地方衛生研究所と国立試験研究機関との機能分担・機能連携の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
199700127A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所と国立試験研究機関との機能分担・機能連携の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地方衛生研究所(以下、地研と略)は、都道府県又は指定都市等における科学的かつ技術的中核として、調査研究、試験検査、研修指導及び公衆衛生情報等の収集・解析・提供を行うと定められており、調査研究については、地研相互間や国立試験研究機関(以下、国研と略)との協力を強化し、プロジェクト研究、学際的総合研究等を積極的に推進する;試験検査では国研と連携し、レファレンスセンタ-としての役割を担うとともに行政検査等の精度管理を行うものとされている(平成9年3月、地研設置要綱)。一方、国研については、現在再編成が行われようとしており、国の責務として考えられるような研究課題に取り組む方向が明確に打ち出されつつあるが、感染症サ-ベイランスを例にとっても、その病原体等に関する情報の発生源の多くは地研であり、国としても、今後とも地研との機能分担・連携の在り方を十分に調査検討しておく必要がある。また、調査研究機能に加えて、調査研究等に関する公衆衛生情報等の収集、解析、提供に関する機能分担、連携策やマンパワ-に対する研修機能における分担、連携の在り方も早急に調査する必要がある。このため、国研との密接な相互協力関係の下で、地域の枠を超えた調査研究の交流等共同研究への積極的な取り組みをはじめ、研究情報ネットワ-クの整備や研修活動の展開等、具体的な方策について調査検討を行い、地研及び国研の機能強化に資することを目的とする。
研究方法
地研8人+国研3人、さらに及び協力研究者(地研)14人からなる研究チ-ムを編成し、「共同研究」の具体的な推進方策や地研と国研との「情報」に関する全国調査や米国における事例等を調査、検討した。また、共同研究の推進に関する意見、提言を全国より募集し、14人の意見、提言集を今回新たに取りまとめた。
結果と考察
?共同研究の推進には、研究者の専門分野や研究内容、研究業績等研究に関する情報が必要である。平成元年より作成している地研業績集は、学術専門誌とは違った地研独自の研究資料として利用価値は高いとされるが、その活用を図るためには、デ-タベ-スソフト、ファイル様式の改良が必要となっており、オンライン化も視野に入れ、厚生科学研究報告書のデ-タベ-スとの統合を検討すべきである(福岡県;森 良一所長)。
?地研における研究課題の発掘(選定)等における所長のリ-ダ-シップについてみると、所長の行政経験の有無、職種によって、課題の発掘や選定の方法の違い、将来に向けて取り組むべき調査研究領域や対人保健に関連する調査研究のための条件整備への指向の違い、疫学的指向・手法の指導の違い等が認められた。国研との共同研究においては、これらの特性にも配慮し、その整合性、効率化を図る必要はあろう。(石川県;西 正美所長)。
?共同研究事例:国立医薬品食品衛生研究所が全国の地研に共同研究の提案をした結果、23機関が参加して、新築及び中古住宅のホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)の室内濃度調査研究がスタ-トし、貴重なデ-タを集積しつつある。測定技術の標準化及び研修普及、さらに、sick house症候群等住居衛生問題への地研のアプロ-チ等多様な成果が得られている。本プロジェクトは、研究機関相互の連帯感、信頼感の醸成にも寄与しており、地研及び国研相互の機能連携・分担の在り方を示す展開事例として注目していきたい(国立医薬品食品衛生研究所;斉藤行生副所長)。
?地研と国研との過去5年間の共同研究(狭義)は、44地研で実施され、研究者数115人、共同研究件数は126件であった。共同研究の相手としては、国立環境研究所が40件と最も多い結果を示した(国立感染症研究所35件、国立医薬品食品衛生研究所34件、国立公衆衛生院10件)。これは国立環境研究所が「共同研究募集要綱」を制定し、地域密着型環境研究(国立機関公害防止等試験研究費)や地方公共団体公害研究機関との共同研究を積極的に実施している(平成9年度は24機関、40課題)ためと思われる。国研(厚生省)でも「共同研究実施要綱」を制定するなど、「共同して調査研究ができる体制」づくりに向けて早急に対応すべきと思われる。(岡山県;森 忠繁所長、岐阜県;井口恒男所長)。
?本年度から取り組んだ「情報」の問題は、「共同研究」分野よりさらに遅れている。国研と地研の情報に関する連携については、「十分ではないが改善されてきている」48%、「まだまだ不十分」46%であった。問題点(複数回答)としては、情報交換の場が少い62%、国研が地研から収集した全国デ-タの還元が不十分45%、地研側の体制に弱点がある34%となっており、地研と国研共に真摯な対応が必要と思われる。高度情報化社会、インタ-ネット時代の中で、地研及び国研が、相互に必要且つ重要な情報を誰もが容易にかつタイムリ-に送受信できる情報ネットワ-クの確立を急ぐべきである(大阪府;織田 肇副所長、広島市;荻野武雄所長)。
?米国ではHL7(Health Level 7;ヘルスケア分野における電子デ-タ交換のための国家公認の標準)を基本形式として情報形式の標準化がされ、全ての州、地域の研究室、保健局はHL7 を受け入れることになっている。こうした検査情報の伝達の機関間の障害を取り除き、より効果的、より創造的、より実際的な枠組みをつくっていくためには、情報の「標準化」が不可欠であり、わが国でも検討すべきではないか。(東京都;鈴木重任所長)
?「共同研究」推進に関する意見、提言集の執筆者及び論題は、次のとおりである。
○青森県;大友良光部長:地方衛生研究所と国立試験研究機関との機能分担、機能連携の在り方に関する意見・提言。○奈良県;今井俊介所長:地方衛生研究所と国立試験研究機関との共同研究のあり方について。○岡山県;小倉肇科長:地方衛生研究所研究者の共同研究に対する自覚。○長野県;藤島弘道所長:国立試験・研究機関との連携を強固にするために。○神戸市;林皓三郎所長:協議会の活用による共同研究の企画・評価システムの構築とレファレンスシステムの拡充を。○宮城県;白石廣行部長:危機管理体制の整備;国立感染研と地研の検査ネットワ-クと共同研究の提言。○静岡県;宮本秀樹部長:公立衛生研究機関の機能・役割分担のあり方。○鳥取県;平賀瑞雄所長;地方衛生研究所からの要望。○千葉市;大道正義次長:食品の高機能分析ネットワ-クの構築と機能分担について。○千葉市;宮本廣副主査:『地方別、性・年齢階層別生体資料の微量元素分析とそのデ-タベ-ス化について』の提言。○京都市;今宿晋作所長:地方衛生研究所でル-チンの業務として行っている事業を見直すための場を設けることの必要性について。○石川県;田嶋隆俊室長:対人保健分野の共同研究を推進するための条件整備に関する提言。○神奈川県;高橋正弘専門研究員:共同研究等支援機構の設立。○長崎県;平山文俊部長:試験・研究推進総合計画を策定すること。   
結論
新たな地域保健体系の中で、地研が地域における科学的かつ技術的中核として地域
保健対策を支援していくためには、調査研究、試験検査、研修指導、公衆衛生情報の各分野における国研との機能分担・機能連携が不可欠である。国研との共同研究は次の5つに
区分される。?地研が取り組む地域の生活・社会密着型研究、問題解決型研究への「支援」的研究。 ?地域のニ―ズやポテンシャルを生かして地域が共同して取り組む基礎的研究の地域展開。 ?健康被害危機管理的な調査研究;全国的な実態調査・モニタリングのための調査研究。 ?国研が取り組む先導的・基盤的研究の地域展開。 ?プロジェクト研究、学際的総合研究の積極的(全国的)に推進する研究。いずれの共同研究でも、地研にとっては、その研究目的に沿った研究の展開に加えて、地研の調査研究業務の活性化及び技術レベルの向上が図られることから、共同研究の意義は倍加されるが故に、情報部門の整備と併せて「共同して調査研究できる体制」を地研、国研共に、早急に整備すべきである。

公開日・更新日

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