光感受性発作に関する臨床研究

文献情報

文献番号
199700120A
報告書区分
総括
研究課題名
光感受性発作に関する臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山内 俊雄(埼玉医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 牛島定信(東京慈恵会医科大学)
  • 江畑敬介(東京都立中部総合精神保健福祉センター)
  • 岡?次(岡山大学)
  • 鴨下重彦(国立国際医療センター)
  • 黒岩義之(横浜市立大学)
  • 杉下守弘(東京大学)
  • 高橋剛夫(八乙女クリニック)
  • 飛松省三(九州大学)
  • 西浦信博(京阪病院)
  • 三浦寿男(北里大学)
  • 満留昭久(福岡大学)
  • 八木和一(国立療養所静岡東病院)
  • 渡辺一功(名古屋大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,715,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成9年12月16日午後6時30分より放映されたアニメ番組「ポケットモンスター」を視聴中に、幼児・児童を中心に引き起こされたけいれん等の症状の実態を把握し、症状発現の機序を明らかにするとともに、映像が脳機能に与える影響について検討し、予防に必要な保健上の対策を検討する。
研究方法
研究の目的を達成するために、次の3つの分担研究班を作り、それぞれの側面から検討を行った。
[実態調査班]平成10年1月中旬から同年2月初旬にかけて全国の4都府県(東京都、神奈川県、大阪府、福岡県)の小中高等学校19校(小学校9校、中学校5校、高等学校5校)に14項目よりなる実態調査票を配布し、生徒本人または家族による記入を求めて回収し、分析、検討した。
[症例検討班]当該番組を視聴していた者のうち、普段と明らかに異なる他覚的・自覚的症状を呈して医療機関を受診した者について、症例検討班の班員、あるいは日本てんかん学会会員で協力の要請に応じた専門の医師が実際に診察した結果を所定の書式の問診票に記入し、集計した。さらに、そのうちで、家族あるいは本人から検査の同意が得られたものには所定の方法に従って脳波を指標とした神経生理学的検査を施行した。
[基礎検討班]健康被害が集中して起こった時間帯の映像成分を分析し、問題と思われた赤・青点滅刺激を様々な周波数で刺激し、一部は「実像刺激」を用いて、これらの刺激が生体に及ぼす影響について分析した。対象は、主に健康成人とし、一部は健康被害があった者のうち検査の同意が得られた者とした。検討は、脳波、脳磁図(MEG)、視覚誘発電位(VEP)、機能的MRIなどを指標とした。
結果と考察
以下、3つの分担班の結果について述べる。
[実態調査班]実態調査票の配布総数は11,368であり、有効回答数は9,209であった。番組を視聴していた人のおおよそ1割の者に健康被害が出現したと推定される。健康被害の内容でもっとも多かったのは「眼がいたく」なったり「きもちが悪く」なったり、「頭がぼ-」としたり、「はきけ」がしたりといった眼・視覚系、不快気分、頭部・胃腸症状であったが、けいれん様の症状も数%に認められたものと推定された。
[症例検討班]医療機関を訪れ問診所見が得られた115名のうち、発作性の症状を呈した者は8割を超え、その中でけいれんが7割以上に認められた。残り15%は頭痛、嘔吐、不定愁訴などであった。発作症状を呈した者のうちで、てんかんの診断を受けたことがあったり、現在抗てんかん薬を服用中の者は約3割で、その中で、抗てんかん薬を服用していた者はけいれん発作を示さず、視覚発作や意識減損にとどまった者がいた。医療機関を受診したもののうち半数はこれまでに一度も発作症状を経験したことのない人たちであった。これらの人たちの9割近くがけいれん発作を呈した。問診表が得られた115名のうち、53名に神経生理学的検査を施行した。一般脳波検査で異常が認められた者が約5割認められたが、これまで一度も発作性の症状を示したことのなかった人たちの中でも1/3に脳波異常が認められた。また、6割を超える者に光賦活脳波で突発性脳波異常、すなわち光突発反応が見られ、これまでに発作の既往がない者でも6割以上に光突発反応が見られた。一般脳波、光賦活脳波ともに異常がなかった者が約1/4に認められた。この群では自律神経症状、嘔吐や不定愁訴を示したものが多かった。
[基礎検討班]健康被害を呈した映像は赤・赤・赤・青・青刺激がそれぞれ1/60秒の頻度で現れる、約12Hzの赤・青点滅刺激であったことがあきらかとなった。一般に10Hz前後以上の、高頻度の赤・青複合点滅刺激が健康被害を誘発するリスクが高いと考えられた。また、近い距離で、かつ暗い部屋でテレビなどを視聴することが、健康被害を増強する一因となることが推定された。
結論
1,以上のことから、健康被害を示したものに次の3つの群があったと考えられた。
第I型:安静時脳波あるいは過呼吸賦活や睡眠時脳波で突発性脳波異常が認められ、かつ光刺激によって光突発反応が出現するものである。この群ではこれまでに無熱時の自発発作があったり、てんかんとして抗てんかん薬を服用しているものが多い。中には今回症状が出現して初めて脳波異常の存在に気づかれた例もある。病態としてはてんかんあるいはてんかんに近い発作発現病態を有すると考えられるもので、その意味では従来から、光感受性発作を有するてんかんとして知られていた、いわゆる光感受性てんかんに相当する。
第II型:一般脳波では異常波を認めず、光突発反応のみが認められたものである。いわゆる光感受性発作の純粋型であり、小児期、思春期の若年期に見られることが多く、その意味では年齢依存性があり、女性に多く見られる。発作症状は全般性のけいれん発作を示すものが多い。
第III型:一般脳波でも、光刺激時にも何ら脳波で異常が認められないもので、この群では吐き気、頭痛、不定愁訴などが多かった。どのような機序によってこれらの症状が出現したかは不明であるが、ひとつの可能性として、視覚刺激による視覚・小脳・迷路系を介する自律神経系の過剰興奮など、いわゆる動揺病と類似の機序や心理的要因の関与が想定される。
2,今後の対応についてまとめると以下のようになる。
1) 特別の誘因もなく自発性の発作を呈したり、自発性の発作がなくても、テレビなどの光刺激によって発作性の症状が繰り返し出現する場合には、医学的診察、特に脳波検査を受ける必要がある。その結果により次のような対応が求められる。
(1) 一般脳波で突発性異常波が見られ、かつ光刺激で突発波が誘発されたときには、治療の必要性ならびにテレビなどによる光入力に対する防御策の指導を専門家から受けるべきである。
(2) 一般脳波では異常がなく、光刺激にだけ反応して突発性異常波が誘発されるときには、強い光入力を避ける工夫が必要である。このタイプでは年齢とともに光誘発発作は起こりにくくなるのが一般的である。
(3) 以上のような脳波異常を示す者は全体としては少なく、多くは光刺激によっても脳波異常を示さない。しかし、そのような場合であっても強い光刺激が自律神経系の症状や視覚系の症状を呈することがあるので、テレビなどは明るい部屋で、少なくても1メートル以上は離れてみることが好ましい。
2)たとえば、赤・青色の点滅で、その周波数が比較的高頻度といった、症状を引き起こすリスクの高い視覚刺激を避けることが望ましく、テレビだけでなく、光を媒体とする工学機器は十分にこの点に配慮すべきであろう。
3,今後の問題としては、今回症状が出現した人、特にこれまでに発作を起こしたことがなかったのに、当該映像により発作性の症状を呈した人、脳波検査で光突発反応が見られた人たちが今後どのような症状ならびに脳波の経過をとるか、経過の観察が必要であろう。また、これまで、発作性の症状がなく、今回初めて症状を呈し、脳波検査で、安静時脳波異常を認めた人たちの治療をどのようにするかを経過を追いながら、検討する必要があろう。
さらに、光や図形パターン、色彩、刺激頻度など、視覚刺激のどのような要素が健康被害を起こしやすいのかを明らかにする必要がある。また、どのような機序により、視覚入力が発作性症状を引き起こすのかが明らかにされる必要がある。

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