推移からみた保健事業の効果に関する研究

文献情報

文献番号
199700096A
報告書区分
総括
研究課題名
推移からみた保健事業の効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
多田羅 浩三(大阪大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 辻一郎(東北大学医学部)
  • 平田輝昭(福岡県久留米保健所)
  • 佐甲隆(三重県上野保健所)
  • 寺尾敦史(高知県中央東保健所)
  • 野田晴彦(川崎市川崎保健所)
  • 新庄文明(大阪大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人保健法施行から15年が経過したことをふまえ、制度の発足以降、高い健診受診率を保持してきた自治体の実績について分析を行い、健康診査の受診率向上を一つの目標として進められてきた保健事業の効果を明らかにすることを目的とした。
研究方法
人口3万人以上20万人未満の市のうち、1983、1986、1989、1992年度の基本(一般)健康診査受診率が50%以上を達成している12市の全てを訪問し、保健事業の背景と基盤、実施状況、成果について現地調査を行った。対象は岩手県北上市、山形県酒田市および村山市、秋田県横手市、福島県相馬市および須賀川市、群馬県沼田市、千葉県八日市場市、富山県小矢部市、静岡県藤枝市、福岡県小郡市、沖縄県平良市で、これら12市について、保健事業開始時から現在に至る疾病分類別死亡率・平均寿命、主要疾病の年齢標準化死亡比、ねたきり老人出現率、国民健康保険医療実績などの健康指標の推移を近隣市・県平均と比較し、医療費あるいは健診受診率と関連する要因について分析した。
結果と考察
1)医療費の推移
健康診査の受診率と医療費の諸指標とは強い相関が示された。一方、医療費は人口あたりの医師数と病床数、保健婦数とも強い相関を示した。とくに人口あたり医師数は同一の県下でも市では3~10倍、医療圏でも2~6倍という格差があり、病床数は0の市もあった。そこで、それぞれの市が属する医療圏単位の人口10万人あたりの病床数あるいは医師数で補正して、医療費の推移を県の市部の間で比較したところ、老人医療費については相馬市や八日市場市および平良市においてはほぼ県下の最下位を推移するほか、対象とする市はそれぞれの県市部の平均以下あるいは下位に位置する結果が示された。
2)死亡の状況
平均寿命は、1985年には藤枝市の男女および横手市の男性がそれぞれの県下で最高の値を示したが、平良市、酒田市の男性、相馬市および須賀川市の女性でそれぞれの県下市部の最低値を示した。1990にも男性では最高の値を横手市が示す一方で、女性では平良市が県下市部の最低値となった。この5年間の平均寿命の延びは、小矢部市が女性について県下市部で最も高く、村山市の女性では県下市部で最も低い値となっている。
標準化死亡比(SMR)について、1991年の心疾患SMRでは平良市、八日市場市が県下市部では最低値となっており、横手市、小矢部市藤枝市、小郡市においても県下では比較的に下位の値をとっていた。一方で、須賀川市、沼田市のように、同一県下の市部でも最高の値を示したところもあった。脳卒中SMR(1991)については、沼田市が県下の市部では最低となった一方で、相馬市が県下市部最高となった。
このように平均寿命および標準化死亡比(SMR)の分析において、健診受診率の高い市に共通の傾向は確認できなかった。今後は、疾患別の死亡年齢をも詳細に検討する必要がある。また、老年人口比率が高ければ人口構成を標準化しても高齢者に多い死因のSMRは大きくなるので、それを補正することも検討することが重要である。
3)対象市における保健事業の実情
岩手県北上市は花巻市および隣接3町の広域行政事務組合に健診業務をすべて委託して実施しており、事後指導に保健婦の力を集中させている。隣接2町と平成3年に合併して人員移管をして,人口あたり保健婦数も県下市部の最高である。年齢区分別の脳卒中発生数は昭和58年以降、減少傾向にある。脳血管死亡率の減少もみられ、平成4年以降の厚生省基準による寝たきり老人数および要介護高齢者の割合は一貫して減少してきている。老人一人あたり入院日数、医療費ともに県下市部では低いほうである。
秋田県横手市の周辺の町村部では基本健診の受診率がさらに良好であるが、横手市における子宮がん検診の精検受診率はほぼ100%となるなど、秋田県下でもモデル地区として取り組まれている。老人一人あたり医療費は県平均および県下市部平均よりも低い。
山形県酒田市では健診未受診者に個別のハガキで案内を送付するほか、日帰り人間ドックも実施しており、脳血管疾患の標準化死亡比は男女とも県平均よりも低い。村山市では結核健診と基本健診の同時開催が高受診率の背景となっており、県平均より脳血管疾患および心疾患の標準化死亡比は低い。
福島県相馬市では健診の申込書を全戸配布して完全回収により希望を募っており、老人一人あたり医療費は県下の最下位を推移してきている。須賀川市では地区委員活動を基盤にした集落ごとの健診を実施しており,老人医療費は県下市部では平均的であるが、循環器疾患の死亡はあらゆる年齢区分で減少傾向がみられる。
群馬県沼田市は県最北部の周辺12町村の中心地で医療機関が集中しており、健診は市の中心部では医療機関委託で実施する一方、周辺部では集落ごとのきめ細かい集団健診を実施している。年齢別死亡率は85歳以上の高齢者が、疾病別では胃がん以外の悪性新生物死亡が増加傾向である。1991年の脳卒中SMRは県下最低となっている。
千葉県八日市場市は小規模の農村型の特性を持つ地域で、健診の実施は市民病院、農協、商工会の協力を得て、市内10地区で、年間約20回にわたって実施している。入院日数が少なく医療費も低く、老人一人あたり入院費用は県下の最下位を推移している。死亡状況では、85歳以上の高齢者で増加している。
富山県小矢部市は脳卒中の多発地区であったことから対策が開始され、脳卒中死亡も減少して、県下の高いレベルから中くらいへ移ってきているのが現状である。とくに、高齢者の脳卒中発生が健診受診者では有意に低率になっている。一方、健診には受診者の固定化が生じてきており、受診者と未受診者の差を確認することが必要である。
静岡県藤枝市では保健センターと棟続きの医師会検診センターにて健診が実施され、市と医師会が積極的に健診受診を働きかけているために一貫して高い受診率を維持してきている.県下の市部では老人の一人あたり入院日数、医療費ともに低いほうである。
福岡県小郡市では新興住宅地が増え人口が増加しており,集団健診と高齢者の個別健診を併せて実施しているが、近年は受診率減少、高齢者の受診割合が増加傾向である。県の他市部と比べると、標準化死亡比は比較的に低くなっている。
沖縄県平良市は沖縄の南部、宮古島唯一の市で、県下でも医療費が低いほうである。寝たきり老人数(見舞金受給者)は平成3年までは低下してきている。
健診受診率には対象者数の算定方法が大きく影響するが、対象市の間でも算定方法は異なるので、その他の保健事業の実績等をも考慮して健康指標に保健事業レベルの指標を検討することも重要であろう。また、受診率がある程度高い市においても、受診者と非受診者の固定化、分離減少が生じているので、成果については受診者についてのみ行う方法を検討してみる必要がある。また、保健事業の評価を行うにあたって、数値で示される健康指標のほか、数値にあらわれない健康行動への影響、受診者の生活とその質の変化などを見ることも重要であるが、今回は資料が得られなかった。
結論
医療費については、二次医療圏の人口あたり病床数、医師数の補正を行った結果、対象とした市を同県の市と比較すると、相馬市や八日市場市においては老人一人あたり入院費用が県下の最下位を推移していたほか、調査対象とした12市の全てが、県下の市部では最低レベルあるいはほぼ平均以下の状態であった。平均寿命および標準化死亡比(SMR)の分析において、健診受診率の高い市に共通の傾向は確認できなかった。その他の健康指標について、いくつかの市では寝たきり老人や脳卒中発生に減少が見られた。

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