として残される。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
57件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
87件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
15件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyazaki M, Nakamura H, Kubo M, etal.
Prevalence and risk factors for epiretinal membranes in a Japanese population: the Hisayama Study
Graefes Arch. Clin. Exp. Ophthalmol. , 241 , 642-646  (2003)
原著論文2
Wakisaka Y, Furuta A, Tanizaki Y, etal.
Age-associated prevalence and risk factors of lewy body pathology in a general population: the Hisayama Study
Acta Neuropathol. , 106 , 374-382  (2003)
原著論文3
Arima H, Tanizaki Y, Kiyohara Y, etal.
Validity of the JNC Ⅵ recommendations for the management of hypertension in a general population of Japanese elderly - the Hisayama study -
Arch. Intern. Med. , 163 , 361-366  (2003)
原著論文4
Kubo M, Kiyohara Y, Kato I, etal
Risk factors for renal glomerular and vascular changes in an autopsy-based population survey: the Hisayama Study
Kidney Int. , 63 , 1508-1515  (2003)
原著論文5
Kato I, Kiyohara Y, Kubo M, etal
Insulin-mediated effects of alcohol intake on serum lipid levels in a general population: the Hisayama Study
J. Clin. Epidemiol. , 56 , 196-204  (2003)
原著論文6
Kiyohara Y, Kubo M, Kato I, etal
Ten-year prognosis of stroke and risk factors for death in a Japanese community :the Hisayama Study
Stroke , 34 , 2343-2348  (2003)
原著論文7
Kiyohara Y, Shinohara A, Kato I, etal
Dietary factors and development of impaired glucose tolerance and diabetes in a general Japanese population: the Hisayama Study
J. Epidemiol. , 13 , 251-258  (2003)
原著論文8
Kubo M, Kiyohara Y, Kato I,etal
Trends in the incidence, Mortality, and survival rate of cardiovascular disease in a Japanese community: the Hisayama Study
Stroke , 34 , 2349-2354  (2003)
原著論文9
Ninomiya T, Kiyohara Y, Kubo M, etal
Hyperhomocysteinemia and the development of chronic kidney disease in a general population: the Hisayama Study.
Am. J. Kidney Dis. , 44 , 437-445  (2004)
原著論文10
Shimizu H, Kiyohara Y, Kato I, etal
Relationship between plasma glutathione levels and cardiovascular disease in a defined population: the Hisayama Study
Stroke , 35 , 2072-2077  (2004)
原著論文11
Miyazaki M, Kubo M, Kiyohara Y, etal
Comparison of diagnostic methods for diabetes mellitus based on prevalence of retinopathy in a Japanese population: the Hisayama Study
Diabetologia , 47 , 1411-1415  (2004)
原著論文12
Tanaka K, Kiyohara Y, Kato I, etal
Incidence and prognosis of gastric cancer in a population-based cohort survey: the Hisayama Study
Scand. J. Gastroenterol.  , 5 , 459-463  (2004)
原著論文13
Hata J, Tanizaki Y, Kiyohara Y, etal
Ten year recurrence after first ever stroke in a Japanese community: the Hisayama Study
J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry , 76 , 368-372  (2005)
原著論文14
Ninomiya T, Kiyohara Y, Kubo M,etal
Chronic kidney disease and cardiovascular disease in a general Japanese population: the Hisayama Study
Kidney Int. , 68 , 228-236  (2005)
原著論文15
Tanaka K, Kiyohara Y, Kubo M, etal
Secular trends in the incidence, mortality, and survival rate of gastric cancer in a general Japanese population: the Hisayama Sutdy
Cancer Causes Control , 16 , 573-578  (2005)
原著論文16
Doi Y, Kiyohara Y, Kubo M, etal
Elevated C-reactive protein is a predictor of the development of diabetes in a general Japanese popuation : the Hisayama Study
Diabetes Care  , 28 , 2497-2500  (2005)
原著論文17
Doi Y, Kiyohara Y, Kubo M, etal
Relationship between C-reactive protein and glucose levels in community-dwelling subjects without diabetes:the Hisayama Study
Diabetes Care , 28 , 1211-1213  (2005)
原著論文18
Yamagata H, Kiyohara Y, Nakamura S, etal
"Impact of fasting plasma glucose levels on gastric cancer incidence in a general Japanese population: the Hisayama Study"
Diabetes Care , 28 , 789-794  (2005)
原著論文19
Arima H, Kiyohara Y, Tanizaki Y,etal
Angiotensin I-converting enzyme gene polymorphism modifies the smoking-cancer association: the Hisayama Study
Eur J Cancer Prev   , 15  (2006)
原著論文20
Wakugawa Y, Kiyohara Y, Tanizaki Y, etal
C-reactive protein and risk of first-ever ischemic and hemorrhagic stroke in a general Japanese population: the Hisayama Study
Stroke , 37 , 27-32  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-11-20
更新日
-