食品中に溶出するアルミニウムの摂取実態に関する研究

文献情報

文献番号
199700105A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中に溶出するアルミニウムの摂取実態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松田 りえ子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルミニウムは軽量・高い熱伝導度といった特性を持っているため、多くの方面で使用されており、人の日常生活においても調理器具、容器、包装材量として接触する頻度の高い金属である。アルミニウムの毒性は高くないと考えられていたが、近年、アルツハイマー病とアルミニウムに因果関係があるという学説が提出された。しかし、日常生活におけるアルミニウムの摂取量・摂取経路についての報告は少なく、アルミニウムの健康影響を評価するためには、先ずその摂取量を正確に把握することが重要である。食品中のアルミニウムは、原食品の成分として存在するアルミニウムの他に、食品添加物、調理器具、包装容器からのアルミニウムの移行も考慮しなくてはならない。このように実際に喫食される形態からの、摂取量を推定するためには原料食品の分析では不十分であり、実際の調理加工をシミュレートした調査が必要である。この目的のためには、マーケットバスケット方式による調査が最も適切であるが、食品の地域的差異・多様性を考えると、正確な推定のためには多くの地域での調査が必要である。
また、アルミニウムのように環境中に遍在する物質の分析においては、分析法による測定値の変動の可能性も否定できない。このような変動の可能性を評価するためには、分析法を適切にバリデートし、正確な測定値を求める手法を用いなくてはならない。
研究方法
1)試料調製 全国10カ所の自治体研究機関において、マーケットバスケット方式による試料調製を行い、アルミニウムの一日摂取量を推定した。食品を?~??の14群に分け、それぞれの食品を通常の方法に従って調理し、一日摂取量に従って混合して、試料とした。
2)アルミニウム分析 アルミニウムの分析は試料を調製した期間で実施した。アルミニウムは、原子吸光法、ICP発光、ICP-MSで分析された。また、試料の前処理法は、湿式灰化・乾式灰化・マイクロウェーブによる分解が行われた。
3) アルミニウム分析法の評価 各機関に市販の米粉を均一に混和した物を試料として送付した。各機関では、試料を分析すると共に、試料にアルミニウム標準液を2ppm及び5ppmの濃度になるよう添加して分析を行った。
結果と考察
1)各食品群からのアルミニウム摂取量 日常食からのアルミニウム摂取量は平均3.9mgであった。これは昨年度の約1/2である。機関の平均値では、嗜好品、穀類、魚介類、野菜・海草の群の合計でアルミニウムのほぼ60%を摂取している。これらの食品群におけるアルミニウム濃度は2.1~5.1 mg/gであった。
アルミニウム濃度の高い食品群は、砂糖・菓子、加工食品、嗜好品、魚介の順であった。これらの食品群は昨年の結果でも、高いアルミニウム濃度が報告された。砂糖・菓子群の食品中のアルミニウム濃度は10.6mg/gであった。この群には、カステラ、ビスケット、ケーキなどがほぼ6~7g含まれているので、この群でのアルミニウム源はベーキングパウダー等の膨張剤に含まれているミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)等が考えられる。これらの食品は平均すれば摂取する量が少ないが、子供はこの群を摂取する割合が大人よりも大きいと予想され、子供においてはアルミニウムの大きな摂取源となる可能性がある。加工食品群はカレールウ、ハヤシルウが含まれている。菓子・加工食品共に機関間で濃度の差が大きく、試料調製のため購入した食品によりアルミニウム濃度に大きな差があると予想される。アルミニウム摂取量、濃度ともに小さい群は、飲料水と油脂であった。
2)分析法の評価について アルミニウム分析には多くの誤差要因が含まれる。誤差の要因としては、試料調製法を含めた分析法の違い、使用した器具、試薬からのアルミニウムの汚染が考えられる。特に、器具、試薬からの影響を防ぐことが重要である。昨年度の結果を踏まえて、各機関では灰化容器をテフロン製とする、容量器をガラス製品からポリプロピレン製のものに変更する、各器具の洗浄法を改良するといった分析法の変更を加えた結果、コンタミネーションの低下につながり、本年度得られたアルミニウム摂取量が昨年よりも低くなったと考えられる。
さらに、本年度は事実上ほとんどアルミニウムを含まないと考えられる標準試料に添加回収を行って、各機関で分析法の真度を見積もることにより、分析法の改良が行われたと考えられる。この結果ブランク値は0.1~2.1mg/gの範囲となった。アルミニウム摂取量への寄与の大きい食品群でのアルミニウム濃度は数mg/gと報告されているので、コンタミネーションの影響は小さいと考えられるが、米類のようにアルミニウム濃度は低いが摂食量の大きい群では、コンタミネーションの影響が現れると予想される。
各機関で測定した食品群毎ののアルミニウム濃度についての相関の考察から、全体として試料食品の差の寄与が分析法の寄与よりも大きいと考えられる。
結論
全国10か所で調製された試料から、アルミニウムの一日摂取量が3.9mgと推定された。これは昨年度の調査と比較してほぼ半分の値である。
アルミニウム摂取量調査では、本研究結果を含めて、得られた摂取量の推定値の最大値と最小値の差が大きいことが多い。この原因は、食品中のアルミニウム濃度が食品間で大きく異なっていることが一つの原因であろう。また、マーケットバスケット試料は、均一にすることが困難であり、サンプリングの誤差もバラツキの原因となりうる。このようなことから、摂取量の精密な推定には多数の試料からの分析値が必要であるが、今回の調査では、10カ所で調製した試料の平均を用いており、信頼性は高い。アルミニウム摂取量評価のためには、継続的にデータを蓄積して行く必要がある。
アルミニウム濃度が低く、食品摂取量の多い群では、分析操作ブランクの影響も無視できない。今回の調査では分析法について、回収率の確認、試薬ブランクの測定等のバリデーションを行うことにより、分析法の改良が行われると共に、得られたアルミニウム摂取量の推定値の信頼性も高められた。
摂取量の精密な推定のためには、多くの試料数を用いるだけではなく、使用された分析法の性能を明らかにし、正しくバリデートされた分析値を用いることが重要である。

公開日・更新日

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