Genetic Immunizationを用いたハンセン病ワクチン開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700102A
報告書区分
総括
研究課題名
Genetic Immunizationを用いたハンセン病ワクチン開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中永 和枝(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 横田俊平(横浜市立大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ハンセン病は、多剤併用化学療法の普及により世界の患者数が減ってきたとはいえ、毎年約50万人以上の新患発生が続いており、その制圧が課題となっている。化学療法による治療は可能とされているが、難治性の症例や薬剤耐性菌の問題もあり、なかでも末梢神経障害発症機序は基礎的な解明もあまり進んでいない。これらを解決するためには感染防御ワクチンや神経炎予防ワクチン等の開発が必要と考えられるが、らい菌は、現在なお人工培地での培養ができないため、免疫に必要な蛋白抗原は、遺伝子組み換え技術による以外は考えにくい。一方Genetic Immunization(GI)は、遺伝子治療の原理を応用した新技術で、宿主細胞内に目的蛋白遺伝子を発現させることにより宿主を免疫するものである。本研究の目的は、新技術GIによるらい菌抗原の免疫方法を確立し、さらに有効な感染防御抗原を同定することである。そのために、まずマウスとらい菌65kD熱ショック蛋白の組み合わせをモデル実験として免疫反応の詳細を経時的に調べ、感染防御との関連を解析する。GIを用いた免疫方法は、感染性の心配が無くIgE誘導が少ないという利点から、すでに新世代ワクチンの候補として期待されており、ハンセン病にとどまらず各種の感染防御や発症予防に関与する多くの病原体蛋白抗原についても応用可能と考えられる。
研究方法
1.GI用らい菌hsp65発現ベクターの構築とマウスへの投与:これまでに構築したpMAMneo65k-Bに加え以下3種のベクターを構築した。a. pBK-MV65k-B(プロモーター:サイトメガロウイルス、免疫刺激配列は含まない)  b. pBS-MAM65k-B (プロモーター:レトロウイルス、免疫刺激配列を含む) c.pBK-CMVampr65k-B(プロモーター:サイトメガロウイルス、免疫刺激配列を含む)。  各々のプラスミドベクターは、エンドトキシンをできる限り除いて精製した。DNAはそれぞれPBSにより希釈し6週齢あるいは1年齢雌BALB/cあるいはDBA/2マウスにそのまま尾根皮内投与(i.d.)あるいはPBSに溶解した25%ショ糖溶液を筋注15-30分後、同一部位に筋注投与(Si.m.)し経時的に尾静脈採血を行った。また、200mgの各ベクターDNAをi.d.し2週間後に血液・脾・肝・リンパ節・DNA投与部位皮膚を採取し遺伝子発現を調べた。
2.培養細胞でのtransient expression:BALB/c由来線維芽細胞に、DEAEデキストラン又は、transfectumを用いて遺伝子を導入し、24・48時間後にmRNA・蛋白レベルの発現を調べた。
3. ELISAによる抗らい菌hsp65抗体検出:組み換えhsp65抗原(rhsp65)は、これまでに構築したpQE30hsp65(形質転換した大腸菌において、N末端に6個のヒスチジン残基を有するrhsp65を発現)を用いて大腸菌で過剰発現させ、 Ni-NTEレジンカラムで精製して用いた。マイクロプレートの各ウエルを0.4mg/mlに希釈した50ml のrhsp65にてコートし室温1晩ブロッキング後、段階希釈血清と1晩反応させ洗浄し、二次抗体として、アルカリホスファターゼ標識抗マウスIgGを反応させ、基質にはBICPを含むBluePhos(KPL)を使用し650nmにおける吸光度を測定した。
結果と考察
1. 4種いずれのベクターを用いても、培養細胞、マウスのDNA投与部位皮膚でらい菌hsp65 mRNAの発現が確認されたが、pMAMneo65k-Bを頻回投与したマウス群では、投与後1年を経過しても血清中で抗らい菌hsp65抗体は検出されなかったことから遺伝子の発現と液性免疫の成立は必ずしも一致しないものと思われた。
2. 発現ベクターpBKーCMV65k-Bを100mg/週、3回i.d.したDBA/2マウス群では、 100mg/週、3回投与2週後に抗体は検出レベルに達し、初回投与後1年では1:8000の抗体価が認められた。100mgをi.d.追加投与したところ5週後に抗体価は1:64000に達しブースター効果も見られた。この事実から、発現ベクターを大量に頻回投与することにより、マウスに特異免疫誘導が可能なことが示された。
3. a.-c.のベクター各30mg1回を1年齢DBA/2マウスにi.d.あるいはSi.m.しベクターのプロモーター、免疫刺激配列の有効性と2種の投与方法を比較したところ、 マウスが高齢のため全体に低い抗体価しか得られなかったが、ベクターpBKーCMV65k-Bと接種方法Si.m.の組み合わせで最も高い抗体価が得られた。免疫刺激配列としてアンピシリン耐性遺伝子を含むpBKーCMVampr65k-B では、特に抗体価が低かった。これまでに免疫刺激配列の有効性を報告した実験では、皮内へ大量のベクターを頻回投与しており、30mg1回のみの投与ではその影響がほとんど現れないのかも知れない。少なくとも投与量と投与の方法は、GIを行うにあたって極めて重要と考えられた。
4. GIに有効なベクターをスクリーニングする方法として培養細胞でのtransientな発現、マウスへ投与2週後のマウス組織での発現をRT-PCR法を用いて調べたが、用いたベクターで差は認められず、少なくとも投与後短期間の遺伝子発現は指標にならないと思われた。初期に有効な免疫が惹起された場合、長期にわたり抗体が検出されることから、遺伝子の発現も長期にわたることが予想され、従って異なるベクターによる遺伝子発現の差異もベクターDNAを投与した数ヶ月後を比較検討すべきと思われた。
5. GIは、細胞性免疫を効率的に誘導するとの報告があり、今後はrhsp65に対する免疫反応を比較対照としてGIによる細胞性免疫の誘導を詳細に調べていきたい。特にプロモーター、投与方法の違いによる免疫反応の質的差異を明らかにしていくことが重要と思われる。
結論
1. pBK-CMV65k-Bのi.d.により、マウス血清中で抗らい菌hsp65抗体が検出され、特異免疫の成立が明らかとなった。
2. ベクターDNAの投与方法としてSi.m.は、i.d. よりも有効であり、少量で特異免疫が誘導された。
3.少量のベクターDNA投与では、免疫刺激配列の存在は無効であった。

公開日・更新日

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