農産物の食中毒菌による汚染機序等に関する研究

文献情報

文献番号
199700101A
報告書区分
総括
研究課題名
農産物の食中毒菌による汚染機序等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小沼 博隆(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成9年3月に関東南部及び東海地域において勃発した同一のDNAパタ-ンを有する貝割れ大根が疑われた腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例の原因食品を特定する。
研究方法
当該貝割れ大根生産施設の腸管出血性大腸菌O157汚染調査は、当該貝割れ大根の生産施設が所在する神奈川県の管轄保健所、衛生研究所及び農政部において既に貝割れ大根、貝割れ大根種子、井戸水、肥料、ウレタン等について実施されたが全て陰性であった。しかし、米国およびフィンランドにおいてアルファルファ-種子の汚染を原因として発生したサルモネラ食中毒と当該食中毒の発生態様等が類似していることから、原因施設で使用されていたと思われる貝割れ大根種子350kg(1袋25kgを14袋)を購入し、当該種子の腸管出血性大腸菌O157汚染調査を実施した。
結果と考察
(1)当該種子は、平成7年オレゴン州において生産され、輸出業者を経由して日本に輸出されたもので、検査時点では生産後2年間以上を経過したものである。(2)貝割れ大根種子の水分活性値は、未処理(種子そのままの状態)のもで0.62、粉砕処理後のもので0.56であり、細菌が増殖できる環境(通常0.86以上)ではないことが確認された。(3)14袋、350kgの貝割れ大根種子のうち、112kgについて腸管出血性大腸菌O157検査を実施したが、当該菌を検出・分離培養することはできなかった。(4)当該貝割れ大根から、大腸菌(14袋全てから検出)ならびにサルモネラ(14袋中9袋から検出)が検出された。(5)(3)の検査の過程において、一部の培養液についてベロ毒素(VT)遺伝子DNAの検索を行ったところ、70検体中14検体(20%)から当該遺伝子が検出された。(6)(5)の培養液16検体について、検出感度及び特異性が高いPCR-サザン法を用いて、O157抗原遺伝子DNA及びVT遺伝子DNAの検査を行ったところ、O157抗原遺伝子DNA(4検体)、VT1遺伝子DNA(4検体)及びVT2遺伝子DNA(8検体)が検出された。(7)(6)の試験でO157抗原遺伝子DNAまたはVT遺伝子DNAが検出された4検体について、これらに含まれる腸管出血性大腸菌O157の増殖性を確認するため、当該培養液(4検体)をPCR-サザン法で陰性となるまで希釈し、その後に培養を行ったところ、1検体からO157抗原遺伝子DNA及びVT1遺伝子DNAが検出され、その増殖性が確認された。    以上の検査成績から、当該貝割れ大根種子が大腸菌、サルモネラによって広範に汚染され、しかも腸管出血性大腸菌O157により汚染されていたことが確認された。また、腸管出血性大腸菌O157が培養によって分離できなかったのは現状の培養法では当該菌以外の増殖速度の速い菌が優勢となることが考えられた。当該貝割れ大根種子の水分活性値(0.56~0.62)は低く細菌の増殖は不可能にも係わらず生産後2年間以上経過した種子から、大腸菌及びサルモネラが検出・分離培養されたことは、それら病原菌が乾燥種子中においても長期間増殖可能な状態で存在していたことを意味する。したがって、サルモネラや腸管出血性大腸菌O157は、乾燥種子中では増殖することはないが、適切な環境におかれた場合には増殖する危険性があることに留意すべきである。また、種子中のサルモネラや腸管出血性大腸菌O157の汚染頻度は極めて低く菌量も少ないため、通常検査で種子からこれら病原菌が分離培養されない場合であってもサルモネラや腸管出血性大腸菌O157が付着している可能性が高いと考えられる。
結論
以上の結果から、以下のような結論を得た。(1)当該貝割れ大根種子が大腸菌、サルモネラによって広範に汚染され、しかも腸管出血性大腸菌O157により汚染されていたことが確認された。(2)当該貝割れ大根種子の水分活性値(0.56~0.62)は低く細菌の増殖は不可能にも係わらず生産後2年間以上経過した種子
から、大腸菌及びサルモネラが検出・分離培養されたことは、それら病原菌が乾燥種子中においても長期間増殖可能な状態で存在していたことを意味する。(3)サルモネラや腸管出血性大腸菌O157は、乾燥種子中では増殖することはないが、適切な環境におかれた場合には増殖する危険性があることに留意すべきである。(4)種子中のサルモネラや腸管出血性大腸菌O157の汚染頻度は極めて低く菌量も少ないため、通常検査で種子からこれら病原菌が分離培養されない場合であってもサルモネラや腸管出血性大腸菌O157が付着している可能性が高いと考えられる。                 

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