視床下部GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)ニューロンと下垂体GH細胞の、機能的連関の成立過程の解析

文献情報

文献番号
199700129A
報告書区分
総括
研究課題名
視床下部GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)ニューロンと下垂体GH細胞の、機能的連関の成立過程の解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
川村 光毅(慶應義塾大学医学部解剖学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 野上晴雄(慶應義塾大学医学部解剖学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児が正常に発育するためには、母体からの栄養、酸素の供給のほかに胎児自身の内分泌機能の適正な発達がなければならない。成長ホルモン(GH)分泌はその中でもとくに重要なものの一つであるが、胎生期におけるGHの分泌調節機構については不明な点が多い。GH分泌を促進するGH放出ホルモン(GHRH)は視床下部で産生され、下垂体門脈を介して下垂体にいたりGHの分泌を促す。このようなGH分泌に関する視床下部と下垂体の有機的な機能連関が、いつ、どのような機転で成立するかは、未だ明らかではない。すなわち、胎生18-19日頃に視床下部GHRHニューロンと下垂体のGH細胞はほぼ同時に発生する1,2)が、これらの発生はそれぞれ独立して起こる現象であり、相互に影響しあうことはない。しかし、その後遅くとも胎生21日には、視床下部GHRHが下垂体GH細胞に作用しGHの分泌を促すことが知られている3)。
GHRHによるGH分泌調節が成立するためには、様々な要素の発達が前提となる。すなわち、視床下部でのGHRHの産生・輸送、下垂体門脈への放出、下垂体では、GH細胞におけるGHRH受容体の発現、及び受容体でとらえた情報の処理機構などである。本研究では、下垂体におけるGHRH受容体の発生、および発現調節機構の解明のため、胎仔下垂体とMtT-S細胞を用いて、以下の2点に注目して実験を行った。 (1)胎児ラット下垂体においてGHRH受容体mRNAはいつ頃発現を開始するか、(2)GH細胞がGHRH受容体を発現するのはどのような因子の作用によるか、その作用機序は何か。
研究方法
Sprague-Dawley系ラット(妊娠12日目、膣スメア中に精子を確認した日を妊娠0日とする)を購入し、22℃の飼育室に14時間照明で飼育した。固形飼料と水は自由摂取とした。以下、ラットを用いた実験は慶應義塾大学の動物実験指針に沿って行った。胎生17-21日ラットから、実体顕微鏡下に下垂体を摘出、一部はRNA分析のため-80Cで保存、他は、血清を含まないDMEM培養液(抗生物質を含む)中で2-24時間培養した。MtT-S細胞は、埼玉大学・理学部・生体制御学科、井上金治教授より供与を受け、10% horse serum, 2.5% fetal bovine serumを含むDMEM/F12培養液(抗生物質を含む、以下培養液A)で生育させ実験に使用した。
胎仔下垂体あるいはMtT-S細胞から常法4)に従いtotal RNAを抽出し、GHRH-R mRNAおよびGH mRNAをRNase protection assayにより定量した。
結果と考察
胎生17日下垂体ではGHRH-R mRNAが検出されなかったが、胎生18日下垂体では微量ながらGHRH-R mRNAの発現が認められ、その後mRNAレベルは胎生20日まで急激に増加した。胎仔下垂体を摘出しDEX(50nM)を含む無血清MEMα液中で24時間培養すると、胎生17、18日下垂体にも明らかなGHRH-R mRNA発現が認められた。すでにGHRH-R mRNA発現の認められる胎生19日の下垂体を、DEXを含まない無血清MEMα液中で24時間培養するとGHRH-R mRNAレベルは時間経過と共に低下し、24時間後には培養開始時点の10%以下になった。このとき培養液中にDEXを加えるとGHRH-R mRNAレベルは24時間後、培養開始時点の160%にまで上昇した。これはDEXがGHRH-R mRNAの転写を促進したか、分解を抑制したか、あるいはその両方の結果であると考えられる。このようなGHRH-R mRNA蓄積作用はDEXのみに認められ、エストラジオール、甲状腺ホルモン、cAMPなどは成熟動物の下垂体ではGHRH-R mRNAレベルを上昇させる事が知られているが、胎仔下垂体では効果が認められなかった。胎仔下垂体のみならずMtT-S細胞においてもDEXの作用発現は2-4時間という短時間のうちに起こることがわかった。さらにDEXとともにタンパク合成阻害剤であるpuromycin(100μM)を作用させると、DEXの作用が強められた。
Puromycinのみを作用させた場合でも、対照に比べて明らかなGHRH-R mRNAレベルの上昇がみられた。DEXの作用がタンパク合成を介することがわかっているGH mRNAの発現誘導には、puromycinは明らかな抑制効果を示した。
結論
?ラット胎仔下垂体ではグルココルチコイドがGHRH受容体発現を胎生19日に誘導する。?この作用はグルココルチコイド-受容体複合体による当該遺伝子転写促進によるものと思われる。?GH細胞にはGHRH-R mRNA発現を抑制する比較的代謝の早い因子が常に存在し、GHRH-R mRNAの転写はこの転写抑制因子とグルココルチコイド-受容体複合体により競合的支配を受けていると考えられる。

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