新型インフルエンザ用ワクチンの有効性・安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
200501105A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザ用ワクチンの有効性・安全性確保に関する研究
課題番号
H16-医薬-074
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小田切 孝人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
研究分担者(所属機関)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 河岡 義裕(東京大学医科学研究所)
  • 今井 正樹(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 二宮 愛(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所感染病理部)
  • 神谷 齊(国立病院機構三重病院)
  • 城野 洋一郎(化学及血清療法研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
38,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在世界中の家禽で発生している高病原性H5N1鳥インフルエンザの流行は、制圧不可能となった。また人への感染例も増え続けていることから、当該ウイルスに起因したパンデミックが近い将来予想される。
 従って、パンデミック前に安全で有効な新型ワクチンの開発が急務である。本研究では、現在世界各地で流行している複数の異なるH5N1ウイルスから、ワクチン製造候補株を作製し、動物モデルによる安全性と有効性の検討を行う。さらにGMPに準拠した施設でワクチン種ウイルス製造用の細胞株の構築、ウイルス回収系の構築を目的とした。
研究方法
・GMP対応のLLCMK2細胞バンクの作製とし、各種安全性試験の実施。
・H5N1プロトタイプワクチンのバイオセフティーリスク評価。
・第3世代のリバースジェネティクス(RG)法に用いるプラスミドの構築。
・マウスにおけるH5N1試作ワクチンの効果の検証。
・現行ワクチンの接種量による抗体応答の検討。

結果と考察
1. 人への接種用ワクチンの種ウイルス作製のために、GMP施設で培養し安全性の検証されたLLCMK2細胞の確立を行った。腫瘍原生試験を除いた全ての項目が合格であることが確認された。
2.  H5N1プロトタイプワクチンをWHOのバイオセフティーリスク評価に基づいて評価した結果、安全であることが証明された。
3.  RG法を改良し、よりウイルス回収効率の高い4プラスミド系RG法の確立に成功した。
4. アルムアジュバント全粒子H5N1ワクチンを試作し、その効果をマウスモデルにより検証し、アジュバントの添加でより強固な免疫原生と感染防御効果を誘導できることを証明した。また、2005年分離株からワクチン候補株を作製した。
5. 次世代の新型インフルエンザワクチンとして、poly(I:C)をアジュバントとした経鼻接種H5N1ワクチンを作製し、感染防御能を検証し粘膜免疫誘導の機序を明らかにした。
6. 小児における現行のインフルエンザワクチンの摂取量と抗体産生能の関連性を評価し、有効な接種量を年齢群別に設定することに成功した。これによって、新型インフルエンザワクチンの接種量の参考情報となる。
結論
・GMP-細胞株の構築と安全性試験がほぼ終了した。
・現在臨床試験を実施しているH5N1プロトタイプワクチンはバイオセフティーリスク基準を満たしている。
・プラスミド数の少ない第3世代のRG系の開発に成功した。
・最近のH5N1ウイルスは免疫原生が低いことをマウスモデルで証明した。
・H5N1経鼻接種ワクチンの免疫応答を解明した。
・現行ワクチンの接種量を新た設定できた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200501105B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザ用ワクチンの有効性・安全性確保に関する研究
課題番号
H16-医薬-074
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小田切 孝人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
研究分担者(所属機関)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 河岡 義裕(東京大学医科学研究所)
  • 今井 正樹(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 二宮 愛(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所感染病理部)
  • 神谷 齊 (国立病院機構三重病院)
  • 城野 洋一郎(化学及血清療法研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2003年末から発生した高病原性H5N1鳥インフルエンザの流行は、世界中の家禽に広がり、制圧は不可能となった。その間に人への感染例も増え続けていることから、当該ウイルスに起因したパンデミックが近い将来予想される。従って、パンデミック前に安全で有効な新型ワクチンの開発が急務である。
本研究では、弱毒化H5N1ワクチン作製のためのリバースジェネティクス(RG)法の構築と改良、それを用いた試作ワクチン株の動物モデルによる評価を行う。さらにヒト用ワクチンとして実用化するためにGMPに準拠したワクチン株製造系の構築およびそれに用いる細胞株の構築を目的とした。
研究方法
・ワクチン開発・製造・安全性評価のガイドラインの作成。
・RG法による弱毒化ワクチン作製系の確立と改良。
・試作ワクチンの安全性試験、ワクチン効果の検討。
・経鼻接種H5N1ワクチンの効果検討。
・GMP準拠細胞株LLCMK2細胞の確立と安全性試験の実施。
結果と考察
1.WHOのガイドライン作成に参画しRGワクチンの開発・製造・安全性評価のガイドラインを作成した。これに基づいて、H5N1プロトタイプワクチンを評価し、安全性を確認した。
2.A/PR/8/34をバックボーンとした12プラスミドからなるRG系を確立した。さらに、ウイルス回収効率を上げた4プラスミド系への改良に成功した。
3.アルムアジュバント全粒子H5N1ワクチンを試作し、その効果をマウスモデルにより検証し、アジュバントの添加で抗原量を1/10に減らせること、より強い感染防御効果を誘導できることを証明した。
4.poly(I:C)をアジュバントとした経鼻接種H5N1ワクチンを作製し、粘膜免疫誘導の機序を明らかにした。
5.人用ワクチンの種ウイルス作製のために、GMP施設でバンキングしたLLCMK2細胞株を確立し、腫瘍原生試験を除いた全ての項目で安全性を確認した。
6.小児における現行のインフルエンザワクチンの摂取量別の抗体産生能を評価し、有効な接種量を年齢群別に設定できた。これによって、新型インフルエンザワクチンの接種量を考慮する際の参考情報を提供できた。
結論
・RGワクチンの開発・製造・安全性評価のガイドラインを作成した。
・弱毒化H5N1ワクチン株製造用にA/PR/8/34をバックボーンとしたRG系の構築およびその改良に成功した。
・H5N1全粒子ワクチンにアルムアジュバント添加でより強固な免疫原生と感染防御効果を誘導できることを証明した。
・GMPに準拠した細胞バンクLLCMK2細胞株を確立し、安全性を確認した。腫瘍原生試験については検討中である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501105C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・現在世界中で流行している高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルスを用いたワクチン株作製には、リバースジェネティクス(RG)法による遺伝子改変技術が必要である。本研究ではこの系を確立した。さらに、遺伝子改変ウイルスを効率よく回収できる改良型RG法を確立した。これは、ワクチン株作製のみならず、インフルエンザ学全般に応用でき科学的な貢献は大である。
・アルムアジュバントH5N1全粒子ワクチンおよびポリICを添加した経鼻接種ワクチンの効果および免疫反応について解明した。
臨床的観点からの成果
・現在臨床試験を行っているH5N1プロトタイプワクチンの安全性をWHOが設定したガイドラインに沿って評価し、安全であることを検証した。
・H5N1プロトタイプワクチンおよび最近のH5N1分離株由来の弱毒化ワクチン株のマウスモデルによる有効性の評価を行った。これらの成績は、ワクチン株の臨床試験の実施に向けた重要な情報となる。
・小児における現行のインフルエンザワクチンの摂取量別の抗体産生能との相関を年齢群別に設定することに成功し、新型ワクチンの接種設定への参考情報を提供した。
ガイドライン等の開発
・WHOのガイドライン作成に参画しRG法によるH5N1弱毒化ワクチンの開発・製造・安全性評価のガイドラインを作成した。また、その改定にも参画した。
・本研究の一環としてWHOによりまとめられたガイドラインは、1)新型ワクチン株は孵化鶏卵で高増殖するA/PR/8/34株遺伝子をバックボーンとする8または12プラスミドを用いたRG法で作製される。2)回収したウイルスはニワトリ及びフェレットにおいて病原性が確認されるまでは、BSL3、安全性の確認された株は、BSL2+の条件で取り扱う。
その他行政的観点からの成果
・RG法によるH5N1弱毒化ワクチン株を人用として実用化するためには、GMPに準拠した施設で、細胞バンク由来の安全性の検証されたVero細胞株が推奨されている。しかし、わが国ではそのようなVero細胞は知的所有権の関係で入手は不可能である。
・そこで、わが国でもそれに代わるものとして、ATCCから購入したLLCMK2細胞をGMP施設でバンキングし、安全性を検証した。試験中の1項目を除いてすべて安全性が確認されたことから、今後、わが国で作製するH5N1ワクチン株も実用化できる可能性が高まった。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
77件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
85件
学会発表(国際学会等)
34件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masaki Imai, Shinji Watanabe, Ai Ninomiya他
Influenza B virus BM2 protein is a crucial component for incorporation of viral ribonucleoprotein complex into virions during virus assembly.
J. Virol. , 78 , 11007-11015  (2004)
原著論文2
Takahiko Saito, Yoko Nakaya, Takashi Suzuki他
Antigenic alteration of influenza B virus associated with loss of a glycosylation site due to host-cell adaptation.
J. Med. Virol. , 74 , 336-343  (2004)
原著論文3
Shinji Watanabe, Masaki Imai, Yoshiro Ohara他
The influenza B virus BM2 protein is transported through the trans Golgi network as an integral membrane protein.
J. Virol. , 77 , 10630-10637  (2003)
原著論文4
Masaki Imai, Shinji Watanabe,Takato Odagiri
Influenza B virus NS2, a nuclear export protein, directly associates with the viral ribonucleoprotein complex.
Arch. Virol. , 148 , 1873-1884  (2003)
原著論文5
Kidokoro, M., Tashiro, M., Shida, H他
Genetically stable and fully effective smallpox vaccine strain constructed from highly attenuated vaccinia LC16m8.
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A , 102 , 4152-4157  (2005)
原著論文6
Kubota, T., Yokosawa, N., Yokota, S他
The mumps virus V protein antagonizes interferon without accompanying the complete degradation of STAT1
J.Virol. , 79 , 4451-4459  (2005)
原著論文7
Le QM, Kiso M, Someya K他
Emergence of an oseltamivir-resistant H5N1 influenza A virus
Nature , 437 , 1108-  (2005)
原著論文8
Neumann G, Fujii K, Kino Y, Kawaoka Y他
An improved reverse genetics system for influenza A virus generation and its implications for vaccine production.
Proc Natl Acad Sci USA , 102 , 16825-16829  (2005)
原著論文9
Shinya K, Hatta M, Yamada S他
Characterization of a human H5N1 influenza A virus isolated in 2003
J Virol , 79 , 9926-9932  (2005)
原著論文10
Hatakeyama S, Sakai-Tagawa Y, Kiso M他
Enhanced expression of an α2,6-linked sialic acid on MDCK cells improves the isolation of human influenza viruses and theevaluation of their sensitivity to a neuraminidase inhibitor.
J Clin Micro , 43 , 4139-4146  (2005)
原著論文11
Muramoto Y, Ozaki H, Takada A, Park CH他
Highly Pathogenic H5N1 Influenza Virus Causes Coagulopathy in Chickens.
Microbiol Immunol , 50 , 73-81  (2006)
原著論文12
Hasegawa H, Ichinohe T, Strong P他
Protection against influenza virus infection by intranasal administration of HA vaccine with chitin microparticles as an adjuvant
Journal of Medical Virology , 75 , 130-136  (2005)
原著論文13
Ichinohe T, Watanabe I, Ito S他
Synthetic double-stranded RNA [poly (I:C)] combined with mucosal vaccine protects against influenza virus infection
Journal of Virology , 79 , 2910-2919  (2005)
原著論文14
Saito,T.,W. Lim, and M. Tashiro
Attenuation of a human H9N2 influenza virus in mammalian host by reassortment with an avian influenza virus.
Arch. Virol , 149 , 1397-1407  (2004)
原著論文15
T. Iwasaki, S. Itamura, H. Nishimura他
Productive infection in the murine central nervous system with avian influenza A (H5N1) after intranasal inoculation
Acta Neurapathol , 108 , 485-492  (2004)
原著論文16
Hatta M, Goto H, Kawaoka Y
Influenza B virus requires BM2 protein for replication
J Virol , 78 , 5576-5583  (2004)
原著論文17
Horimoto T, Takada A, Iwatsuki-Horimoto K他
A protective immune response in mice to viral components other than hemagglutinin in a live influenza A virus vaccine model
Vaccine , 22 , 2244-2247  (2004)
原著論文18
Iwatsuki-Horimoto K, Horimoto T, Fujii Y他
Generation of influenza A virus NS2 (NEP) mutants with an altered nuclear export signal sequence
J Virol , 78 , 10149-10155  (2004)
原著論文19
Hasegawa H, Ichinohe T, Strong P,他
Protection against influenza virus infection by intranasal administration of HA vaccine with chitin microparticles as an adjuvant
Journal of Medical Virology , 75 , 130-136  (2005)
原著論文20
Ichinohe T, Watanabe I, Ito S他
Synthetic double-stranded RNA [poly (I:C)] combined with mucosal vaccine protects against influenza virus infection.
Journal of Virology , 79 , 2910-2919  (2005)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-