火葬場から排出されるダイオキシン類の実態調査

文献情報

文献番号
199700114A
報告書区分
総括
研究課題名
火葬場から排出されるダイオキシン類の実態調査
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
武田 信生(京都大学大学院工学研究科環境工学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 竹山久之((社)日本環境斎苑協会)
  • 江口正司((社)日本環境斎苑協会)
  • 藤原健史(京都大学大学院工学研究科環境工学専攻)
  • 高岡昌輝(京都大学大学院工学研究科環境工学専攻)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本は火葬率が98%以上と諸外国に比べ非常に高いにも関わらず、これまで火葬場からのダイオキシンの排出実態は全くといってよいほど把握されておらず、ダイオキシン類の排出抑制対策についても全く触れられていない。しかし、海外ではダイオキシン類の発生源として考えられ調査がなされており、ドイツでは0.1~14.4ng-TEQ/Nm3の範囲にあることが報告されている。このような背景のもと、今回の調査では、火葬場からのダイオキシン類の排出実態を把握することを第一の目的とした。ダイオキシン類の挙動としては、発生源により特異的なパターンを示すことが指摘されていることから、異性体パターンについて詳細に調査し、さらに、火葬炉からの排出抑制対策を提言するため、他のガス成分や炉の燃焼温度、建設および改造年代、遺体の年齢等とダイオキシン類の排出濃度の相関をみて、関係があるかどうかを検討した。最後に火葬場からのダイオキシン類の年間排出量を推定し、現状における日本のダイオキシン類発生源のインベントリーとしてどの程度の寄与があるのかを見積もった。
研究方法
全国10箇所の火葬場を対象に、一つの火葬場で2回の排ガスサンプリングを行い、ダイオキシン類濃度を測定した。今回の調査対象となった火葬場については地域性、火葬場の規模別の施設数、火葬件数、火葬炉の建設および改造年代、主燃焼炉の使用燃料、再燃焼炉の設置の有無、排気方式、集じん装置の種類別を考慮し、A~Jまでの施設を選定した。選定した施設の代表性については、平成6年度統計と比較した。調査対象の10施設は全体の施設数の0.62%に過ぎないが、火葬件数からみると、10施設で全体の4.0%を占めた。炉構造の中で、現在25%の施設に再燃焼炉が設置されていないが今回の調査ではすべての施設で再燃焼炉が設置されている施設を選んだ。これらの結果、今回の調査対象とした施設はやや大きな規模のところを選んでいるが、代表性は十分あると考えられた。
施設FとGについては3回のサンプリングを、施設Hについては一つの火葬に対して、約20分ごとに時間を区切ってダイオキシン類濃度の時間変動を調査した。なお、今回の調査では集じん灰、残骨灰中のダイオキシン類濃度については調査の対象としなかった。今回はダイオキシン類以外に、ダスト、塩化水素、一酸化炭素、酸素、窒素酸化物の濃度を測定した。また、同時に燃焼の温度管理を把握するため主燃焼室温度、再燃焼室温度、排ガス温度を測定した。サンプリング時間は一工程の燃焼時間全てとし、再燃焼バーナの点火時より主燃焼バーナの消火時までとした。ただし、塩化水素のみ再燃焼バーナ点火時より20分間とした。ダイオキシン類の測定は厚生省マニュアルおよびUSEPAのMethods23に準拠した。ダイオキシン類の分析にはMicro Mass社のVG Auto Spec ULTIMA質量分析計を用いた。2,3,7,8-T4CDFのDB-5によるカラム分離が悪い場合はDB-225を使用した。ダイオキシン類濃度は9種の内部標準物質に対する17種の2,3,7,8異性体の相対感度(RRF)および標準物質により作成した検量線を用いてGC/MS測定用試料液中のダイオキシン類の量を計算し、試料液量および試料採取量から算出した。定量下限値については検出限界値を排ガス吸引量でわった値で表し、報告数値については有効数字2桁で表した。
データの解析については、まず、詳細な異性体分析結果から火葬炉から排出される同族体分布・異性体分布パターンを同定した。次に、他のガス成分や火葬炉の運転温度との相関関係を見たり、火葬炉の構造や排ガス処理設備の設置状況などによりデータを整理することで、排出抑制対策につながる因子を抽出した。同時に、火葬炉からのダイオキシン類年間排出量を推定し、現在の他の発生源と比較することにより、その寄与の大きさを判定した。
結果と考察
ダイオキシン類濃度の最も高い施設で6.5ng-TEQ/Nm3、最も低い施設で0.0099ng-TEQ/Nm3であった。都市ごみ焼却の緊急対策を必要とする濃度(80ng-TEQ/Nm3)と比べると低いといえるが、煙突の本数や基数など火葬炉特有の事象もあり、単純には評価できず、今後の検討を要した。不完全燃焼の指標である一酸化炭素濃度はダイオキシン類の排出濃度と中高濃度域では正の相関があると言われているが、本研究では明確な傾向がつかめなかった。火葬炉からの排ガス中の酸素濃度は概ね18%を超える施設が多いことから、冷却空気の吹き込み量がかなり大きいことがわかった。遺体の性別、年齢などの個体差よりも施設間の違いが大きく、炉の構造などの影響が大きいと考えられた。主燃焼炉と再燃焼炉の比が多対1以上の施設では、一体当たりのダイオキシン類濃度に直しても濃度は高い傾向にあり、炉の構造としては主燃焼炉と再燃焼炉の比が1対1であることが望ましいと考えられた。再燃焼炉温度を850℃以上に保っている施設については濃度が低い傾向があった。燃料の違い、集じん装置の有無について明確な傾向が把握できなかったが、ダスト濃度が50mg/Nm3以下であった施設ではダイオキシン類濃度が低かったことから、集じん装置はバックアップ装置として必要不可欠であると考えられた。
測定データから年間排出量を推定すると、8.9g-TEQ/年となり、ごみ焼却(4,300g-TEQ/年)の約1/500であった。火葬場からの排出量は将来的に大きな寄与を占めることが予想され、抜本的な排出抑制対策が必要であると考えられた。
結論
本調査で火葬場から排出されるダイオキシン類の実態のおおよそはつかめたと考えられた。しかし、今回の調査対象施設ではすべて再燃焼炉を付設していたことなどから、やや排出濃度は低めに見積もっている可能性がある。よって、さらなる調査、データの蓄積が望まれる。本調査結果から火葬場からのダイオキシン類排出抑制対策として以下の5つの対策を提言する。
・1つの主燃焼炉に対して1つの再燃焼炉を備えること
・集じん装置を備え、ダスト濃度を50mg/Nm3以下に抑えること
・再燃焼炉温度を850℃以上とすること
・燃焼改善によるダイオキシン類の抑制を行うとともに、排出総量の観点から排ガス量を 減らすこと
・モニタリングできるように測定孔を設けること

公開日・更新日

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