フリーラジカル生成の多価不飽和脂肪酸及び食用着色料並びにラジカル捕捉の酸化防止剤の安全性に関する研究

文献情報

文献番号
199700099A
報告書区分
総括
研究課題名
フリーラジカル生成の多価不飽和脂肪酸及び食用着色料並びにラジカル捕捉の酸化防止剤の安全性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
辻 澄子(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
研究分担者(所属機関)
  • 石光進(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 藤本貞毅(京都薬科大学)
  • 酒井綾子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 手島玲子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)多価不飽和脂肪酸(PUFA)はその生理機能が解明されるにつれて、PUFAを含む食品が増加している。PUFAの酸化物の毒性は非常に強いことが知られているが、現在の栄養指導は、過酸化脂質への注意だけで定量性に欠けており、PUFAの酸化物の毒性を軽減するとされているビタミンEの栄養所要量も未だ定められていない。そこで、食品中の過酸化脂質量を定量的に把握し、過酸化脂質を生じやすい生体系(病体)でのPUFAの安全性を把握する必要がある。今年度は飽和脂肪族アルデヒドの簡易測定法の開発並びに自動酸化したPUFA中のアルデヒドの生成挙動並びに食用油中のアルデヒド生成挙動及びビタミンE同族体の衰退挙動について検討した。2)着色料には光照射により一重項酸素やスーパーオキシドラジカル(O2-)が生成することは多く報告されているが、フリーラジカルの中で最も反応性の高いヒドロキシルラジカル(・OH)の生成に関する報告並びに生体防御や炎症に関与している白血球機能への影響についての報告は見あたらない。今年度は合成着色料の光照射により・OHの生成着色料の探索とその生成メカニズムに関しての検討及び活性化されたモルモット多形核白血球のO2-生成能に与える影響並びに生体成分へ影響を検討した。3)工業製品、食品及び医薬品に広く使用されているフェノール系酸化防止剤(ハイドロキノンを含む)は、実験動物での安全性に関するデータは多く蓄積されているが、それらの作用のメカニズムを明らかにするための細胞及び分子レベルでの研究が不足している。作用メカニズムの解明は安全な酸化防止剤の選択や開発に役立てることができる。今年度は3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(BHA)のマウス胎児BALB/3T3細胞2段階形質転換のプロモーション(促進)作用及び3種のハイドロキノン系酸化防止剤の[Ca2+]i上昇活性、脱顆粒反応への影響について検討した。
研究方法
1)PUFA中の脂肪族アルデヒドをジメドンで蛍光誘導体化-高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により分析する簡易分析法を開発した。食用油中のPUFAの種類はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。ビタミンE同族体は逆相HPLCを用いて測定した。また、食用油及びPUFAの自動酸化は共栓試験管を密封して、40℃で行った。2)光照射は側面がガラス製の恒温水槽を用い、300Wまたは500Wの白熱灯で、試料より、15cmまたは30cmの距離で照射した。・OHの検出はフェニルアラニンの水酸化反応で生成したo-, m-及びp-チロシンをHPLCを用いて測定した。多形核白血球はモルモットの腹腔にカゼインを注入し、誘導されてくる多形核白血球を集めて用いた。着色料と多形核白血球との反応は両混液を37℃でインキュベート後、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセタート(TPA)で多形核白血球を活性化して、チトクロームCの還元法を用いてO2-の生成能を測定した。タンパク質との影響は電気泳動法により解析した。3)形質転換試験は凍結細胞をsub-confluentに達するまで増殖させ、トリプシン処理をして播種した。24時間後から培地に3-メチルコラントレン(MCA)を加えて72時間イニシエーション処理を行った。新鮮培地で3日間培養後、BHAを加えた培地で2週間プロモーション処理を行い、3週間培養後、生じたフォーカスを計数した。飽和細胞密度に対する影響は定常期に入った細胞を2週間被験物質を加えた培地で培養し、定期的に培地交換を行い、2週間目に通常培地に変えて培養を続け、生細胞数を求めた。DNA合成誘導作用は[3H]チミヂン法
を用いて測定した。[Ca2+]iの測定は蛍光法により測定した。脱顆粒の測定は、細胞から遊離されるβ-hexosaminidase酵素活性あるいはヒスタミン量を、前者は基質を用いて、後者は、ポストカラム法HPLCにてO-フタルアルデヒドで蛍光誘導体化後測定した。
結果と考察
ジメドン蛍光誘導体化を利用したHPLC法による脂肪族アルデヒドの簡易分析法を開発した。毒性の強い脂肪族アルデヒドは煮沸水浴上で簡単に誘導体に変化し、C18ミニカラムにより容易にクリーンアップ出来た。試薬中の不純物であるアルデヒド類の量は空試験を行うことにより除去できた。自動酸化したPUFAの種類は脂肪族アルデヒド類の種類及び生成量に影響した。自動酸化した食用油中のビタミンE同族体、特にα-トコフェロールの量が減少し始めるとアルデヒドが検出された。2)光照射することにより、・OHの生成する食用着色料について、フェニルアラニンの水酸化反応を利用した o-,m-及びp-チロシンのHPLCにより探索した。その結果、タール色素である食用青色2号(インジゴカルミン:B2)と同様に、溶存酸素下光照射によるリン酸リボフラビンナトリウムから・OHの生成を見出し、そのメカニズムを明らかにした。ま た、食用赤色105号(ローズベンガル:R-105)及び食用赤色3号(エリスロシン:R-3)は、モルモット多形核白血球のO2-生成能を低下させる作用のあることが認められた。さらに、光照射時、R-105、R-3及び食用赤色104号(フロキシン:R-104) に、顕著なタンパク質の分解を引き起こす作用のあることが認められた。3)ラジカル捕捉剤として用いられるフェノール系酸化防止剤の一種であるBHAは、マウス胎児BALB/3T3細胞の形質転換を促進することが見出され、その強さは濃度に依存した。また、2,5-di-t-ブチルハイドロキノン(DTBHQ)及び 2,5-di-t-アミル-ハイドロキノン(DTAHQ)はラット好塩基球RBL-2H3細胞で、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の上昇及び脱顆粒促進活性が認められ、アレルギー促進活性につながる可能性が考えられた。それらは立体構造に依存していることが示唆された。
結論
ジメドンの蛍光誘導体化-HPLC法による脂肪族アルデヒドの簡易分析法を開発した。その分析法を用いて、自動酸化したPUFA中の脂肪族アルデヒドの生成を測定したところ、PUFAの種類によりアルデヒドの種類及び生成量が異なっていた。また、自動酸化した食用油はビタミンE同族体が減少するにつれて生成し、脂肪族アルデヒドが初期の自動酸化の指標となる可能性が示唆された。着色料として使用されている合成着色料について、光照射を行ったところリン酸リボフラビンナトリウムにおいて・OHの生成することを見出した。・OHは生体内における活性が高いことから、リボフラビン及びその誘導体に関しては、安全性の面から光遮断すべきであるとの結論を得た。また、タール色素12種のうち R-105とR-3が、多形核白血球のO2-生成能に対して顕著な抑制作用を示し、R-105 や R-3 および R-104 の色素は、光増感反応によりタンパク質の分解を引き起こす作用が顕著であった。これらの反応濃度は着色濃度から比較して高濃度であるが、安全性の面からは考慮する必要がある。BHAは、BALB/3T3細胞2段階形質転換試験においてMCA誘発形質転換を促進した。しかし、TPAと異なり飽和細胞密度を増加させず、TPAタイプの発癌プロモーターには認められるDNA合成誘導作用は、認められなかった。今後、情報伝達系との関連を研究する必要がある。一方、DTBHQ及びDTAHQは、[Ca2+]i上昇並びに脱顆粒促進活性があることを見出した。即ち、即時型アレルギー促進活性を持つ可能性が考えられ、今後更なる解析が必要である。          

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