複数の県・市からなる地方の広域的保健衛生活動における県・市相互間協調体制の確立とその中における地方衛生研究所の役割に関するモデル研究

文献情報

文献番号
199700128A
報告書区分
総括
研究課題名
複数の県・市からなる地方の広域的保健衛生活動における県・市相互間協調体制の確立とその中における地方衛生研究所の役割に関するモデル研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
片桐 進(山形県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本仁(宮城県保健環境センター)
  • 宮島嘉道(秋田県衛生科学研究所)
  • 大友良光(青森県環境保健センター)
  • 熊谷学(岩手県衛生研究所)
  • 伊藤善通(仙台市衛生研究所)
  • 加藤一夫(福島県衛生公害研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各地域において保健衛生活動が精力的に推進されているが、国際化とともにヒト、物の激しい動きの中で、それらの活動はその地域内において完結することは少なく、近隣地域、さらに国全体との関わりの中で行動しなければならない場合が多々生じている。すなわち、自治体相互間の協調の下に、各地域の特殊性を保持しながら、広域的、組織的に活動することの必要性が問われている。平成8・9年の腸管出血性大腸菌感染症の全国的発生においても、協力体制の不備に関する反省が指摘された。
本研究では、東北地方という複数の県・市からなる一地方をモデル地域として、広域的保健衛生活動における県・市相互間の協力体制の在り方とその中における地方衛生研究所の役割について、食中毒対策活動を試行しながら、検討を加える。
研究方法
東北地方、6県・1市、各県・市の本部局食品衛生担当課(保健所等の代表として)・7機関, 各県・市の地方衛生研究所・7機関, 食品衛生に関する研究を行っている大学研究室・1機関が参加。主な事業として、1)研究班会議(2回)、2)全体会議及び研修会、3)研究課題:?食中毒事件情報の共有化に関する研究(山本、宮島担当)、?共同調査・研究体制の在り方に関する研究(大友、熊谷担当)、?共同研修の在り方に関する研究(伊藤、加藤担当)、?広域事件発生時の協力体制に関する研究(伊藤、加藤担当)。
結果と考察
研究結果の概要と考察=
1 食中毒事件情報の共有化に関する研究(東北食中毒研究会情報活動から)
1)食中毒事件情報データベース化の構築
2)食中毒事件発生の速報
2 複数の地方衛生研究所による共同研究に関する研究
3つの研究班を組織して、それぞれの活動を通して共同研究の方法について検討した。1)腸炎エルシニア血清型O8菌感染症の予防に関する研究(大友担当)
2)東北地方における腸管出血性大腸菌O157による Diffused Outbreak の発生・実態に関する研究(八柳担当)
3)食中毒対策におけるウイルス検査に関する調査(関根担当)
活動結果から以下のような事が指摘された。
1)これまでもいくつかの地方衛生研究所が共同で調査・研究活動を行っていたが、それらの研究組織は、研究所相互の了解に基づいて、換言すれば人と人との繋がりの中で組織されたものであり、公的に認められたものでない場合がほとんどであった。当然、研究経費は、各地方衛生研究所の既決予算の中で行ってきたので、十分な成果をあげることができずに終わったものもある。本研究のように研究助成を受けて行う場合は、研究の遂行に関する支障はないが、自治体によっては予算の使用方法に制限される場合も生じている。
これは、国その他からの研究助成に対する自治体の認識が不足していることによると考えられる。保健衛生行政主管部局に対する各地方衛生研究所からの説明の努力も必要であるが、共同調査・研究の推進について、国からの積極的な働きかけが望まれる。
2)今回の研究活動の成果を見ても、経済的な裏付けがあれば、広域的な感染症及び食中毒の疫学的解析が可能であり、各地方衛生研究所単独の調査では見えなかった新しい知見が得られることがわかった。
また、全国的大規模な疫学調査を計画するよりも、各地方、例えば地方衛生研究所全国協議会組織の6支部のようなブロック単位で実施すれば、よりきめ細かな調査結果が得られ、且つそれらの研究成果の集約が比較的容易に行えると考える。
3)これらの研究成果は、最終的に保健衛生活動に反映されなければならない。その目的のためには、研究班編成に際して、保健所との交流のある地方衛生研究所職員のような行政的感覚と疫学的研究の能力のある者を班員に加える配慮が必要である
4)調査の内容によっては、成果を直ちに公表することを憚る状況に直面する場合もある事が、今回の研究活動から明らかになった。原則的には公表すべきであるが、その公表の時期を見極める配慮が必要と考える。
3 複数の県・市共同の研修体制に関する研究
平成9年度には、特別講演を含むシンポジウムと技術研修の2つの研修会を試行。
研修会試行から、次のような問題点、検討課題が指摘された。
1)研修課題の選定について:今回は時間的制約があり、研修企画担当が独自に課題選定・計画・実行した。研修終了後、参加者を対象に行ったアンケートでは、全員が同様の研修には今後も参加を希望していたが、研修内容について満足した者は半数に満たなかった。これは、研修課題に関するニーズの把握が不十分であったとの評価であり、今後の研修計画の際には、予め希望の調査を行う必要があると考える。しかし、希望される課題が、その時々における適切な課題であるとは限らない場合もあることを念頭において企画する必要があろう。
また、今回の技術研修の対象者が、地方衛生研究所と保健所という立場の若干異なる者であり、且つ研修内容が同一、研修講師が地方衛生研究所職員であったことから、知識、技術の伝達がスムースでなかった面が伺われた。しかし、保健所職員からは、一緒に同一の研修を受けることにより、同一の認識を持って今後の業務に当たれることは非常に有意義な、有用な研修方式であるとの意見が強かった。
2)研修会開催の方法について(開催の経費、時期、期間、場所等)
(1)経費:今回は、本特別研究事業の一環として実施したので、参加者の負担は旅費のみで済んだ。しかし、突然の開催となったため、参加を希望しても旅費の支給ができなかった為に、余儀なく不参加となったと言う声が多くあった。共同の研修を企画する際には開催及び参加の費用の予算措置ができるような配慮が必要である。
(2)時期:研修会の開催予定を、できるだけ早期に案内すること。
(3)期間:期間は研修目的により異なり、研修目的を達成するに十分な企画をすることは理想であるが、参加者は、業務を遂行しながらの参加であることを念頭に置く必要がある。今回、研修の一部をビデオ研修とした。時間の節約ができる上に、理解しやすいと好評であった。しかし、ビデオ作成には、かなりの時間と労力を必要とする。研修ビデオ・ライブラリーが整備されれば、時間と費用の節約ができると考える。 また、研修期間が短ければ、参加者の理解が不十分に終わると予想されたが、研修講師をはじめ参加者が近隣地域の者であることから、研修後のフォローアップが容易であるという実感を得た。すなわち、国で必要な研修は、例えば、地方衛生研究所全国協議会の6支部のような、ブロックの代表(複数名)を対象として、必要且つ十分に実施し、続いて研修受講者が、各ブロックにおいて伝達研修を行うという方法が、より有効であると考える。試みるべき方法の一つであろう。
(4)場所:研修講師の所属する施設において実施することが理想である。
(5)広域的に事業を推進するには、関係機関の相互理解が必須であると同時に、事業推進のための調整役が必要である。技術的研修活動については、地方衛生研究所全国協議会の組織を活用することが有用であると考える。
結論
広域的災害発生時における自治体相互間の協力体制に関する協定は、周辺又は遠隔の自治体間でそれぞれ結んでおり、事件も災害の一部に含まれると考えている。したがって、新たな協力体制に関するルールを整備することは難しい。
しかし、自治体における「災害」とは、地震、出水、大火等を対象とし、これらの災害に付随した事件のみが助力の対象となるという認識が強いために、食中毒、感染症等の広域的発生事件における地方衛生研究所相互間の協力活動に対する人的・経費的面支援は、ほとんど行われていない現状にあると言わざるを得ない。地方衛生研究所間の相互支援は、ヒトとヒトとの繋がりの中で、自主的に行われており、公的に裏付けられた活動ではない。
このことが、将来、緊急を要する広域的事件発生時に支障を来すことは明らかである。
早急に、現在ある協定の中に、食中毒・感染症等の広域的事件発生時協力に関する協定も明文化する必要があるとと同時に、その協定の存在を広く知らしめて、すべての人が共通の認識に立つことが重要であると考える。
これらのことは、まず、地域ブロック単位で活動を推進することが現実的と考える。
自治体相互間の協力は、各自治体の幹部の認識と行動力に基づく協定が最優先であることは当然であるが、加えて、関係者一人ひとりの自覚と行動力が基礎となることを強く認識すべきである。
広域的事件発生時という緊急事態に、直ちに、各部門が同時に活動を開始可能な体制づくりに向けて、国の強力な指導に期待する。

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