病院における患者の意見・要望の収集と対応及び相談窓口機能のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700109A
報告書区分
総括
研究課題名
病院における患者の意見・要望の収集と対応及び相談窓口機能のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中野 夕香里(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本廸生(国際医療福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健医療サービスにおいては、内容が高度に専門的であり、提供者側と患者などの需要者側に情報の格差が大きく、通常のサービス財の取引のように対等な関係にはなりにくい。そのため、患者等の不安や不満が潜在化し蓄積し医療サービスそのものに対する不信が生じがちである。医師-患者間の情報の格差は医療サービスの本質的な性格ではあるが、このために生じるかもしれない心理的なわだかまりは、治療関係において、あるいは地域の保健医療システムの効果的運営において、患者の協力が不可欠であることを考慮すると好ましい状態ではなく、その影響を最小限にする検討がなされねばならない。本研究では、患者が医療サービスの利用に際してもつ種々のとまどいや不安を受け止め、それらを減少させる機能としての患者相談窓口に着目し、そのあり方について検討をおこなうことを目的とした。
研究方法
問題解決のための相談機能をもつ単位として、医療機関および地域を想定し検討するとともに、医療以外の一般サービス業での顧客要望処理機能を把握することとし、以下の3点により分析した。1.医療機関(病院)における患者相談への対応機能について、財)日本医療機能評価機構の評価結果に基づき、わが国における当該機能の現状を分析する。2.地域の行政における住民サービスとしての相談機能について、M市を事例に、地域に保健医療にかかわる情報提供サービスが総体としてどのように存在し、どうあるべきかを検討する。3.一般のサービス業では、消費者の相談や要望あるいは苦情に対してどのような対応機能を保有しているかを事例検討により把握する。
結果と考察
1.わが国の病院における取組の現状:平成9年度に日本医療機能評価機構の評価を受審した125病院のうち、一般病院種別で受審した120病院について評価結果を集計し、患者の意見・要望の収集と対応の取組状況を分析した。一般病院のうち、「地域密着型で地域おける1~2次医療を担当する病院」向けの評価体系で受審した52病院では、患者相談窓口の設置および対応体制については、50%余の病院で積極的な取組が認められたが、その一方で約23%の病院で、窓口機能が不明確あるいは要望への対応体制が不明確である状況が認められた。投書箱やアンケート等により患者の意見・要望を収集し、それを何らかの具体的な改善に結びつけているかという点では、約50%の病院で積極的取組がみられ、具体的な改善事例が認められている。本事項について問題状況が確認された病院は約13%にあたる7病院である。一方、「地域における2~3次医療を担当する中核病院」向けの評価体系で受審した68病院では、65%以上の病院で入院前の相談支援に積極的な取組が認められ、問題状況の確認された病院は全体の3%に過ぎなかった。患者の意見の収集については、ほとんどの病院で何らかの取組がなされており、約30%の病院では積極的な収集の仕組みがあると評価されている。これらの意見が実際のサービス改善に結びついているかという点では、いずれの病院でも何らかの改善事例が示され、問題状況は認められていない。しかしながら、個々の病院の取組の具体的な内容を調べると、改善への取組が単発的であったり、サービスの一部分に限局している状況も多くみられ、意見の収集→検討→改善のシステムが系統的に有機的に機能しているかという点では、不十分な部分も多いと考えられる。2.M市における保健医療にかかわる情報提供のあり方の検討:(1)保健医療にかかわる情報入手の要望:M市では市民の4分の1以上が保健医療の情報入手や相談についての機能の充実を求めている。情報入手要望は、医療機関に関する情報についてが多く、緊急時および平常時の
情報ともに求められている。また、健康相談や育児に関する相談機能の充実も多く希望されている。情報入手において重要なこととして、総合性、アクセス容易性、双方向性が確認されている。(2)整備すべき情報サービスの考え方:保健医療情報は、市民が必要な時いつでも入手できることが必要で、24時間アクセス可能なサービスが望まれる。そのため、総合相談窓口から個別に振り分けるシステムの設置が必要である。健康や病気に関する情報は個別性が高いので、定型的な情報の提供に加えて、非定型な情報提供や相談といった双方向のサービスが必要とされる。また、既存の資源を活用し、地域でこれらを複層的に機能させることが有効である。 (3)今後の検討課題:地域において住民の高齢化が進むなかで、個別性の高い包括的な相談機能をもったシステムの構築が必要である。また、生活範囲の広域化が進むので他の地域の情報をも補足できるネットワークの整備が必要となってくる。多様な情報が複層的に存在するのは望ましいことであるが、その情報の内容や利用状況の評価の仕組みが必要となってくる。3.一般サービス業における消費者の要望や苦情への対応機能の検討:以下の2業種の当該機能を把握した。 (1)デパートにおける消費者の要望や苦情への対応機能:デパートでは、現場での苦情処理が原則であり、店舗の独自性が高い。苦情は客のマイナスの感情の表現であり、そこを起点として感情の縺れになっていく可能性が高いという観点から、苦情が発生した現場で誠意をもって対応することが苦情処理初期対応として必要であると考えられているからである。多くのデパートでは顧客サービス課あるいは類似した部署が設置されている。さらに、日本百貨店協会の申し合わせで、通称CC(Customer Counter)と言われる顧客に接する部署が設置されていることが多い。CCは、デパートに属するが、中立の立場で苦情等を判断する担当者として位置づけられる。CCが中立の立場で判断しながら、苦情を現場に投げかけ、指示することで、顧客に、自分の苦情をデパートが受け入れて反応したという印象を与えることができる。顧客からのクレームを現場で処理する他に、電話での苦情、手紙による苦情、その他から寄せられた苦情が顧客サービス課に集まってくる。顧客サービス課で定型的な処理が出来るものを判別し、それは迅速に誠意を持ってすぐに対応するように指示を出す。定型的な処理が出来ない場合は、担当者およびその上司が顧客と個別に対応しながら苦情の処理を行う。いずれの場合も、以後、同様な苦情が寄せられないように、現場での教育あるいは情報伝達を行う。その苦情の解決策、今後の対応などを各現場ではCCに報告する義務を持つ。重要な問題は、誰が、どのように、苦情の重要性を理解し、的確に判断することが出来るかである。したがって、デパートでは顧客に接する売り場の店員に対して、マニュアルを配布し、初期の判断を間違わないように訓練していることが多い。 (2)ハンバーガーチェーンにおける消費者の要望や苦情への対応機能:チェーン展開しているハンバーガーショップでは、苦情処理の重要な役割を本部で担っていることが多い。ハンバーガーは食物であるので、そのクレームは、直接に消費者から店舗の従業員に向けられることがく、その内容は、異物の混入などデリケートであることが多い。クレームが発生した際の最初の対応を定型化し、すべての職員が一次処理可能な体制を構築している。店長以外はアルバイトを多く雇用しているので、その職員を短期間で一人前の従業員として一定の責任を持たせたクレーム処理をさせることができるかが、経営の問題として重要となる。そのため、すべてのアルバイトにクレーム処理の初期対応のマニュアルを提供している。問題がこじれて、店舗では処理しきれなくなったと判断された時、クレームが当事者間の問題でなくなり、第三者や公的機関などの介入あるいはマスコミの取材などが予想される場合は、速やかに本部にいるスーパーバイザーあるいは本部顧客サービス課に連絡しその指示を仰ぐことなどが示されている。店舗の責任
者は、苦情処理の現場の責任者として、クレーム処理のトレーニングを受けることが必要とされ、企業としてそれを組織的に行うことが求められる。
結論
医療において、患者の適切かつ効率的な利用を促進するために必要な機能としての相談窓口について、?病院における取組は一定以上の状況を達成してはいるが、システムとしてより充実するためには、先行事例の分析による方法論の共有が必要である、?地域行政においても医療情報の提供および住民からの相談への対応機能の要請が強く、今後は病院単独の対応に留まらず、地域での情報の整理と提供体制の整備が必要である、?一般サービス業においては、意見・苦情の受け入れ、対応の形式が複数の段階に分けられており、病院においても、意見や要望の内容による柔軟な対応体制を検討すべきである点が確認された。

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