遺伝子解析に基づく循環器病・糖尿病の予防医療診療の試み

文献情報

文献番号
200501174A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子解析に基づく循環器病・糖尿病の予防医療診療の試み
課題番号
H16-健康-011
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
三木 哲郎(愛媛大学医学部 老年医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 田原 康玄(愛媛大学医学部 統合医科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
1,890,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
コレステリルエステル転送蛋白(CETP)の遺伝子多型は、血中HDLコレステロール量と強く相関することが知られている。しかし、遺伝性高HDL血症と心血管系疾患との関連については十分に検討されていない。一方、Nアセチル基転移化酵素(NAT2)の遺伝子多型は、ヒドラジン系薬剤の代謝に関連することが知られており、変異型保有者では副作用を引き起こしやすい。そこで本研究では、CETP遺伝子多型ならびにNAT2遺伝子多型について、日本人大規模集団を対象に、その頻度と臨床的意義について明らかにすることを目的とした。
研究方法
愛媛県下の一般地域住民約3000例を対象とした。遺伝子多型は末梢血より抽出したDNAを用い、TaqManプローブ法で解析した。CETP遺伝子についてはInt14GA、D442G多型を、NAT2遺伝子については590GA、857GA、282CT、341TC多型を解析した。一般臨床検査所見は、住民健診の成績を利用した。一部の対象において、血中動脈硬化性マーカーならびに脈波伝搬速度等の測定を行った。一連の研究は、愛媛大学医学部倫理審査委員会の承認を得て行った。
結果と考察
CETP遺伝子Int14GA多型、D442G多型の変異型はいずれも有意に高いHDLコレステロール値を示した。しかし、各種動脈硬化性疾患マーカーとは有意差な相関を示さず、遺伝子性の高HDL血症は動脈硬化性疾患の予防因子とはならない可能性が示された。解析した4つのNAT2遺伝子多型の組み合わせから、野生型は43.6%、変異型のヘテロ接合体は44.7%、変異型のホモ接合体は11.6%であった。この頻度は、性別や年齢階層に依らず一定であった。日本人の約半数はNAT2遺伝子の変異型保有者であり、特にホモ接合体では薬物投与前の遺伝子検査が必要といえる。
結論
CETP遺伝子多型は高HDL血症の原因遺伝子となることが確認されたが、動脈硬化性疾患マーカーとの関連は認められなかった。NAT2遺伝子において、代謝能の低い変異型が、日本人において性別や年齢階層を問わず11%程度認められることが明らかとなった。これらの成績は、今後の予防医療診療実現に向けて、有用な知見になる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200501174B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝子解析に基づく循環器病・糖尿病の予防医療診療の試み
課題番号
H16-健康-011
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
三木 哲郎(愛媛大学医学部 老年医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 郁子(愛媛大学医学部 環境遺伝学講座)
  • 田原 康玄(愛媛大学医学部 統合医科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
テーラーメード医療の実現に向け、循環器疾患感受性遺伝子ならびに薬剤応答性遺伝子の解明と臨床的意義の明確化を目的とした。
研究方法
一般地域住民約3000例、企業従業員約2000例、および人間ドック受診者約800例を解析対象とした。遺伝子多型は末梢血より抽出したDNAを用いTaqManプローブ法で解析した。
結果と考察
スタチンの血中脂質低下作用に対する肝有機アニオントランスポーターOATP-C遺伝子多型の影響を検討したところ、OATP-C遺伝子V174A多型と脂質低下量とに有意な相関が認められ、アラニン型では脂質低下作用が減弱していた。メタボリックシンドロームとGタンパク質β3サブユニット遺伝子(GNB3)C825T多型との関連について検討したところ、GNB3遺伝子のTアレルと、肥満、高血圧、高中性脂肪、糖尿病の集積とには有意な相関が認められた。遺伝-環境相互作用に着目して、ドーパミンβ水酸化酵素(DBH)遺伝子C-1021T多型と高血圧との関連を検討したところ、高血圧に対して、DBH遺伝子多型と空腹時血糖との交互作用が種々の交絡因子を調整した上でも有意な説明変数となることが示された。コレステリルエステル転送蛋白(CETP)遺伝子のInt14GA、D442G多型と血中HDLコレステロールならびに動脈硬化性疾患マーカーとの関連を検討したところ、両多型はいずれもHDLコレステロール量と相関したが、各種動脈硬化性疾患マーカーとに関連は認められなかった。arylamineやhydrazine系薬剤の代謝に影響するHepatic arylamine N-acetyltransferase (NAT)遺伝子多型について、日本人における頻度を検討したところ、代謝速度が遅く副作用の危険性が高い変異型のホモ接合体が、日本人一般地域住民において11.6%認められた。
結論
GNB3遺伝子C825T多型がメタボリックシンドロームのリスクとなる。
DBH遺伝子C-1021T多型が血糖値上昇を介し高血圧のリスクとなる。
スタチンの脂質低下作用はOATP-C遺伝子V174A多型の影響を受ける。
CETP遺伝子多型による高HDL血症は動脈硬化性疾患マーカーと関連しない。
NAT2遺伝子の変異型が日本人において性別や年齢階層を問わず11%程度認められる。
これらの成績は、今後の予防医療診療実現に向けて、有用な知見になる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501174C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)GNB3遺伝子、DBH遺伝子多型が血糖などの環境因子との交互作用をもって高血圧等循環器疾患のリスクとなる、(2)OATP-C遺伝子がスタチンの脂質低下作用に影響する、(3)CETP遺伝子多型による高HDL血症は動脈硬化性疾患マーカーと関連しない、(4)一部の薬物による副作用と関連するNAT2遺伝子の変異型が日本人において性別や年齢階層を問わず11%程度認められることを見いだした。テーラーメードの予防医療診療の実現に向けて基盤となる成果といえる。
臨床的観点からの成果
(1)GNB3遺伝子、DBH遺伝子多型が高血圧等循環器疾患のリスク診断に利用出来る、(2)OATP-C遺伝子多型がスタチン投与量の判断材料に利用できる、(3)CETP遺伝子多型が高HDL血症の成因解明ならびに介入治療の判断材料に利用できる可能性が示された。日本人の約1割においてヒドラジン系薬剤等の慎重投与が必要であることが示された。
ガイドライン等の開発
ヒドラジン系薬剤等の利用にあたってNAT2遺伝子多型による個別化を行う遺伝学的必要性、ならびに高HDL血症の診断にCETP遺伝子多型が有用であることを明確化したことで、将来的にガイドライン等の開発に寄与する成果といえる。
その他行政的観点からの成果
遺伝的背景に基づいた個別化医療・予防により、薬剤による副作用の防止、適切な薬剤の選択による薬理効果の向上、効果的な予防介入対象のスクリーニング等が可能となり、医療費の軽減ならびに国民の健康維持増進に大きく貢献するものと期待される。
その他のインパクト
本研究の成果は、一般地域住民を対象とした講演等において活用され、医科学研究あるいは個別化医療に対する国民の理解を深める上で、大きく貢献している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
34件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamamoto M, Abe M, Jin JJ et al
Association of GNB3 gene with pulse pressure and clustering of risk factors for cardiovascular disease in Japanese
Biochem Biophys Res Commun. , 316 (3) , 744-748  (2004)
原著論文2
Jin JJ, Nakura J, Wu Z, et al
Association of angiotensin II type 2 receptor gene variant with hypertension.
Hypertens Res. , 26 (7) , 547-552  (2003)
原著論文3
Wu Z, Nakura J, Abe M, et al
Genome-wide linkage disequilibrium mapping of hypertension in Japan.
Hypertens Res. , 26 (7) , 533-540  (2003)
原著論文4
Chen Y, Nakura J, Jin JJ, et al
Association of the GNAS1 gene variant with hypertension is dependent on alcohol consumption.
Hypertens Res. , 26 (6) , 439-444  (2003)
原著論文5
Jin JJ, Nakura J, Wu Z, et al
Association of endothelin-1 gene variant with hypertension.
Hypertension. , 41 (1) , 163-167  (2003)
原著論文6
Yamamoto M, Abe M, Ji JJ, et al
Association of a GNAS1 Gene Variant with Hypertension And Diabetes Mellitus.
Hypertens Res. , 27 , 919-924  (2004)
原著論文7
 Tachibana-Iimori R, Tabara Y, Kusuhara H, et al
Effect of genetic polymorphism of OATP-C (SLCO1B1) on lipid-lowering response to HMG-CoA reductase inhibitors.
Drug Metab Pharmacokinet. , 19 , 375-380  (2004)
原著論文8
Taguch K, Yamagata H, Zhong W, et al
Identification of hippocampus-related candidate genes for Alzheimer’d disease.
Ann Neurol , 57 , 585-588  (2005)
原著論文9
Abe M, Wu Z, Yamamoto M
Association of dopamine beta-hydroxylase polymorphism with hypertension through interaction with fasting plasma glucose in Japanese.
Hypertens Res. , 28 , 215-221  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-11-20
更新日
-