ウシ由来腸管出血性大腸菌O157の食品汚染制御に関する研究

文献情報

文献番号
200501023A
報告書区分
総括
研究課題名
ウシ由来腸管出血性大腸菌O157の食品汚染制御に関する研究
課題番号
H16-食品-018
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食肉となる家畜の腸管内容からO157は高頻度に検出されるが、分離株の全てがヒトの感染源となっているのかは未だ不明であり、その実態把握は、ヒトO157症との関連性をより明らかにし、食品のリスク評価を行う上で極めて重要である。本研究ではウシが保菌するO157の中でヒトに対して病原性を有する菌株がどの程度存在しているのか明らかにし、重点を置くべき制御箇所の設定を行うことでその対策を講じ、最終的にはヒトのO157症の予防につなげる科学的根拠を提供する。本研究の遂行により、家畜からのO157に対する食品汚染状況の解明および集中的制御から、ヒトのO157症に対する効率的な予防効果が期待される。
研究方法
DNA相同性の比較にはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法を用いた。更に、志賀毒素2型の産生量を定量的にモニタリングするため、抗原精製、抗体の作成ならびにELISA系の構築を行った。加えて、毒素近傍遺伝子をPCR法により検出すると共に、それらの発現状況をリアルタイムRT-PCR法により検討した。。
結果と考察
ウシ由来株、とりわけstx2c保有株における毒素産生性はstx2保有株に比べて相対的に低かったが、その産生性はいずれも多様であった。こうした由来あるいは毒素産生性の多様性は、PFGEに基づく系統解析によって、分別することはできず、その他の疫学的手法の確立が必要とされた。これを担保する方法として、毒素遺伝子のanti-terminaterであるq遺伝子に着目したところ、毒素産生性はq遺伝子の保有状況と高い相関性を示したが、一部では異なる結果を得た。しかしながら、同遺伝子の発現レベルとの比較により、毒素産生性を指し示す遺伝子マーカーとして有用であることが推察された。このことは、毒素産生性を判断する遺伝学的検出法として、本遺伝子を用いる優位性を示しているといえ、今後の応用性が期待される。
結論
ウシ由来株のうち、ヒトに高い病原性を示しうるものは一部であるという推察が実証され、さらに、これを明らかにする手法の確立ができたと考える。食品中における本菌の汚染分布は多様であることから、様々な食品より分離された菌株の比較を本法を用いて検証することで、真にリスクの高い食品を特定することが可能となり、より安全性の高い食品の供給へとつながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2006-10-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200501023B
報告書区分
総合
研究課題名
ウシ由来腸管出血性大腸菌O157の食品汚染制御に関する研究
課題番号
H16-食品-018
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトの腸管出血性大腸菌O157症は、96年に全国的な流行を呈した後もその発生は絶えず、食肉製品を原因とした事例も依然として多い。食肉となる家畜から本菌は高頻度に検出されるが、全ての分離株がヒトの感染源となっているのかは未だ不明であり、その実態把握は、ヒトのO157症との関連性をより明らかにし、食品のリスク評価を行う上で極めて重要である。ウシ等の家畜は重要なヒトへの感染源として広く認識されているが、本研究ではウシが保菌するO157の中でヒトに病原性を有する菌株が存在する割合を明らかにし、重点を置くべき制御箇所の設定を行う事でその対策を講じ、最終的にはヒトのO157症の予防につなげる科学的根拠を提供することを目的とした。
研究方法
計301頭のウシを対象に本菌を分離し、汚染頻度を検証した。またO157株間の疫学的関連性について、主要病原遺伝子の保有状況、志賀毒素型別、ならびにPFGE法を用いて検討した。志賀毒素産生量の定量的モニタリングにはELISA系を用いた。加えて毒素近傍遺伝子の保有・発現状況をPCRならびにリアルタイムRT-PCR法により検討した。
結果と考察
由来に関わらず、O157株は主要病原遺伝子をほぼ共通に保有していた。また、ウシ由来株ではstx2c保有株が多数を占めており、ヒト由来株における分布とは明らかに異なっていた。ウシ由来株、とりわけstx2c保有株における毒素産生性はstx2保有株に比べて相対的に低かったが、その産生性は多様であった。由来・毒素産生性の多様性は、PFGEに基づく系統解析により識別できず、その他の疫学的手法の確立が必要とされた。毒素遺伝子近傍の遺伝子の転写活性は毒素産生性と高い相関性を示し、毒素産生性を指し示す遺伝子マーカーとして有用と考えられた。
結論
O157は食品を広く汚染しているが、中でも食肉を始めとしたウシに起因する食中毒は現在も発生していることから、重要な感染源の一つであることには変わりない。しかしながら、本研究ではウシ由来株のうち、ヒトに高い病原性を示しうるものは一部であるという仮説を実証するとともに、これらを識別する遺伝学的手法の確立を行った。O157は多様な食品を汚染しているが、本研究内容で検討した手法を用いて病原性の高いO157を選択的に検出することで、真にリスクの高い食品を迅速に特定し、食品の安全性を担保できることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2006-10-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ウシ由来の腸管出血性大腸菌O157について食肉処理工程での汚染実態及び病原特性を分子疫学・遺伝学的に検討し、ウシ由来O157株が産生する毒素型はヒト食中毒由来株とは一部のみ重複が認められ、これらの重点的制御が健康被害防止に寄与すると考えられた。実際に、毒素定量法を開発・評価したところ、ウシ由来株の多くは低い毒素産生性を示すことが明らかとなった。食肉解体処理工程における内臓肉・枝肉への交叉汚染を見出し、監視指導に係る情報として当該自治体に情報提供した。
臨床的観点からの成果
食肉の生食の有無について、臨床診断の場で問診項目として加えることが重要と思われる。
ガイドライン等の開発
内閣府食品安全委員会食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌~(改訂版)に引用された。
その他行政的観点からの成果
内閣府食品安全委員会 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌~(改訂版)に引用された。
その他のインパクト
特筆すべき点はないが、病原性を評価対象とした迅速な判断手法の応用が、食肉に関わる腸管出血性大腸菌の制御に必要な課題と思われる。これらの知見については学会発表等で報告したほか、全国食肉衛生検査研修にて協力自治体関係者が食肉処理工程における交叉汚染の危害性に関する発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
内閣府食品安全委員会 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌~(改訂版)
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Asakura H, Igimi S, Kawamoto K et al.
Role of in vivo passage on the environmental adaptation of enterohemorrhagic Escherichia coli O157:H7: cross induction of the viable but nonculturable state by osmotic and oxidative stresses.
FEMS Microbiol Lett , 253 , 243-249  (2005)
原著論文2
Panutdaporn N, Kawamoto K, Asakura H et al.
Resuscitation of the viable but nonculturable state of Salmonella enterica serovar Oranienburg by recombinant resuscitation-promoting factor derived from Salmonella Typhimurium strain LT2.
Int J Food Microbiol , 106 , 241-247  (2006)
原著論文3
Asakura H, Panutdaporn N, Kawamoto K et al.
Isolation of mini-Tn5Km2 insertion mutants of Salmonella enterica serovar Oranienburg sensitive to NaCl-induced osmotic stress.
Microbiol Immunol , 48 , 981-984  (2004)
原著論文4
Asakura H, Kawamoto K, Shirahata T et al.
Changes in Salmonella enterica serovar Oraniebburg viability caused by NaCl-induced osmotic stress is related to DNA relaxation by the H-NS protein during host infection.
Microb Pathog , 36 , 147-151  (2004)

公開日・更新日

公開日
2018-06-20
更新日
-