臓器移植に向けた医療施設の整備状況に関する研究

文献情報

文献番号
199700112A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植に向けた医療施設の整備状況に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大塚 敏文(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1997年10月16日より施行された「臓器の移植に関する法律」(以下「臓器移植法」)は脳死体からの臓器移植を法的に認めており、現在関係諸機関は脳死臓器移植実施のために整備を進めている。臓器移植法と合わせて制定された「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)」(以下「ガイドライン」)では、臓器提供施設として、大学附属病院、日本救急医学会指導医指定施設、日本脳神経外科学会専門医訓練施設A項、救命救急センターに限定し、かつ最初の数例の脳死体からの臓器提供については、大学附属病院(本院)および日本救急医学会指導医指定施設に限定している。本研究は、このような限定が合理的な根拠に基づいているか否か、もし限定に合理性がない場合どのようなルール設定が公正な臓器提供を担保する上で有効であるかを検討することを目的に、上記4施設類型の病院を対象にアンケート調査を行った。
研究方法
対象は大学附属病院80病院、日本救急医学会指導医指定施設36病院、日本脳神経外科学会専門医訓練施設A項270病院、救命救急センター133病院の合計325病院である。同一の病院が、複数の施設類型に属するため各施設類型の和は325病院とはならない。このうち96病院が大学附属病院本院または日本救急医学会指導医指定施設であり、現在脳死体からの臓器提供が可能である(以下「現在可能施設」)。また229病院は現在脳死体からの臓器提供は不可能である(以下「現在不可能施設」)。1998年3月に記名式アンケート用紙を郵送配布・回収した。質問項目は、施設属性、脳死の判定状況、臓器移植法施行への対応等である。
結果と考察
174病院(53.5%)より回答が得られ、全例を解析対象とした。現在可能施設は現在不可能施設に比較して病床規模は大きいが、救命救急部門、脳神経外科部門の病床数では相違を認めなかった。1997年1年間の救急救命部門または脳神経外科部門の入院患者数は平均1475人、死亡患者数は平均157.0人、脳死者数は平均13.8人であり、現在可能施設と現在不可能施設で差を認めなかった。脳死判定基準としては、施設として厚生省研究班基準を用いているものが62.4%と過半を占め、施設として独自の基準を用いているものが28.2%であった。脳死判定後の治療方針については、消極的治療に移行するものが86.5%、脳死判定前と同じ治療を継続するものが13.6%であった。脳死患者に対する死体腎提供の申し入れは、「家族等から申出があった場合にのみ行っている」が40.7%で、以下、「家族等の状況を勘案し場合によって行っている」32.2%の順であり、適応があると思われる場合に「積極的に行っている」のは10.2%のみであった。1997年1年間の間に(社)日本臓器移植ネットワークにもたらされたドナー情報及び腎臓提供者数についてはドナー情報は平均0.79(人/年間/施設)、腎臓提供者は平均0.29人(人/年間/施設)であった。これらは同期間に(社)日本臓器移植ネットワークにもたらされた全ドナー情報の37.2%、腎臓提供者の73.2%に該当する。本調査の結果は、我が国の死体腎提供の状況をよく反映しているものと想定される。ドナー情報、腎臓提供者数とも現在可能施設と現在不可能施設の間で差は認めなかった。「ガイドライン」を「入手していた」のは「ガイドライン」で74.9%、「脳死判定の書式例」で69.7%であった。現在可能施設ではそのほとんどが両者を入手していたのに対して、現在不可能施設では未だ入手していないものが多かった。「ガイドライン」で示されている。脳死判定医師の選定を既に行っているのは48.3%であり、平均10.2(人/施設)の医師が選定されている。また臓器提供施設としての体制を「整えている」のは32.6%、これから「整える方針である」のは30.9%であった。現在可能施設では現在不可能施設と
比較して、脳死判定医師を選定しているもの、臓器提供施設として体制整備を行っているものは有意に多かった。未だ体制を整えていない施設については自らの施設に対して差し迫った問題となっていないとの認識が対応を遅くしていることが窺える。施設類型別に医療の実施状況をまとめると、病床/専門医師(床/人)、死亡/病床(人/年間/床)、脳死/病床(人/年間/床)、脳死/死亡(%)、腎臓提供者/脳死(%)の各指標で、現在可能施設と現在不可能施設で差がみられたのは病床/専門医師(床/人)のみであり、他の指標では差は認めなかった。死体腎提供の申し入れを病院より行っているものでは、そうでないものと比較して死体腎提供が得られ易いことが示唆され、施設類型による差は認められなかった。
結論
調査対象全病院では全脳死の22.5~41.8%、うち現在可能施設では8.4~14.6%、現在不可能施設では14.2~27.2%が発生していると推定され、現在可能施設では、調査対象全病院での脳死発生のうち1/3程度が発生しているに過ぎない。「ガイドライン」に挙げられた4施設類型に属す病院においては、脳死の判定がほぼ一般的に行われ、一般病院に比較して脳死発生の頻度が極めて高いこと、ドナー情報・腎臓提供者の相当数を占めることは、これらの施設を臓器提供施設として指定することに合理的な根拠を与えるものである。しかしながら現在可能施設とと現在不可能施設の比較では、提供されている医療内容に明らかな差は見い出せず、また脳死下臓器提供を円滑に行う上で重要と思われる死体腎提供実績でも差を見い出せなかった。施設としての合意、脳死判定を行う体制、標準的な手順の作成等、「ガイドライン」が別に定める要件を基準に臓器提供施設としての体制整備状況を判断し、体制整備が整った病院には脳死臓器提供を認めることが、公正な臓器提供を担保し、かつ臓器提供の機会を最大化するものと思われる。

公開日・更新日

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