医療機器の使用による感染症の予防に関する研究

文献情報

文献番号
199700117A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器の使用による感染症の予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 幸弘(関東逓信病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小越和栄(新潟がんセンター新潟県立病院)
  • 大久保憲(NTT東海総合病院)
  • 賀来満夫(聖マリアンナ医科大学)
  • 笹俊行(オリンパス)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近、医療機器を介しての感染が注目されてきている。ことに内視鏡を介しての感染報告が多く報告されているがその実態は必ずしも明らかでない。検査件数の多い状況で内視鏡機器の洗浄と消毒について過去の感染報告を再検討し、現在の洗浄消毒の問題点を分析し、今後の感染予防対策としてのガイドラインを設定する。
研究方法
まず海外本邦の内視鏡を介した感染例の報告を集計し、その実態を解析する。さらに海外での内視鏡洗浄と消毒に対するガイドラインを検討し、我が国において適応できる基準を模索していく。この上で、対象となる細菌やウイルスを抽出し、内視鏡を人為的に汚染させたうえで、各種洗浄法や消毒法の効果を検討する。
結果と考察
Spachらは、1993年内視鏡を介しての感染報告を集計し報告した。この集計のもとになった上部消化管内視鏡を介した感染、下部消化管内視鏡を介した感染さらに気管支鏡を介した感染報告45件の文献を収集した。Spachは、合計377回の感染機会があり、発病は142例死亡は7例としている。これら文献を検討し使用内視鏡機器の種類、内視鏡検査後の水道水などの吸引や、洗剤による洗浄また、消毒剤の種類と接触時間、内視鏡洗浄機の使用の有無と時間について詳細に検討した。先にあげた恐るべき数字に驚かされるが詳細に検討するとこの結論で、我が国の現状を推定するのはかなりの困難であることが判明した。その理由はまず、報告の年代が古いものが多く、1990年代以降の文献は5件11%であった。逆に70年代の報告が12件27%をしめていた。すなわち70年代は、内視鏡感染の事実すら不明であり、また現在使用されているような内視鏡全体を薬液に浸漬できる器械が開発されていない時期であり、現在から見ると感染は当然起こりうると考えられた。また80年代以降の論文でも内視鏡機器は古く、さらに洗浄について現在推奨されている方法をほとんど採っていないことが明らかになった。さらに内視鏡の洗浄消毒に関する最新の海外文献40報告、国内文献62報告を検討した。我が国では、すでに日本消化器内視鏡学会や、日本消化器内視鏡技師研究会が中心になり、効果的な内視鏡洗浄の工夫がかなり報告され、日本消化器内視鏡学会甲信越支部では、ガイドラインを作成している。海外でもすでに英国内視鏡学会は、早くからガイドラインを提唱しており、このガイドラインに照らしても不十分な洗浄消毒と言わざるを得ない報告が多々見られた。しかしながら、1993年以降内視鏡を介する感染が世界中で注目されるにいたり、洗浄や消毒に十分気を配った報告が、国外国内ともに認められた。まず内視鏡機器を完全滅菌にすべきか、高度の消毒状態でも良いかという議論があった。完全滅菌は事実上困難であること、芽胞による消化器感染がないことから芽胞まで殺菌する意味が少ないことから、高度の消毒で消化器内視鏡の洗浄消毒は、十分であると結論した。消毒剤としては、グルタールアルデヒド(以下GAと略す)が第一にあげられる。GAは、細菌、HBVやHCV、HIVに対して強い殺菌作用、抗ウイルス作用を持ち現在のところ最も推奨できる薬剤である。HansonらのHIV汚染実験からGAは、内視鏡感染予防に有効と結論している。しかし、New England Journalに1997年報告された症例では、GAを使用しながら、HCVを内視鏡を介して感染させている。この報告を研究班で詳細に検討した結果、内視鏡検査後に十分に水道水による、吸引送水とブラッシングをしていなかったことが明らかにされ、GAを使用して自動洗浄機にかけても用手洗浄が不十分では消毒効果が期待できないという証明になったと考え
るべきという結論に至った。いずれにしてもGAは、第一選択の薬剤であることは、変わりない。濃度については、2%と3%が多いが濃度差は、あまり重要でないことが文献的な検討から明らかになった。むしろGAの使用期間により殺菌効果が変わってくる点により重要な問題がふくまれており、結局いかに消毒に注意しているかにより、その効果が左右される。
GAの環境汚染が一方の欠点であり、ガスを吸引すれば間質性肺炎をきたす危険性があり、また結膜炎や皮膚炎をきたすため、取り扱いには十分な注意が必要であり、欧米とも環境問題として強く認識している。この点についての我が国の対応はまだ不十分である。 強酸性水は、我が国で積極的に取り上げられ、その有効性について数々の報告がなされている。HBVやHCVについての天野らの内視鏡汚染実験が取り上げられ、その有効性について研究班でも論議され、実験報告は信頼に足ると結論された。しかし、強酸性水自体は有機物がわずか0.1%存在してもその殺菌効力が消失される事実からその使用方法は十分な内視鏡洗浄が必須と考えられた。また産成機器による効力の差もあり、強酸性水導入にはなおクリアすべき問題が残っている。 過酢酸は、GAに匹敵する殺菌抗ウイルス効果を持つ物質として最近急速に注目されている消毒剤である。しかし我が国には、まだ正式な認可がなく、また内視鏡機器に対する耐性面での化学反応が明らかでなく、研究班としては未だ取り上げるべき時期にないと結論した。 また過酸化水素水も取り上げられたが、これもまだ、効果に対する検討が不十分であり、臨床応用はまだ先と結論された。
今後の実験計画
以上の過程から研究班としては、従来より広く用いられ欧米で基準となっているGAと、最近我が国で導入され効果が期待されている強酸性水を取り上げることにした。消毒剤の決定についで、内視鏡汚染実験の方法について検討した。この結果対象病原体はPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Mycobacterium terraeおよびB型肝炎ウイルスキャリアーでe抗原陽性者の血清を吸引して汚染させる方法が現実的かつ実際的との判断となった。Helicobacter pyloriは、培養方法が難しいこと、消毒と言う面から見ると比較的容易な菌であることから、今回は除外した。検出方法はいずれもPCR法により微量な菌量でも検出可能とした。
結論
今年度の成果
以上第一段階での文献的検討よりの結論は以下の通りである。
1. 過去の文献から内視鏡を介した感染報告は、多くは不十分な洗浄と消毒の結果であり、現在我が国で推奨されている洗浄消毒方法からみれば、感染は防ぎ得た可能性がある。
2. しかしながら、推奨される方法が必ずしも普及されていないことから、この用手洗浄を基本とした、洗浄消毒法を啓蒙する必要がありガイドラインを作成すべきである。
3. ガイドラインは日常臨床で実際行えるminimal requirementのガイドラインをめざす。
4. このため、取り上げる消毒剤はGAと強酸性水とする。
5. 消毒を安全確実に行うためには、有機物をおとす用手洗浄法が重要である。また消毒剤の管理や環境汚染の対策も必要である。
6. 具体的な洗浄消毒方法の効果を比較検討するため内視鏡の汚染実験をする。
7. 使用する細菌はPseudomonas aeruginosa、Mycobacterium terrae、ウイルスはe抗原陽性のHBVキャリアー血液と決定した。測定は細菌培養と結核菌とウイルスはPCR法に決定した。また、汚染実験のほか、臨床的にHBVキャリアーの検査後の汚染度をPCRで測定することにした。
8. 以上の検討と実験成果をふまえて今後、より実行可能な洗浄消毒方法のガイドラインを確立していくことが決定された。

公開日・更新日

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