アレルギ-性疾患を抑制する天然薬物シジュウムの研究

文献情報

文献番号
199700106A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギ-性疾患を抑制する天然薬物シジュウムの研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北中 進(日本大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 豊島聡(星薬科大学)
  • 馬場俊一(日本大学医学部)
  • 早川智(日本大学医学部)
  • 鈴木五男(東邦大学医学部)
  • 笠原義正(山形県衛生研究所)
  • 斉藤貢一
  • 石井里枝(埼玉県衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギ-疾患を抑制するために種々の抗アレルギ-薬が使用されている。その作用機序から考えると抗炎症薬と類似する作用を有することもある。副腎皮質ホルモンなどは抗アレルギ-および抗炎症作用を示す優秀な薬であるが、副作用が重篤でありマイルドな作用の薬物の開発が望まれる。
最近、種々の環境の変化により、従来の疾病構造が変化しており、特にアレルギ-性疾患や生活習慣病の増加がみられる。薬物に対してもあるところでは抵抗性が増加し、一方では減少しているのが現状である。疾病予防や治療においても、薬では強すぎるが、単なる栄養を摂取するための食物では効果が弱いということがあるので、食物の範疇にはいるが薬物に相当近い、いわゆる民間薬、薬草、微生物等の天然薬物の中に治療効果を示すものを求めなければならない。
シジュウムはフトモモ科シジュウム属植物の一種で、葉は民間においてアトピ-性皮膚炎、花粉症等のアレルギ-性疾患に応用されている。これまでの研究により、シジュウムは carrageenin 足蹠浮腫や持続性浮腫抑制試験において有意な抑制が認められ、また、in vitro においてマスト細胞からのヒスタミン及びロイコトリエンの遊離を抑制することを明らかにした。そこで、本年度は更にシジュウムの有効性を評価し、有効成分の解明とその作用機構について以下の各事項について検討した。
1)シジュウムエキスは in vitro においてマスト細胞からのヒスタミン遊離を強く抑制する事から、これを指標に活性成分の分離を行うため、各種カラムクロマトグラフィ-による分画と成分の単離を検討した。
2)シジュウムの有効性を評価するための基礎実験として in vivo において急性起炎物質によるマウス足蹠浮腫試験、アジュバント関節炎、肉芽形成試験について検討した。
3)ヘルパ-T 細胞は産生するサイトカインのパタ-ンによりTh1(IL-2, IFN-g 等を産生)とTh2 (IL-4, IL-5 等を産生)のサブタイプに分類され、両細胞のバランスの乱れは免疫・アレルギ-疾患の発症・増悪に関係する。特にIL-4 はIgE 産生に関係しており、その産生抑制はアレルギ-発症の抑制につながると考えられる。本研究はシジュウム抽出物中よりヘルパ-T 細胞によるサイトカイン産生を抑制する物質を検討した。
4)微生物感染では感染源によって誘導される免疫応答が異なる(Leishmania major ではTh1, グラム陰性菌の多くは Th2 を誘導する)。一方、同一抗原下でもプロゲステロンやプロスタグランジンは Th2 を誘導することが知られてる。現在その調節が各種疾患の治療への応用の観点から注目されている。しかしながら植物に由来する天然物質の外的投与によるTh1/Th2 の誘導に関する研究は少ない。また、粘膜に存在する抑制性の gdT 細胞の増殖や分化を介した天然物シジュウムの免疫調節作用を検討した。
5)一酸化窒素(NO)はマクロファ-ジをはじめとする生体の種々の細胞で生成され、神経伝達物質のメディエ-タ-や細胞障害の防御因子等多彩な生理活性を持つエフェクタ-分子の一つであると考えられている。しかし、無秩序な産生は正常細胞の傷害を引き起こし、慢性炎症などをもたらす。その過剰産生を抑制することは炎症性作用につながると考え、シジュウムのマクロファ-ジNO 産生に対する抑制効果について検討した。
研究方法
各研究分担者により以下のように行った。
1)シジュウムの抽出エキスは湯煎エキスと 80% アセトンエキスを作成し研究に用いた。
2)80% アセトンエキスはダイヤイオンHP-20 カラムクロマトにより6分画(水、20%-、40%-、70%-、100% メタノ-ル、アセトン)した。各画分についてヒスタミン遊離抑制活性を指標に更に各種クロマトグラフィ-により分離精製をおこなった。単離した化合物についてNMR, MS などにより、構造解析を行った。
3)a) 急性起炎物質によるマウス足蹠浮腫試験:被検液を経口投与し、30分後に左後肢足蹠に急性起炎物質(ヒスタミン 5 mg/5 ml, セロトニン 0.5 mg/5 ml, ブラジキニン 5 mg/5 ml, プロスタグランジン E1 5 mg/5 ml)を皮内投与し、もう一方の足蹠には生理食塩水 5 ml を投与して両足蹠の腫脹の差をダイヤルシックスゲ-ジで測定し、その差を求めた。
b) アジュバント関節炎:ラットをエ-テル麻酔し、流動パラフィンに懸濁したフロイントのコンプリ-トアジュバント 0.6 mg/50 ml を一方の後肢足蹠に皮内投与した。皮懸液は、アジュバント投与前日より経口投与し、一日一回、21日間行った。アジュバント投与後 1, 3, 5, 7, 14, 21 日目に両後肢足蹠の腫脹を容積法で測定し、腫脹率を求めた。
c) 肉芽形成試験:ラットをエ-テル麻酔下背部正中線に沿って切開し、両肩月骨皮下に滅菌した綿球を挿入した後縫合した。綿球挿入日より1日1回7日間にわたって被検液をを経口投与し、8日後に綿球を取り出し、50℃で乾燥させた後、綿球に付着した肉芽の重量を測定した。
4)抗CD3抗体刺激T 細胞、クロ-ン化 Th1 細胞、クロ-ン化 Th2 細胞、にシジュウムの粗抽出物、分画物を添加し、各種サイトカインの産生への影響を調べた。
5)シジュウム抽出物の免疫調節作用を健常人細胞を用いて in vitro で検討した。
健常者Tリンパ球にシジュウムを添加し、増殖に及ぼす効果の検討とELISPOT にてINF-g(Th1)/IL-4(Th2) 陽性細胞数を検討した。また、健常者 gdT リンパ球にシジュウムを添加し gd レパトアを RT-PCR で検討した。
6)NOの産生抑制効果についてはシジュウム 80% アセトン抽出エキス及び単離成分を試料とした。マウスマクロファ-ジ様株化細胞RAW264 細胞に試料、既知活性化剤インタ-フェロン(IFN-g)及びリポポリサッカライド(LPS)を作用させ、24時間後の培養液中の NO2- 量をグリ-ス法で、L-シトルリン量をHPLCで測定した。
結果と考察
1)シジュウムの 80%アセトン抽出エキスのヒスタミン遊離抑制画分からtellimagrandin I 、casuarinin、castalagin、methyl gallate を単離同定した。この他にも多数の活性成分の存在が考えられ、引き続き成分の分離と構造研究を行っていかなければならない。
2)シジュウムエキスは、用量依存的にヒスタミン、セロトニン、ブラジキニン及びプロスタグランジンE1 による浮腫を抑制した。シジュウムエキスは in vitro において IgE, compound 48/80, concanavalin A 等の刺激によるマスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制することが分かっている。更に、ヒスタミンは外因性に炎症を惹起する。また、炎症の初期や I 型アレルギ-反応に関与している。そこで、動物全体を用いてヒスタミンによる浮腫について検討したところ、外因性のヒスタミンによる炎症を抑制したことになる。このことからアレルギ-の予防だけでなく、アレルギ-性の炎症にも有効である可能性が示唆された。さらに、ヒスタミン以外に炎症時に遊離される急性起炎物質の浮腫について検討した。セロトニンは血小板に含有されており炎症初期や即時型アレルギ-に関与する。平滑筋を刺激し、気管支喘息、血管収縮を起こし、繊維芽細胞の増殖をもたらす。ブラジキニンは生体内の発痛物質と言われ、炎症において血管透過性亢進による腫脹および強い末梢血管拡張作用がある。プロスタグランジンは血管拡張、血管透過性亢進、好中球遊走性亢進などを有する。シジュウムは、これら急性起炎物質による炎症を抑制した。
3)シジュウムエキスは、アジュバント関節炎を用量依存的に抑制した。高用量では統計的に有意な作用であった。アジュバントを投与しなっかた方の足にも病変がみられたが、この浮腫も抑制することが分かった。アジュバント関節炎による慢性炎症には遅延型アレルギ-が関与するといわれており、人の関節炎リュウマチに類似する。シジュウムはアジュバント投与後3~5日に現れる初発の浮腫及び10日目頃から出現する全身性の病変を伴う浮腫の両方を抑制した。このことからシジュウムは慢性炎症にも効果が期待される。
4)シジュウムエキスは、コットンペレット法による肉芽形成に対して顕著な作用は示さなかった。本法は関節炎リュウマチの治療効果とよく適合するといると言われているがこのような炎症には作用が期待できないと考えられる。
5)シジュウムの熱水抽出物、80% アセトンエキス及び 80% アセトンエキスの画分(水、20%-、40%-、70%-、100% メタノ-ル)について IFN-g とIL-4 の産生への影響を調べたところ、IFN-g 産生も IL-4 の産生も100 mg/ml の 80%アセトンエキス、20%- 及び100%-メタノ-ル画分により強く抑制された。次に 20%- アセトン画分より得られたtellimagrandin I、casuarinin、methyl gallate の IFN-g と IL-4 産生への影響を調べたところ、いずれも両サイトカインの産生を抑制したが、10 mg/ml の methyl gallate は IL-4 産生を強く抑制するが IFN-g 産生はわずかに抑制するのみであった。また、methyl gallate は IL-2 産生よりも IL-5 産生を強く抑制したことから、Th2 細胞により選択的に作用する可能性が示唆された。これらの結果によりシジュウムには抗アレルギ-作用の存在することが示唆されるが、本研究で、シジュウム抽出物の中にヘルパ-T 細胞によるサイトカイン産生を抑制する物質の存在することが判明し、抗アレルギ-作用を裏付ける結果がえられた。さらに、IL-4 産生をある程度選択的に抑制する物質の存在を示唆する結果も得られており、I 型アレルギ-に、より選択的に効果のある可能性も示唆された。
6)健常者Tリンパ球にシジュウム抽出物を添加することによって、単独であるいはIL-2 の存在下で低濃度(100 ng 以下)ではその増殖を促進し高濃度では抑制した。特にCD4 ヘルパ-T 細胞に対して増殖促進効果を認めた。また、INF-g(Th1)/IL-4(Th2) 陽性細胞比は 100 ng ~ 1 mg/ml の範囲で増加した。健常者末梢血ではVgII が優位であるがシジュウム 100 ng ~ 1 mg /ml の範囲で粘膜型の VgI が増加した。
7)シジュウムの80% アセトン抽出エキスは30 mg/ml の濃度でマクロファ-ジの産生するNOを約40% 抑制し、濃度依存性が認められた。その活性成分について検討したところ、castalagin 及び casuarinin に高い抑制活性が認められた。シジュウムエキス及びシジュウム由来成分にはマクロファ-ジの活性化によって生じる過剰なNOを抑制すると考えられ、マクロファ-ジに対して抗炎症的に作用していると推定された。今後、起炎性のサイトカインであるTNF-a などについても検討していかなければならない。
結論
シジュウム中にはヒスタミン、セロトニン、ブラジキニン及びプロスタグランジンE1 の急性起炎物質による炎症を抑制し、また、I 型アレルギ-発症の原因となるIgE 産生の制御に関与するIL-4 や IL-5 などのサイトカインの産生を抑制する物質が含まれていることが明らかとなった。シジュウムは二相性のリンパ球増殖作用より免疫の調節作用が存在する。特に Th1 細胞の増殖促進作用よりアレルギ-や悪性腫瘍疾患患者の治療に有用と考えられるが、主として粘膜に存在し抑制系の VgI の誘導活性も認められた。マクロファ-ジに対しては活性化によるNO産生を抑制することが明らかになった。

公開日・更新日

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