ダイオキシン分析に係わる外部精度管理手法及びその評価方法に関する研究

文献情報

文献番号
199700104A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン分析に係わる外部精度管理手法及びその評価方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 正武(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトへのダイオキシン曝露経路として、食品等の喫食が特に重要であるといわれており、広い範囲の食品試料を分析し、含まれるダイオキシン類の量を知ることが不可欠である。食品におけるダイオキシン類の濃度は非常に低く、また、食品中に含まれる多数の成分によるダイオキシン類の定量値への影響も大きいと考えられ、食品中のダイオキシン類の分析結果には大きな誤差が伴う可能性がある。
従って、食品中のダイオキシン類による影響を評価するためには、単に多数の分析値を収集するのではなく、信頼性のの保証された分析値に基づいて、行わなくてはならない。
客観的に正当性を保証する方法として、共通試料を分析した結果を相互比較する、外部精度管理が考えられる。 本研究では、ダイオキシン類分析の外部精度管理方法を検討する目的で、4機関に食品類似のマトリクスを持つ標準試料を配布し、分析結果の相互比較を行い、外部精度管理方法の確立を試みた。
研究方法
食品環境検査協会、日本食品分析センター、日本冷凍食品検査協会、福岡県保健環境研究所の計4カ所のダイオキシン分析機関に、2種類の標準試料を配布し、分析結果を比較した。 配布した試料は以下の2種類である。2つの標準試料は、ダイオキシン類の含有量がおよそ20倍異なっている。
試料1 Carp-1  焼却施設廃液の流入口近傍で捕獲した鯉の、全魚体を均一化した試料。
認証値の決定及び安定性の検定ははNational Research Council of Canadaで行われた。
試料2 CRM607  牛乳を乾燥し、粉末状とした試料。認証値はヨーロッパの9カ所の分析機関の分析結果から決定された。
各機関は、それぞれの標準試料について2回分析を行い、結果を報告した。分析法、GC条件、定量のための質量数は、それぞれの機関の方法をそのまま使用した。
標準液或いは内標準液の製造者・ロット間の変動の影響をなくすため、分析には共通の標準溶液を及び内部標準溶液を用いた。
結果と考察
正確さの指標となる、各機関における測定と認証値の差(認証値との相対値で示した)は試料1では-29%~77%の範囲に、試料2では-14%~170%の範囲であった。各施設で精度管理試料2種類を分析した結果を表1及び表2に示す。認証値のあるダイオキシン類については、認証値との差を表3にまとめた。
試料1で認証値の95%信頼区間外の結果が報告されたのは、2378TCDD(2機関)とOCDD(1機関)であった。試料2では、機関Cが大部分のダイオキシン類について、認証値の95%信頼区間の上側よりも高い値を報告した。さらに、234678HxCDFは全機関が認証値の95%信頼区間の上側よりも高い値を報告した。試料1、2共に、C以外の3機関は、ほとんどのダイオキシン類について認証値の信頼区間内の値を報告した。これら機関の分析精度は満足すべきと考えられる。信頼区間外の値を報告した機関Cは、分析法、試薬・機器の管理を行い、正確さを向上させる必要がある。
精密さの評価のため、各機関から得られた結果に一元配置の分散分析を行い、室内再現性及び室間再現性を求めた。試料1中のダイオキシン類分析値の室内再現性の標準偏差は、0.04~1.65pg/g、室間再現性は0.15~2.87pg/gの範囲であった。室間変動中には標準試料間の濃度変動がかなり寄与していると考えられる。
試料2中のダイオキシン類分析の室内再現性の標準偏差は、0.03~0.45pg/g、室間再現性は、0.03~5.67pg/gの範囲であった。OCDDの分析値は、いずれの試料でも再現性が低い結果となった。OCDDはブランク値が高いことが低い再現性の原因となっている可能性がある。
OCDDを除くと、4機関間の再現性は50%以下であり、測定対象物が非常に低濃度であることを考慮すれば、満足すべき結果と考えられる。さらに、健康への影響評価で重要となる、換算係数を用いて求めた毒性等量では、室間再現性(相対標準偏差として)は試料1で8.3%、試料2で4.5%であり、良好な結果であった。
3 回収率
各機関から報告されたC132378TCDDの回収率は、最低が46%、最高が117%で、概ね良好と考えられた。回収率は分析処理が適切に行われていることの指標であり、分析値の報告と共に常に回収率を付して、分析値の信頼性を保証する必要がある。
4 検出限界
ダイオキシン類の検出限界は、2378TCDDで0.01~0.1pg/gと機関間でかなりの差が見られた。さらに、12378PeCDD、1234678HpCDD、1234678HpCDF、OCDD、OCDFにおいてブランクが報告された。ブランクが大きいと、分析値の精度が損なわれ、検出限界も大きくなるため、なるべく低く押さえなくてはならない。低濃度試料では分析値の真度にもブランクの扱いは大きな影響がある。回収率と共に、検出限界、ブランク値の扱いを統一し、分析値の信頼性を保証することが望ましい。
結論
2種類の標準試料を用いて、ダイオキシン類分析の精度管理を行った結果、参加4機関のうち3機関はよい真度を示した。1機関については、やや認証値より高い値を報告し、分析法を改良して真度を高める必要があった。認証標準物質を使用することにより、真度の絶対適評かが可能であった。室間再現性は、80%という大きなバラツキを示すものもあったが、概ねRSD50%以下で、今回の試料中の低いダイオキシン濃度、及び食品由来であるための試料の不均一性を考えれば良好な結果であった。
今後は、より低レベルでの精度を確保するために、日常的な機器の管理、ブランクの管理、試薬管理を含めた品質管理手法を確立する必要がある。

公開日・更新日

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