食中毒菌の薬剤耐性に関する疫学的・遺伝学的研究

文献情報

文献番号
200501374A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒菌の薬剤耐性に関する疫学的・遺伝学的研究
課題番号
H15-食品-012
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染症研究所細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤 宗生(独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所)
  • 五十君 靜信(国立医薬品食品衛生研究所細菌研究室)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター微生物部)
  • 山口 正則(埼玉県衛生研究所臨床微生物部)
  • 泉谷 秀昌(国立感染症研究所細菌第一部)
  • 鮫島 俊哉(農林水産省動物医薬品検査所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒の中では、サルモネラ、カンピロバクターを原因菌とするものが多い。それらの菌の多剤耐性化が我が国ばかりでなく世界的にも進んできている。本研究においては、家畜、食肉を中心とする食品および食中毒事例から分離されるサルモネラ、カンピロバクターの薬剤耐性菌の現状及び動向について全国レベルの調査を行う。更に家畜由来株と患者由来株の関連性について分子遺伝学的および疫学的解析を駆使して、耐性遺伝子の伝播を含め検討する。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,カンピロバクターの分離菌株の血清型,生化学的性状,ファージ型を調査する。各薬剤、特に臨床上治療に使用される薬剤(フルオロキノロン、第3,4世代セファロスポリン系薬剤)に対する年度ごとの耐性頻度の変化に注目して調査を行う。
結果と考察
1999-2001年に家畜から分離されたSalmonella Typhimurium株におけるDT104占有率は牛で72%(46/64)、豚で31%(11/35)であった。それらは2つの主要な遺伝子型(PFGE型)に分類され、一部はヒト症例株のそれと一致していた。人症例及び動物由来Campylobacter jejuniの薬剤感受性、血清型及び遺伝型を比較したところ、ABPC耐性率は、人由来株で5.6%と低率であったが、レイヤーおよびブロイラー由来株では33%および 20%と高く、牛由来株では認められなかった。人、牛及びブロイラー由来株は、鞭毛蛋白遺伝子型(flaA-type) により大きく5つのクラスターに分類されるが、クラスターⅠは人及び牛由来株で、Ⅲ-Ⅴは人、牛及びブロイラー由来株で構成されていた。ヒトおよび動物から分離される株の間には一部共通性が見られた
結論
サルモネラ、カンピロバクターのヒト由来株および動物由来株の間に遺伝的類似性が見いだされた。共通の起源が示唆された。サルモネラ、カンピロバクターとも高度耐性化が進んでいるので、さらなる継続的調査により経過を追跡する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2006-10-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200501374B
報告書区分
総合
研究課題名
食中毒菌の薬剤耐性に関する疫学的・遺伝学的研究
課題番号
H15-食品-012
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染症研究所細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤 宗生(独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所)
  • 鮫島 俊哉(農林水産省動物医薬品検査所)
  • 五十君 靜信(国立医薬品食品衛生研究所 細菌研究室)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター 微生物部)
  • 山口 正則(埼玉県衛生研究所臨床微生物部)
  • 泉谷 秀昌(国立感染症研究所細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「食用動物に対して抗菌薬を使用することがどの程度耐性菌を選択し、それが食物連鎖を介してヒトに伝播するのに影響を及ぼしているのか。更に、ヒトへの細菌感染症の治療を困難にする潜在的危険性を孕んでいるのか。それをどの程度予測できるのか」が国際的大命題になっている。本研究においては、その大命題に対する科学的評価を行うためのデータを得ることを目的にする。家畜等、肉を中心とする食品および食中毒事例から分離される薬剤耐性菌の現状及び動向について全国レベルの調査を行う。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,カンピロバクターの分離菌株の血清型,生化学的性状,ファージ型,を調査する。家畜由来株および患者由来株の耐性遺伝子について,遺伝学的および分子生物学的手法を用い詳細に解析を加え,由来株による差異を検討する。
結果と考察
牛、レイヤーおよびブロイラーからは主にC. jejuniが、豚からは主にC. coliが分離された。フルオロキノロン耐性株はC. jejuni の10.2?16.3%およびC. coliの24.2-24.8%に認められた。患者分離のC.jejuni のフルオロキノロン系薬剤に対する耐性率は26-40%であった。2000年以降、少なくとも13の疫学的関連性が見られない散発事例で分離されてきたフルオロキノロン高度耐性S. Typhimurium株について、キノロン耐性に関与する遺伝子変異およびその他の耐性遺伝子に関する解析を行い、互いの近縁性を明らかにした。由来が同一である可能性が高い。
結論
Salmonella Typhimuriumの多剤耐性化が進んでいる。その中でフルオロキノロン耐性菌がヒト及び動物から分離されてきており、そのヒト由来株および動物由来株の間に遺伝的類似性が見いだされた。共通の起源が示唆された。サルモネラ、カンピロバクターとも高度耐性化が進んでいる。今後サーベイランスを継続すると伴に、抗菌薬の使用状況との関連性を詳細に解析する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2006-10-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501374C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食中毒菌として重要なサルモネラおよびカンピロバクターの多剤耐性化が進んでいることが判明した。その中で特に近年、フルオロキノロン耐性菌がヒト及び動物から分離されてきており、それら菌株間に遺伝学的類似性が見いだされた。動物由来およびヒト由来株間に共通の起源が示唆された。動物において選択された耐性菌がヒトに伝播している可能性が考えられる。
臨床的観点からの成果
フルオロキノロン耐性サルモネラによる臨床的に治療困難例を見いだした。特にサルモネラの血清型Typhimuriumによる感染例は、小児、老人等に敗血症等の全身感染を引き起こすので注意が必要である。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
1)朝日新聞報道2003年8月15日;フルオロキノロン耐性サルモネラの全国調査:食肉と家畜その感染経路・患者把握の調査研究。
2)2006年2月に千葉および岡山の会場で、H17年度厚生労働科学研究・シンポジウム「食品と健康」(日本食品衛生協会主催)において、当該研究の成果を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
H. Izumiya, N. Nojiri, Y. Hashiwata, et al
Salmonella enterica serovar Enteritidis, Japan.
Emerging Infectious Diseases , 9 (12) , 1650-1651  (2003)
原著論文2
Izumiya H., K.Mori,T.Kurazono, et al
Characterization of isolates of Salminella enterica serovar Typhimurium displaying high-level fluoroquinolone resistance in Japan
Journal of Clinical Microbiology , 43 (10) , 5074-5079  (2005)
原著論文3
Fukuyasu T, Igimi S, Uchida K, et al
Standards of the in vitro mutation frequency study and the antimicrobial activity study in gut.
The Journal of Antibiotics. , 56 , 191-196  (2003)
原著論文4
H. Nakaya, A. Yasuhara, K. Yoshimura, et al
Life-threatening infantile diarrhea from fluoroquinolone-resistant Salmonella enterica Typhimurium with mutations in both gyrA and parC.
Emerging Infectious Diseases , 9 , 255-257  (2003)
原著論文5
Esaki H., Morioka A., Ishihara K., et al
Antimicrobial susceptibility of Salmonella isolated from cattle, swine and poultry(2001-2004);Report from Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System.
J.Antimicrob.Chemother. , 53 , 266-270  (2004)
原著論文6
Esaki H., Noda K., Otsuki N., et al
Rapid detection of quinolone-resistant Salmonella by real time SNP genotyping.
J.Microbiol.Method , 58 , 131-134  (2004)
原著論文7
Esaki H.,Morioka A.,Kojima A., et al
Epidemiological characterization of Salmonella Typhimurium DT104 prevalent among food-producing animals in the Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring Program(1999-2001).
Microbiology and Immunology , 48 , 553-556  (2004)
原著論文8
Ishihara K.,Kira T.,Ogikubo K., ae al
Antimicrobial susceptibilities of Campylobacter isolated from food-producing animals on farms(1999-2001):results grom the Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring Program.
Int.J.Antimicrob. Agents , 24 , 261-267  (2004)
原著論文9
T. Matsui, S. Suzuki, H. Takahashi, et al
Salmonella Enteritidis outbreak associated with a school-lunch dessert: cross-contamination and a long incubation period, Japan, 2001
Epidemiol. Infect. , 132 , 873-879  (2004)
原著論文10
M. Taguchi, K. Seto, M. Kanki, et al
Outbreak of food poisoning caused by lunch boxes prepared by a company contaminated with multidrug resistant Salmonella Typhimurium DT104.
Jpn. J. Infect. Dis. , 58 (1) , 55-56  (2005)
原著論文11
H. Izumiya, K. Mori, M. Higashide, et al
Identification of CTX-M-14 β-lactamase in a Salmonella enterica serovar Enteritidis isolate from Japan.
Antimicrob. Agents Chemother. , 49 (6) , 2568-2570  (2005)
原著論文12
Asai T.,Itagaki M.,Shiroki Y., et al
Antimicrobial resistance types and genes in Salmonella enterica Infantis isolates from retail raw chicken meat and broiler chickens on farms.
J.Food Protect. , 69 , 214-216  (2006)
原著論文13
Ishihara K.,Yamamoto T.,Satake S., et al
Comparison of Campylobacter isolated from humans and food-producing animals in Japan.
J.Appl.Microbiol. , 100 , 153-160  (2006)
原著論文14
Ishihara K., Yano S.,Nishimura M., et al
The dynamics of antimicrobial-resistant Campylobacter jejuni on Japanese broiler farms.
J.Vet.Med.Sci. , 68  (2006)
原著論文15
秋庭正人、TRAN Thi Phan、LY Thi Lien Khai、他
メコンデルタ水系からのサルモネラ分離と分離菌の性状解析。
獣医畜産新報 , 58 (4) , 331-332  (2005)
原著論文16
澤田拓士、五十君靜信、浅井鉄夫。
国内に分布する抗菌剤耐性菌のコントロールに向けて。
獣医畜産新報 , 58 , 674-676  (2005)
原著論文17
甲斐明美、横山敬子、高橋正樹。
食を介する感染症、カンピロバクター。
化学療法の領域 , 21 , 529-536  (2005)
原著論文18
門間千枝、小西典子、尾畑浩魅、他
死亡者が確認された高齢者福祉施設における腸管出血性大腸菌O157感染症集団事例―東京都―。
病原微生物検出状況(国立感染症研究所) , 20 , 144-145  (2005)
原著論文19
石畝史、京田芳人、望月典郎、他
多剤耐性Salmonella enterica serovar Newportにおける患者由来株と下水由来株との比較検討。
感染症学雑誌 , 79 , 270-275  (2005)
原著論文20
秋庭正人、吉井紀代、中澤宗生。
牛由来サルモネラの薬剤耐性に関する最近の知見。
臨床獣医 , 24 (3) , 20-26  (2006)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
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