墓地・葬送等に関する国民意識に関する研究

文献情報

文献番号
199700115A
報告書区分
総括
研究課題名
墓地・葬送等に関する国民意識に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
森 謙二(シオン短期大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、生活水準の向上、人口の増加、核家族化の進展、生前墓の普及などの墓地観の変化等により、墓地需要の増加、多様化が進展してきた。また、大都市を中心に墓地不足が深刻となり、各地で壁墓地や合葬式の墳墓などの新形式の墓地が検討されている。さらには、散骨等のように墓にとらわれない葬られ方を希望する者も増えているといわれている。人口の移動や少子化の影響のもとでの無縁墳墓の増加、人口流出に伴う墓地経営基盤の脆弱化などの問題も指摘されており、墓地、埋葬行政は、墓地や葬送を巡るこれらの環境変化に的確に対応していくことが求められている。このような時代の要請に応えるため、現在、厚生省では、墓地等の在り方を考える懇談会を設置し、今後の墓地行政の在り方について検討しており、その基礎資料として利用することができるだろう。また、今回の意識調査に基づくデータは、現代の多様化した墓地問題を反映したものであるから、国の墓地行政だけではなく、広く地方自治体の墓地行政や墓地に関心をもつ研究者などに広く利用されるであろう。
研究方法
?平成2年度に実施された総理府の世論調査を踏まえ調査票を作成した。?全国から20歳以上の者2,000人を無作為に抽出し、個人面接調査法によって調査を行った(委託)。?回収された調査結果を集計した(委託)。?調査結果の単純集計と若干のクロス集計を踏まえて、調査結果の「速報版」を公表した。?平成2年度の総理府の世論調査等との比較検討を考慮した上で、家族構造の変化・都市規模別・地域性・性別等を中心に調査結果の分析を行い、報告書を作成する。
結果と考察
有効回答者数は1,524人、有効回答率は76.2%であった。調査結果は、以下のようなものである。?墓地問題が多様化していること。従来、墓地問題は「墓地不足」に凝縮される傾向があったが、「墓地の不足」の外に、「墓地の高騰」「墓地の承継者がいないこと」「散骨」「誰と一緒にはいるか」の問題などをあげるものが多かった。そのなかでも墓地承継者の不存在が認識され始めてきていること、少子社会のなかでも墓地問題が明確になってきた。?墓地不足には地域差があること。たとえば、「東京都区部」で、「墓地不足」の認識をもつ人の割合が全国でも低い状況にある。また、「東京都区部」で、「先祖伝来の墓地がある」と回答した人の割合が「郡部」についで高く、何らかの形で利用できる墓地を持つ割合も84.4%と「郡部」に続いて高い数字を示している。もちろん、「東京都区部」の人々が東京近辺に「利用できる墓地」を持つとは限らないが(いわゆる「故郷」に先祖伝来の墓地を持つ可能性も高い)、それにしても「12大都市」(75.4%)「30万人以上の都市」(71.6%)に比べれば、その割合が高い割合となっている。?墓参りの頻度ははっきりと「西高東低」の傾向が出ている。西南日本は、通説的な見解からすれば、一般に「家」意識が東北日本に比べて希薄である地域である。このことから、墓参りと家意識との強さの関連は薄いことが窺える。?墓地の承継者が決まっていると回答したのは51.2%である。70歳以上では、「決まっている」と回答した人が81.7%とその割合が高くなっているが、「決まった人も期待する人もいない」と回答した人が2.1%いる。この2.1%の人々ははじめから墓地の承継者を確保できない人々である。また、この人達は葬送の担い手がいないことになる。?平成2年の調査に比べれば、散骨に対する理解は浸透した。このような葬法は適当ではないと考えた人が「平成2年」の調査では56.7%であったのに対し、今回の調査では19.4%と減少した。しかし、散骨を希望する人が増加したわけではない。全体の12.8%であり、前回と比較して3~4%の増加したものと思われる。理解の浸透と希望者の数はパラレ
ルではない。また、どこに撒いても良いと考える人も少ない。今回の調査を見ても、「節度をもって」というのがどのような内容であるのか、改めて問われているようである。?無縁改葬の新聞公告はそれほど周知されていないことは今回の調査でも明らかになった。前回よりもその周知度はむしろ低くなっている。平成2年の調査では、見たことあると回答したのが13.3%%であったのが、今回の調査では9.8%である。年一回以上の墓参りの度合いが86.6%であることを考えると、この墓参りへの頻度を考慮して改葬手続きを考えるのも、少なくとも新聞公告よりは効率的であるように思える。?墓地使用の有期限化については、肯定派と否定派の勢力が拮抗している。前回の調査では公営墓地について聞いており、「公共財産の有効活用」という観点から「やむを得ない」と回答する者が多かったが(30.7%)、今回は墓地一般の利用の在り方として聞いてもその回答には大きな変化はなかった。?「祖先」は子孫によって祀られるという思想は根強く残っている。先祖のお墓を守るのが子孫の義務と回答した者は、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計は89.2%に達している。しかし、このような意識を少子社会の中でこれからも持ち続けることが可能だろうか。今回の調査でも若い世代では「そう思う」と回答した人の割合は減少する傾向になり、そのなかにも意識と現実との間のせめぎ合いが映し出されている。
結論
墓地問題が多様化している。戦後、「墓地、埋葬等に関する法律」は衛生法規として成立し、現実には都市における「墓地不足」を背景として、現実の行政の施策では国民に対して墓地の供給をどのように行うかという問題が中心となり展開してきた。現状において、墓地不足が解消された訳ではないが、逆に全国が画一的に墓地不足の状況にある訳でない。普遍的な問題として登場してきたのは、むしろ「墓地の承継者がいない」ことである。かつては人口移動の激しい都市や過疎農村という一定の地域において承継者のいない墳墓(いわゆる「無縁墳墓」)の増加が問題となったが、少子社会においては地域に固有の問題ではなくなってくる。今回の調査はその傾向を明確にした。「承継者のいない墳墓」の増加は、一方においてはいわゆる「無縁墳墓」の改葬手続きの問題と、他方では墓地の使用権者の保護の問題が生じ、さらに墓地使用権の在り方の問題や墳墓の形式の問題にまで議論を進めなくてはならない。今回の調査でも、墓地使用権の有期限化の問題や新形式の墓地についての調査も行った。この2つの問題についての浸透度は必ずしも高い訳ではないが、今後も使用権や新形式の墓地の多様な在り方については検討していく必要があるだろう。また、平成2年度の調査に比べると、散骨についての理解は格段に進んだと言える。他方では、散骨場所については制限を設ける必要性が今回の調査でも明らかになった。この問題に対する対応も今後必要となるだろう。

公開日・更新日

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