産業廃棄物の小規模焼却施設からのダイオキシンの発生実態に関する調査

文献情報

文献番号
199700095A
報告書区分
総括
研究課題名
産業廃棄物の小規模焼却施設からのダイオキシンの発生実態に関する調査
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
酒井 伸一(京都大学環境保全センター助教授)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現在の日本におけるダイオキシン類の排出実態を把握するためには、産業廃棄物焼却や小型焼却炉による焼却処理にともなうダイオキシン類発生量を含めた独自の評価を行うことが必要である。そこで、本研究では大学内の小型焼却炉による焼却にともなうダイオキシン類排出実態の調査を行い、その結果に基づき、小型焼却炉によるダイオキシン類排出実態を把握する。そして、海外のインベントリーや日本の既存のインベントリーに、産業廃棄物焼却や小型焼却炉による焼却による寄与の評価も含め、現在の日本におけるダイオキシン類排出源インベントリーを作成することを目的とする。
研究方法
1. 日本の既存のインベントリーとその設定内容の検討
1990年前後に実施された平岡らの発生源インベントリー調査よりプロセスカテゴリーの設定、各カテゴリーにおける設定内容とその試算結果をレビューする。
2. 海外におけるインベントリー調査
海外で実施されたダイオキシン類のインベントリー調査について、ドイツ、オランダ、イギリスの事例を調査し、各国のインベントリーの比較を行う。
3. 学内小型焼却炉の調査
小型焼却はその燃焼状態が不安定であること、廃ガス処理施設を持たないことが多いため、重大なダイオキシン類の発生源となっている可能性がある。しかし、これらの実態はほとんど報告されていないため、京都大学内の雑芥炉、廃有機溶媒焼却施設、医療廃棄物焼却施設の排ガス中のダイオキシン類測定を行う。また、これらの施設からのダイオキシン類排出量に関するシナリオ解析を行う。
4. 日本におけるダイオキシン類排出インベントリーの見直し
国内における産業廃棄物焼却施設の排出実態や、学内小型焼却炉の調査結果を利用し、現状における廃棄物焼却にともなうダイオキシン類発生量を推算する。また、その他の産業プロセスについては日本における報告値はあまりないが、海外の文献より多くのデータが報告されている。国内での年間取扱量を用いて再評価し、日本におけるダイオキシン類発生源インベントリーの見直しを試みる。なお、国内データに関してはできる限り最新の値を用いることとする。インベントリー分類は下記の通りとする。
1) 都市ごみ焼却炉
2) 産業廃棄物の焼却処理
3) 小型焼却炉による焼却処理
4) 金属精錬関係
5) 石炭の燃焼
6) コークス製造
7) 交通
8) 窯業関連
9) アスファルト混合
10) 防腐剤
11) 活性炭再生
12) 火葬
13) たばこ
結果と考察
 1997年の日本におけるダイオキシン類排出源インベントリーの試算結果として、全体での排出量は10,000~23,000g-TEQ/年となった。
都市ごみ焼却は、他国における排出量と比較して大きな値となっている。これは他国と比較して都市ごみの焼却処分率が高いためであると思われる。しかし、厚生省の試算によると全ての都市ごみ焼却炉がガイドラインの恒久対策レベルを満たすことで100g-TEQ/年、全ての施設が全連続炉に更新されることで20g-TEQ/年まで削減することができるとされている。
産業廃棄物焼却によるダイオキシン類排出実態は現在あまり把握されていないが、推定の結果5,500~16,000 g-TEQ/年とかなり大きな値となることがわかった。これは都市ごみ焼却と同レベル、あるいはそれ以上の排出源となっており、最も重大な排出源であるといえる。比較のために、海外の文献値から排出係数を決定した場合には22~76 g-TEQ/年となる。すなわち、産業廃棄物焼却にともなうダイオキシン類排出が大きいのは排出係数が大きいためであることがわかる。今後は産業廃棄物の焼却は日本において重大なダイオキシン発生源であることを認識し、さらに詳細な実態調査を行うとともに、大規模施設による集中的な処理、全連続炉への変換などの可能な限りの技術対策、さらにはリサイクル率向上による廃棄物焼却処理量の減少などの対策を早急に行っていく必要があろう。
小型焼却炉による焼却に由来するダイオキシン類排出量は1.0~1420 g-TEQ/年と推定された。小型焼却炉に関しては処理能力に対する稼働率や、排ガス中のダイオキシン類濃度などにばらつきがあるため、推定値には大きな幅がある。ここでは稼働率は1~10%と仮定しているが、これらの小型焼却炉の中で産業廃棄物を焼却しているものでは稼働率は高くなることが予想され、またダイオキシン類排出抑制のための設備を持たない簡単な構造のものが多いと思われるので、小型焼却炉における燃焼に由来するダイオキシン類の排出は大きくなると予想される。
廃棄物焼却以外の排出源で大きなものは金属関連施設によるものであることがわかる。通産省により電気炉による排出が示されているほか、焼結機による排出も比較的大きく算出されており、非鉄金属再生に伴う排出も海外の排出係数を用いた値であるが、比較的大きな値となった。これらの金属関連施設に関しても、欧州においては削減が進められており、今後日本においても対策が期待される。
日本におけるダイオキシン類排出源インベントリーを見直すことにより、特に産業廃棄物の焼却に伴うダイオキシン類排出が非常に大きいことが示された。現在日本においては、都市ごみ焼却など一般廃棄物焼却に対するダイオキシン類排出抑制に対しては非常に積極的な取り組みがなされてきたが、産業廃棄物焼却の実態はあまり知られていない。また、欧州諸国においては集約的な産業廃棄物処理システムによって、排ガス中濃度として日本で報告されているものよりかなり低い値が実現していることを考慮し、今後早急にダイオキシン類発生抑制のための高度技術適用や、連続炉への転換、処理の集約化などのシステム対応が求められる。
また、多数の施設が存在しながら実情はほとんど知られていなかった小型焼却炉に関しても、排ガス中には都市ごみ焼却と同レベルのダイオキシン類が存在することが明らかになり、また重大なダイオキシン排出源となる可能性が示された。しかし、小型焼却炉に関しては処理実績や、稼働率など、運転の行われている現状を正確に把握することは困難であろう。今後はこのような分散型の施設から集約型の施設へと転換が行われることが望まれる。また、リサイクル率の向上などによりできうる限り焼却による処分量を減らしたうえで、ダイオキシン類の発生の少ない適切な焼却を行うという姿勢が重要であろう。
本研究において、現在の日本におけるダイオキシン類排出源インベントリーについて試算を行ったが、産業プロセスに対する詳細な調査は日本ではまだあまり行われておらず、海外の文献値によって算出したものも多い。しかし、欧州諸国では詳細な調査によるインベントリーに基づきダイオキシン類排出抑制が実現している現状をみつめ、わが国においても独自の発生源調査を行い、インベントリーの把握、さらにダイオキシン類発生削減の戦略を考える必要があると思われる。
結論
 日本におけるダイオキシン類排出源インベントリーを見直すことにより、特に産業廃棄物の焼却に伴うダイオキシン類排出が非常に大きいことが示された。現在日本においては、都市ごみ焼却など一般廃棄物焼却に対するダイオキシン類排出抑制に対しては非常に積極的な取り組みがなされてきたが、産業廃棄物焼却の実態はあまり知られていない。また、欧州諸国においては集約的な産業廃棄物処理システムによって、排ガス中濃度として日本で報告されているものよりかなり低い値が実現していることを考慮し、今後早急にダイオキシン類発生抑制のための高度技術適用や、連続炉への転換、処理の集約化などのシステム対応が求められる。
また、多数の施設が存在しながら実情はほとんど知られていなかった小型焼却炉に関しても、排ガス中には都市ごみ焼却と同レベルのダイオキシン類が存在することが明らかになり、また重大なダイオキシン排出源となる可能性が示された。しかし、小型焼却炉に関しては処理実績や、稼働率など、運転の行われている現状を正確に把握することは困難であろう。今後はこのような分散型の施設から集約型の施設へと転換が行われることが望まれる。また、リサイクル率の向上などによりできうる限り焼却による処分量を減らしたうえで、ダイオキシン類の発生の少ない適切な焼却を行うという姿勢が重要であろう。
本研究において、現在の日本におけるダイオキシン類排出源インベントリーについて試算を行ったが、産業プロセスに対する詳細な調査は日本ではまだあまり行われておらず、海外の文献値によって算出したものも多い。しかし、欧州諸国では詳細な調査によるインベントリーに基づきダイオキシン類排出抑制が実現している現状をみつめ、わが国においても独自の発生源調査を行い、インベントリーの把握、さらにダイオキシン類発生削減の戦略を考える必要があると思われる。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)