生体直結義肢開発研究のFeasible Study

文献情報

文献番号
199700107A
報告書区分
総括
研究課題名
生体直結義肢開発研究のFeasible Study
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 英雄(国立身障者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
過去欧米で行われた生体直結義肢の研究は金属材料技術の開発、進歩に従って逐次研究が起こされ試行されたが実用的研究成果を得るまでに至っていない。しかし、1980年代以降人工股関節に使う生体材料科学や人工皮膚開発研究などが進んだ。これらの科学技術を動員すれば20年程度は使える実用的な生体直結義肢の開発の可能性についてこの方面の我が国第一線の専門家を集めて調査した。特に生体直結義肢実用化の命題は、生体と直結してゆるみなく長年月の使用に耐える耐久性と耐久性と密接に関連している生体直結部位の細菌感染予防の方法について調査した。
研究方法
本研究に関係する専門的な研究者が集まって生体直結義肢開発に必要な関係技術研究論文の発表と解説および質疑応答を行った。この討論から本開発研究の達成の可能性および達成される研究成果の内容について科学技術的側面及び実用化など有用性の検討を行って、開発研究を起こす意義について検討した。各専門の研究者が公正で客観的検討を行うことができるようにするため、あらかじめ学術情報調査資料会社に委託して本開発研究に関係する要素技術開発の実状の調査を行った。
今回は調査研究でFeasible Studyの性格上、研究代表者矢野のもとに非公式の調査委員会を設置して、生体直結義肢開発に求められる要素技術として次の6つの課題について調査研究を行った。
1)生体直結義肢開発の現状
2)人工臓器をめぐる現状と未来
3)骨と金属の固定および生体複合材料の現状
4)金属アレルギー
5)人工皮膚および貫通部の皮膚感染症 
6)ロボット工学
結果と考察
骨と義肢を長期間接合させ、強い力学侵襲にさらされての接合強度が維持されて生体直結義肢としての機能を果たすことができる生体材料の開発は難しい課題であることが確認された。しかし、骨と四肢を直結させて使われる人工関節に利用されている金属であるチタニュームの生体材料としての優良性が明らかとなった。各種のチタニューム金属材料を使った人工股関節の生体適合性は優良とされ、骨との接合性を示す"ゆるみ"は現在でも15年~20年程度使用してもみられないなどの報告を得た。チタニューム金属をコーチングするなど新たな加工技術を発展させると生体直結義肢への道が開かれる可能性が指摘された。併せて、骨との接合部の形態を工夫することによって骨との固定性能を向上させることが可能であるとの意見が提出された。すなわち人工関節と骨との接合形態は、人工骨頭が大腿骨の骨髄中に挿入固定の様式となっているが、生体直結義肢では大腿骨を前後左右の貫通するピンを刺入させてこのピンに義肢を接続させるなど工夫すればより接合部の力学的強度の増加と耐久性を増すことが可能であると指摘された。
このほか手術を2回行って工夫する方法も提案された。骨接合用チタニューム金属性アンカーを接続のための本手術に先立って骨髄中に埋没させて数ヶ月閉鎖しておくとアンカーが骨と強く接合する。これに義肢の接合アダプタを接合させると接合部の強度が保障され長期間力学的侵襲に耐える接合が可能であるとする意見が提出された。これらの骨接合部の力学的強度は実験によって検証する以外にないが、生体と直接接合する材料の開発より現実的可能性のある開発研究を行うべきであるとの指針をえたものと考えられる
次ぎに重要な問題である感染症は、生体接着義肢の骨と接合した金属端子が皮膚を貫通して生体から外部へ露出するしてこれに義肢が接合するが、この皮膚を貫通して外部に露出する部分における感染の問題である。この部位を人工皮膚で解決できるかどうかの検討がなされた。調査資料および関係専門委員から感染を防止できる人工皮膚の開発が難しいとした意見が提出されたが、茄皮形成を促進させるなどの工夫を行えば金属端子の皮膚貫通部分の感染を阻止できる可能性があると指摘があった。また、感染防止CABINETを皮膚貫通部分に設けてこの衛生管理キットを作成すれば感染が予防できると予測された。
結論
生体直結義肢の開発は材料科学、免疫を含む生体反応科学、ロボット制御工学など総合的な医療福祉科学が関連する研究領域の開発研究である。また生体直結義肢の利点が欠損した四肢が再び再建された感覚があるとする研究報告は、初めてもたらされた研究報告で骨と接合した人工の四肢が感覚を取り戻したと考えることができる驚くべき効果である。この方面の研究は未だ皆無でその実体はBraunenmarkが行った海外の患者の症例だけであるので真実は不明である。しかし、考えられる現象で運動に関する神経科学や運動の学習認知科学に新しい研究領域を開拓する可能性を秘めている。
いずれにしてもこの研究は難しい研究で組織的な研究協力体制が組織されなくては実効ある研究は難しいと考えられる。
先端医療福祉工学の技術を多く内蔵した21世紀の境界領域の研究課題としてふさわしく、障害者のQOLの向上と生活の現場での実用化を目途した研究として国が行う研究課題である。

公開日・更新日

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