保健医療福祉分野における電子認証・電子公証の実施方策に関する研究

文献情報

文献番号
199700108A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療福祉分野における電子認証・電子公証の実施方策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大山 永昭(東京工業大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 星北斗((財)医療情報システム開発センター)
  • 飯田勝章((財)医療情報システム開発センター)
  • 八幡勝也(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 高橋紘士(立教大学社会学部)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、全国の医療機関を光ファイバーで結び、ネットワークを通じた遠隔医療や診断支援等を推進することが計画されている。ネットワークを通じた保健医療情報の流通を行う場合には、個人情報の保護が極めて重要である。欧米諸国では、プライバシー保護を目的とした法制度が既に存在するか、整備が行われつつあるのに対して、我が国ではプライバシー保護についての法的な整備がなされていない。このため、個人情報の安全性を担保する適切な措置を講じることが急務とされている。
個人情報のプライバシーを確保し、不正使用を防止するためには、通信回線上の個人データを秘匿するとともに、誰の責任の下で、どのような目的にデータを使用するのかを明確にすることが必要である。また、診療録や処方箋等において、従来書面により行われていた手続きを電子化する場合には、記名や押印等の扱いが問題になる。
そこで本研究では、保健医療福祉サービスの情報化を推進するにあたり、サービスの提供者(医師等、保健医療機関等)や利用者(患者等)及び情報内容についての認証の必要性と実施方策を明らかにすることを目的とする。具体的には、?医師や薬剤師等の公的資格の認証、?患者等のサービス利用者の認証、?保健医療福祉サービスを提供する機関の認証、?提供される情報内容の認証等の各々に関して、認証が必要とされる場面を整理することによって、認証技術に対する要求定義を明示する。そして、電子的な認証及び公証の実施方策を検討するとともに、実現にあたっての課題を明らかにする。
研究方法
保健、医療、福祉の各分野における情報化推進にあたっている工学者及び医師らの研究分担者を中心として研究委員会を組織し、各分野における認証の必要性に関する検討と、資格登録等についての調査を行った。また、(財)医療情報システム開発センターにより運営されている関連の委員会等との情報交換を行い、これらの結果を基にして電子的な認証の実施方策を検討した。
結果と考察
認証の実施方策を明らかにするためには、誰が、何を、どのような目的で認証する必要が有るのかを明確にすることが必須である。そこで、まず認証が必要と考えられる場面を例示し、各場面における認証の必要性を検討する。
まず、医療従事者が資格に応じて法的に許可された行為を行うためには、医師、看護婦、薬剤師等といった資格の正当性を確認することが必須である。すなわち、医療従事者の本人確認とは、その身分を証明することであり、本人が持つ免許または資格を認証することによって行われる。また、情報の提供元や使用者としての組織または施設が正当な医療機関であることを確認するために、施設等の認証が必要になると考えられる。病院等の医療機関では、個々の医療従事者の責任に加えて、組織の一員としての行為については代表者の責任下で行われる。従って、組織または施設の認証は、その代表者(責任者)の認証によって行われることが基本となり、組織または施設の責任者は、認証によりその構成員の行為に対して責任を持つことを明らかにする。以上のことから、ネットワークを介した保健医療情報通信において、電子認証に対する要求定義として、資格の認証を基本とした認証の仕組みを構築することが最も重要であることが明らかになった。「医師」「看護婦」等の資格の正当性の確認は、その資格が登録されている機関により行われなければならないため、ネットワーク上での資格認証を実施するためには、資格登録機関の責任の下で、登録された名簿情報に基づく認証の仕組みを構築することが不可欠である。
次に、この資格認証の実現可能性を明らかにするために、保健医療福祉分野における各種の資格の登録と名簿管理の現状について調査した。医師、歯科医師、薬剤師等については、厚生省で名簿が管理されているが、名簿は紙として保存されており、現在のところ電子化は行われていない。また、名簿の管理は、申請等に基づく加除のみとなっている。保険医、保険薬剤師、麻薬関連の各種の資格については、各都道府県が管理している。以上の調査の結果、厚生省や都道府県等において管理されている資格登録情報は電子認証に用いるために整備されているとは言い難い状況であった。今後、資格認証の仕組みを構築するためには、名簿の電子化を行うとともに、名簿原本との同一性の確保、本人の実在性の確認等の課題を解決し、資格登録情報の整備を推進することが喫緊の課題である。
現状の医師免許等の確認は、本人に付与された免許証をベースに行われている。また、多くの場合、病院等の医療機関では、医療機関が医師免許の確認を行い、患者や他の医療機関による資格認証を代行しているといえる。これと同様に、組織(医師会、病院等)が組織に所属するメンバーの資格の正当性を代行して認証することが考えられる。比較的規模が大きい病院や医師会における情報化の進捗状況を踏まえれば、これらの組織が資格の認証を代行する方法は、比較的実現性が高いと予想される。ただし、医師会には基本的に医師が登録されているが、診療所の看護婦等は登録されていないことに留意する必要がある。また、資格認証を代行する認証機関が社会的に十分な信頼を得ることや、認証局内部での不正が完全に防げるように、そこで働く職員や用いられる情報機器の管理体制等が十分であることが必須となる。加えて、資格認証を代行することは、資格登録機関である厚生省や都道府県等からの委任があることが不可欠であり、同時に委任内容を明確化することが肝要である。
結論
本研究の結果、現状の資格登録制度は、ネットワークを通じた電子的情報流通の枠組みの中での運用を想定していないため、資格認証を行うための準備が整っているとは言い難い。一方、保健医療福祉分野における情報化は急速に進んでおり、個別領域での電子化・オンライン化は浸透しつつある。現在、情報通信技術を活用して保健医療福祉サービスの効率化・高度化を推進する動きは活発化しており、今後、電子認証の必要性を更に具体的に検証して明確化するとともに、資格等の認証を可能にするためのインフラを整備する必要がある。このために、登録された資格名簿の電子化や、実在性の確認を行うこと等の課題を解決し、実験等を行って認証システムの開発を推進することが必要である。

公開日・更新日

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