母乳中のダイオキシン類に関する研究

文献情報

文献番号
199700097A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳中のダイオキシン類に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 森田昌敏(国立環境研究所)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 田中倬(埼玉県衛生部)
  • 吉田健治(東京都医療福祉部)
  • 林正男(石川県厚生部)
  • 高山佳洋(大阪府環境保健部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母乳からのダイオキシン類の摂取が、乳児に与える影響を検討することの必要性は、厚生省「母乳中のダイオキシンに係わる検討会」報告においても指摘されている。今回の研究は、母乳中のダイオキシン類の測定を経時的に行い、母乳を通じて児に移行するダイオキシン類の量を検討するとともに、母乳中のダイオキシン類濃度に影響を与える要因を解明することを目的とした。
研究方法
1)都府県調査
埼玉県、東京都、石川県、大阪府の4都府県にて母乳の採取とアンケ-トへの回答に協力を求め、採取した母乳中のダイオキシン類を実施した。
対象は各都府県の中の2カ所とし、a)廃棄物処理場付近および大都市、b)a以外の地域を選び、さらに年齢を25から29歳、30~34歳の2群の第1子出産予定の健康に異常の認められない産婦各5名とし、その地域に10年以上居住しており本研究に協力の得られる者とした。しかし、居住歴は10年以上地域内に居住する妊婦が少ないので、地域の実情により短いものを含めることも認めたが、これまでに住んでいた居住地を詳細に尋ねた。このほか喫煙歴、食事習慣などを尋ねる質問紙の記入と、母親及び児の健康状態を調査した。
母乳の採取は出産後おおむね5目、30日目、150日目、300日目に採取した。
母乳中のダイオキシン類濃度の測定結果はPCDD類とPCDF類のTEQを合計し、調査結果との関連を分析した。
2)保存母乳調査
大阪府公衆衛生研究所に保存してあった凍結保存母乳のうち1973~1996年(1987年を除く)に採取された、母親の年齢が25~29歳であった初産婦の出産後3ヶ月未満の母乳脂肪中のダイオキシン類濃度を測定した。測定は凍結保存母乳脂肪から等量ずつ混合した均一混合物を各年1検体として測定した。使用した凍結保存母乳数は各年19~39検体(平均28.2検体)で、測定に使用した検体数は合計649であった。
結果と考察
母親の生活歴や食事習慣、母児の健康状態を調査するための調査用紙を作成し、標準的に乳児が摂取する母乳量を測定するなどの基礎的な研究を行うとともに、母乳中に含まれるダイオキシン類について、広範囲かつ時系列的に調査し、母乳による新生児・乳児への影響について検討した。また、保存母乳を使用して、母乳中のダイオキシン類濃度の経年的変化を測定した。
4都府県を選んで測定した母乳中のダイオキシン類濃度は、産後5~6日の母乳で脂肪1gあたり17.4pg、産後30日で15.2pgであった。
居住地から廃棄物処理施設までの距離と母乳中のダイオキシン類濃度との間には相関関係は認められなかった。
産後の経過日数では、生後5~6日の母乳に比べ生後30日の母乳ではダイオキシン類の濃度の有意な減少が認められた。保存母乳中のダイオキシン類濃度は、1973年の25.6pgから1996年には16.3pgと減少傾向を認めた。ダイオキシン類の中ではPCDDsよりPCDFsの減少傾向が著しく、Co-PCBsの減少がさらに著しかった。
4都府県を対象地域に選んで、大都市又は廃棄物処理場付近とその他の地域の初産婦の母乳中のダイオキシン類濃度を測定したが、今回の測定の結果では、各地域毎のダイオキシン類濃度には差が認められず、廃棄物処理施設から居住地までの距離との間にも相関は認められなかった。研究計画では、対象地域に居住歴10年以上を有する妊婦としたが、最近の少子化傾向のため、この条件を満たす例が少なかった。このため過去の居住歴を聴取することして、この条件を充たさない例からも検体を採取した。このため、廃棄物処理場との関連についての結論は、過去の居住地から廃棄物処理場までの距離や風向きなどのを加味した検討が必要であるが、現在までの検査結果からは、有意な関連は認められず、母乳中のダイオキシン類濃度は他の要因に依存する可能性が高いと考えられた。
また、産後日数の経過で、母乳中のダイオキシン類は有意に低下することが明らかになり、今後母乳中のダイオキシン濃度を比較して検討する場合には、母乳採取の時期を決めて採乳することが必要であると考えられた。
保存母乳の測定結果では、1973年以降母乳中のダイオキシン類濃度は減少傾向にあることが明らかになった。ダイオキシン類の内訳を見ると、減少の程度はCo-PCBs、PCDFs、PCDDsの順に大きくなっていた。また、各々の分画をみても、体内からの排出速度が反映されている傾向があり、今後さらに検討することが必要な結果であった。
以上の結果は、母乳中のダイオキシン類濃度は、地域差よりは母親の食事習慣や、産後の哺乳期間など他の要因の影響が強いことを示唆しており、今後各地で汚染度のモニタ-を実施する際に活用すべき重要な所見であった。また、過去の母乳に比べて、現在の母乳の汚染状態が減少していることを示した本研究の成果は、わが国のダイオキシン類による汚染状況の解明や、母乳からのダイオキシン類の蓄積を検討する上での重要な所見であり、今後ダイオキシン類が乳児にどの様な影響を与えているかについての調査・検討に際しても考慮すべきであると考えられた。
結論
母乳中のダイオキシン類の測定を行い、全ての母乳からダイオキシン類が検出されたが、生後5~6日の測定結果は平均17.4pg/1gFatであり、従来の報告に比しやや低値であった。
測定した4都府県には、地域によるダイオキシン類濃度の差は認められず、廃棄物処理施設からの距離との間にも相関は認められなかった。
産後5~6日に採取した母乳に比し、産後30日に採取した母乳中のダイオキシン類濃度は有意に低下していた。また、保存母乳中のダイオキシン類濃度は、1973年以降低下していた。
以上より、母乳中にはダイオキシン類が認められるが、従来の報告や保存母乳による年代的変化から、現在の母乳中のダイオキシン類濃度は上昇しつつあるとの所見は認められなかった。

公開日・更新日

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