ICD-10による死因分析手法に関する研究

文献情報

文献番号
199700100A
報告書区分
総括
研究課題名
ICD-10による死因分析手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田中 明夫(社団法人日本医業経営コンサルタント協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究において1995年より世界に先駆けてICD(国際疾病分類)-10を死因統計に適用し、同時に死亡診断書の改訂を行ったため、死因統計は大きな変動がみられた。この変動の要因は、死亡診断書改訂による心不全の記載の減少、また死亡診断書に記載された複数の死因から一つの原死因を選択するための選択ルールの変更によって悪性新生物(がん)や脳血管障害などが原死因として選択されやすくなった事が既に国際会議や専門誌で報告されている。しかし概略的な分析では分類体系の違いから生じる影響も重なり、実際に何が要因となって変動が生じたかを知るには不十分である。そこで本研究の目的はICD-9及びICD-10において基本分類を用いた対比表を作成し、その変化を比較検討することによりICD-10の導入に伴って生じた変化の原因を明らかにする。
研究方法
対象は2か月分のデータを用い、死因をICD-9及びICD-10を用いてそれぞれ分類した(ブリッジコーデイング)。今回はICD-10の導入に伴い比較的影響の大きかった脳血管疾患、心疾患、新生物、呼吸器系、糖尿病についてのみ比較検討を行った。ブリッジコーデイングによる分析であるので、死亡診断書記入時における影響は除外され、ICD-10において変更のあった選択ルール、転移部位リストの適用の影響の詳細を基本分類で比較・検討した。これはICD-10とICD-9の両方で分類した項目をクロス表にし、上記疾患について影響を及ぼした項目の寄与の大きさを明らかにするため、ICD-10で分類した項目内のICD-9の項目別割合を百分率にて表示した。
結果と考察
脳血管疾患はICD-10でコードされた場合は22,934件、ICD-9の場合は20,299件であり、2,635件(13.0%)増加していた。ICD-10の項目の内、その項目内にICD-9の項目の脳血管疾患が対応する疾患群以外の項目が2,844件、12.4%(ICD9の項目/ICD10の脳血管疾患×100%)が含まれていた。脳血管疾患の平成7年の死亡数は146,552件、平成6年は120,239件と26,313件(21.9%)増加している。選択ルールの明確化、つまり肺炎および気管支肺炎に関して、ICD-10においては「たぶんあらゆる疾患の合併症として受け入れられる可能性がある。特に気管支肺炎は、特定の疾患や重症の損傷と同様に、消耗性疾患(たとえば、悪性新生物、栄養失調(症))や麻痺を生じさせる疾患(たとえば、脳損傷、脊髄損傷、脳血栓症、ポリオ)の影響によるものと考えられる。」とされている。このことによって原死因が脳血管疾患として選択されやすくなった影響であると推測されていた。本研究により21.9%増加分の内、約1/2程度は選択ルールの変更によるものであることが明確になった。残りの約1/2程度は不明である。また、平成7年はインフルエンザの流行があり、その影響も考えられる。
心疾患はICD-10でコードした場合は26,946件、ICD-9の場合は27,291件へと345件(1.3%)減少していた。ICD-10の項目の内、その項目内にICD-9の項目の心疾患が対応する疾患群以外の項目が244件、0.9%(ICD9の項目/ICD10の心疾患×100%)が含まれていた。特に心不全が、平成6年は79,802件、平成7年は36,179件と43,623件、54%もの減少が認められた。心疾患全体としては平成6年は159,579件、平成7年は139,206件と20,373件、12.8%減少した。内訳で見ると心不全以外の項目は軒並み増加しており、減少の原因は心不全の減少である。これは死亡診断書の注意書きに「疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください」が加えられたことの影響であると推測されていた。今回の研究はブリッジコーデイングによるため、死亡診断書記入に伴う影響は除かれる。本研究では心疾患全体では1.3%の減少とほとんど影響なく、心疾患以外からの移動もほとんどない。そのことを踏まえると大きく心疾患が減少したのは死亡診断書に注意書きが加えられ、かつそのことが周知された結果であると結論づけられる。
新生物はICD-10でコードされた場合は42,951件、ICD-9の場合は41,770件へと1,181件、2.8%増加していた。ICD-10の項目の内、その項目内にICD-9の項目の新生物が対応する疾患群以外の項目が1,262件、2.9%(ICD9の項目/ICD10の新生物×100%)が含まれていた。悪性新生物は平成6年243,670件、平成7年263,022件と19,352件(7.4%)増加した。選択ルールの明確化により、原死因として新生物が選択されやすくなり、特に肺炎、気管支肺炎の影響が1.6%程度存在することが、明らかになった。しかしながら、その他のはっきりした項目を含めても2.9%がわかっているのみであり、残りの約4.5%程度の影響の原因は確定できない。肝癌については、悪性新生物とウイルス性肝炎などの組み合わせでは、悪性新生物を原死因とすること、さらにI欄に肝硬変、II欄に肝癌が記載されている例では原死因は肝硬変から肝癌に変更されたことにより、若干増加の影響があった。肝硬変のうちアルコール性の記載のないものとウイルス性肝炎の影響は、肝癌の中では4,659件中292件6.3%を占めており、影響が大きかった。肺癌については、転移部位リストの影響でもあまり変わっていないことが以前報告されている。「肺は転移部位となると同時に、原発性悪性新生物の発生部位にもなるという特殊な問題がある。肺が一般的転移部位リストにない部位と共に記載された場合には、肺を一般的転移部位と考えるべきである。」とICD-10になって明記されたため、当初は大幅な減少が予想されていた。今回の検討では大きな移動は認められず、死亡診断書記入時おいて形態学的な記入が明確になされていたと考えられ、転移部位リストの適用による影響はほとんどなかったと結論づけられた。
呼吸器系疾患はICD-10でコードされた場合は18,198件、ICD-9の場合は20,085件と1,887件、9.4%減少していた。ICD-10の項目の内、その項目内にICD-9の項目の呼吸器疾患が対応する疾患群以外の項目が1,741件、9.6%(ICD9の項目/ICD10の呼吸器系疾患×100%)が含まれていた。肺炎は平成6年83,354件、平成7年79,629件と3,725件で、4.5%減少した。今回の検討ではICD-9でコードした場合14,129件、ICD-10の場合10,995件と3,134件減少していた。このうちICD-10では2,319件が脳血管疾患に、522件が新生物にコードされていた。つまりICD-10の選択ルールの適用により、3,134件中2,841件90.7%がこの2疾患に移動したことになる。
糖尿病はICD-10でコードされた方がICD-9のものよりも多かったが、実数では1,891件から1,898件でほとんど変化なかった。ICD-10の項目の内、その項目内にICD-9の項目の糖尿病が対応する疾患群以外の項目が111件、5.9%(ICD9の項目/ICD10の糖尿病×100%)が含まれていた。糖尿病による死亡数は平成6年は10,868件、平成7年は14,215人と3,347件(30.8%増)増加している。今回の研究の検討は選択ルールの適用における影響をみたものであり、これだけの量の増加は説明し得ない。アメリカでは「死亡の原因」欄が3欄から4欄に増設した際に、糖尿病による死亡が約15%増加したことが知られている。この事と考えあわせると、糖尿病は合併が多い疾患であり死亡診断書の「死亡の原因」欄の増設により記入しやすくなった影響が大きいと結論づけられる。
結論
ICD-10の導入に伴う死因統計の変動の原因分析をするために、ブリッジコーデイングの手法を用い、基本分類で影響の大きかった5疾患群について比較検討を行った。脳血管疾患の増加、悪性新生物の増加、肝癌の増加、肺炎の減少については、原死因選択ルールの変更による影響によるものが原因であり、心疾患の減少は死亡診断書が改訂されたことの影響によるものが原因であることが明らかになり、個々の要因の影響の程度が評価できた。

公開日・更新日

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