ヘモグロビンアロステリーを利用した付加価値赤血球製剤の創製と救急医療への応用

文献情報

文献番号
200501122A
報告書区分
総括
研究課題名
ヘモグロビンアロステリーを利用した付加価値赤血球製剤の創製と救急医療への応用
課題番号
H16-医薬-066
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
末松 誠(慶應義塾大学・医学部 医化学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 堀 進悟(慶應義塾大学・医学部 救急部)
  • 塚田 孝祐(慶應義塾大学・医学部 医化学教室 )
  • 酒井 宏水(早稲田大学・理工学部 高分子化学)
  • 芹田 良平(慶應義塾大学・医学部 麻酔学教室 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究で作製されたヘモグロビンα鎖に特異的にNO分子を結合させた赤血球(以下α-NO赤血球)は,血管作動物質のシンクリザーバとして機能することが明らかになりつつある.また,α-NO-赤血球は,酸素解離曲線を右にシフトさせることがこれまでの研究から明らかになっており,それは組織への酸素輸送の観点から,低酸素領域に必要十分な酸素を供給することが可能であることを示唆している.以上の仮説を証明するために,小型霊長類であるコモンマーモセットを用いて40%出血性ショックを惹起し,α-NO赤血球による蘇生を試み,その有効性を検討することを目的とした.
研究方法
コモンマーモセットを無作為に3群に分け,それぞれα-NO赤血球,洗浄自己赤血球,生理食塩水群とした.30分間の血圧安定を確認し,0.5ml/minで脱血を開始した.血圧が40mmHgに達するか,或いは脱血量が全血液量40%に達した時点で脱血を停止し,30分間維持した.α-NO赤血球,洗浄自己赤血球,生理食塩水を1.0ml/minで脱血量と同量輸液し,完了後1時間血圧を観察した.実験終了後,採血を行い血液ガスを分析した.
結果と考察
(1) 出血性ショックに対してα-NO赤血球を輸血した結果,ショック前の血圧まで十分回復することが明らかになった.また対照として用いた洗浄自己赤血球群より増大する傾向が認められた.これまでの齧歯類による実験結果においてもα-NO赤血球による輸血は良好な血圧の回復を示したが,霊長類においてもそれが確認された.
(2) 輸血後の血液分析から,血漿pH,乳酸値は正常範囲まで回復することが明らかになった.これはα-NO赤血球が組織における酸素の需要に対して十分供給されていることを示す結果である.これまでの齧歯類の実験から,α-NO赤血球は代謝性アシドーシスを改善する効果を有することを示したが,今回のコモンマーモセットの実験からはその優位性を示すには至らなかった.これは動物種によるショックに対する抵抗性の違いによるものと思われた.
結論
ヘモグロビンα鎖に特異的にNOガス分子を修飾して得られる赤血球機能を救急医療用途に適したマテリアルとする可能性について霊長類のコモンマーモセットを用いて検討した結果,α-NO赤血球は霊長類のショックモデルにおいて有効に組織への酸素運搬を行い,ショックからの改善に寄与することが示唆された.

公開日・更新日

公開日
2009-04-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200501122B
報告書区分
総合
研究課題名
ヘモグロビンアロステリーを利用した付加価値赤血球製剤の創製と救急医療への応用
課題番号
H16-医薬-066
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
末松 誠(慶應義塾大学・医学部 医化学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 堀 進悟(慶應義塾大学・医学部 救急部)
  • 塚田 孝祐(慶應義塾大学・医学部 医化学教室)
  • 酒井 宏水(早稲田大学・理工学部 高分子化学)
  • 芹田 良平(慶應義塾大学・医学部 麻酔学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民の篤志で得られた限られた量の血液をできる限り多くの患者に供給するためには,少量でも有効に酸素運搬をできる付加価値赤血球製剤の開発が不可欠である.Hbは一般にT-R transitionと呼ばれる構造変化を酸素の乖離・結合に伴って示すことが知られているが,そのような可塑性は病態や赤血球がおかれた環境によって大きく変化する.本研究ではガス分子でHb allosteryを人為的に制御する手法を確立し,献血によって供与された赤血球が単に酸素運搬体として機能するだけではなく,出血性ショック等で輸血した際に末梢循環を改善する効果を有する付加価値赤血球製剤を創製する手法の確立を目的とした.
研究方法
α-NO赤血球の作製は健常ボランティアから採血し,bufferにて3回洗浄後,NOドナーとしてNOR3を用いて作製した.赤血球内代謝産物の網羅的解析はキャピラリー電気泳動/質量分析装置(CE-MS)法を用いた.動物実験に関しては各研究機関の承認を得て行った.
結果と考察
赤血球内の代謝産物をメタボローム解析により網羅的に定量した結果,赤血球外へのATP放出の可能性が示唆された.これはウサギ脳微小単離血管による実験でα-NO赤血球の灌流による有意な拡張を示したこと,またラットによる出血性ショックモデルにおける胆汁流量の増大など,本研究で得られた実験結果を支持するものである.問題点として保存赤血球をα-NO化した際の赤血球膜の脆弱性の検討,metHbの増大の予防が必要であると考えられた.出血性ショックに対するα-NO赤血球輸血が代謝性アシドーシスを早期に改善しうることが示された.この機序として,α-NO赤血球が血管拡張作用を有し,心拍出量と組織血流が確保されること,およびT-stateのHbが低酸素下において酸素分子を放出しやすい特徴を有することが組織への酸素供給を高めていると考えられた.霊長類への投与実験としてコモンマーモセットを用いて出血性ショックに対する輸血効果を検討した結果,血圧・心拍数,血液ガス分析結果に関して良好な回復を示した.
結論
ヘモグロビンα鎖に特異的にNOガス分子を修飾して得られる赤血球機能を救急医療用途に適したマテリアルとする可能性について,生体内における機能をin vitroで検証し,in vivoによる検討を進めた.最終的には霊長類への輸血実験を実施し,その有効性を証明するに至った.

公開日・更新日

公開日
2009-07-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501122C

成果

専門的・学術的観点からの成果
献血で得られた血液をより有効利用する新たな手段を得る目的としてNOやCOのガス分子でヘモグロビンの立体構造をT型,R型に安定化することにより,赤血球内代謝が劇的に変化することがメタボローム解析から明らかになり,それを人為的に制御する手法を確立した.本研究課題は輸血を目的とした応用研究であるが,ヘモグロビンの立体構造による細胞内代謝の変化が低酸素領域において赤血球が積極的に血流を制御して有効に酸素を末梢に伝達する機能を発揮することが明らかになるなど,大きな学術的成果であると考える.
臨床的観点からの成果
作製したα-NO-Hb含有赤血球は出血性ショックに対して代謝性アシドーシスを早期に改善しうることが示された.この機序としてα-NO赤血球が血管拡張作用を有し,心拍出量と組織血流が確保されること,およびT-stateのHbが低酸素下において酸素分子を放出しやすい特徴を有することが考えられた.また霊長類への投与実験の結果,輸血後の血圧・心拍数は正常赤血球と同等であり,血液ガス分析結果も良好であることを示す結果が得られた.今後安全性に対する検討を加える必要があるが,臨床応用への期待が見込まれた.
ガイドライン等の開発
本研究の成果としてのガイドライン策定などへの貢献はない。ただし下記行政的観点を参照。
その他行政的観点からの成果
赤血球が低酸素感受性血管拡張作用を持つことが明らかになったことで、現在開発中のリポソーム型人工酸素運搬体と体内の赤血球を体内に投与した場合に根本的相違がある点が明確になり、代表者が平成17年度次世代医療機器評価指標作成事業審査WGにおいて具申した。その結果リポソームがヘモグロビンを封入する単なるカプセル=医療機器ではなく、ヘモグロビンと一体化して生体制御機構への影響を評価すべき医薬として捉えるべきであるとの答申が、平成17年度次世代医療機器評価指標作成事業合同検討会に提示された。
その他のインパクト
平成18年2月11日一般向け公開シンポジウム「人工血液をつくる」においてその成果が発表された。またその際発表した成果は日経工業新聞に記事として公表された。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
45件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
38件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suganuma K., Tsukada K., Suematsu M., et al.
Erythrocytes with T-state-stabilized hemoglobin as a therapeutic tool for post-ischemic liver dysfunction
Antioxidants & Redox Signaling  (2006)
原著論文2
Sakai H., Cabrales P., Tsai A.G., et al.
Oxygen Release from low and normal P50 Hb-vesicles from Transiently Occluded Arteriole in the Hamster Window Model
American journal of physiology , 288 , 2897-2903  (2005)
原著論文3
Sakai H., Hisamoto S., Fukutomi I., et al.
Detection of lipopolysaccharide in hemoglobin-vesicles by Limulus amebocyte lysate test with kinetic-turbidimetric gell clotting analysis and pretreat-ment with a surfactant
Journal of pharmaceutical sciences , 93 , 310-321  (2004)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-