ダイオキシン類の人体暴露に関する研究

文献情報

文献番号
199700093A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の人体暴露に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 昌(東京農業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 三木太平(東京農業大学)
  • 秦順一(慶應義塾大学)
  • 大久保利光(産業医科大学)
  • 大滝慈(広島大学原爆医学研究所)
  • 宮田秀夫(摂南大学)
  • 森田昌俊(国立環境研究所)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研)
  • 中村好一(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、その発生が有機塩素化合物の生産過程や廃棄物の処理過程等で発生すると考えられているが、その影響が人体に対し、どの程度起こり得ているのかを評価することが必要不可欠である。海外の文献的調査から厚生省ではダイオキシン類の毒性評価を平成8年6月の厚生科学研究「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究」にいて、科学的な観点から、耐用一日摂取量(TDI)を10pg/kg体重と提案した。しかし、海外の暴露影響の研究は大量暴露後の追跡調査であり、我が国のように低濃度慢性的暴露が続いた場合にどうなるかは不明である。本研究においては、人体の各種臓器の暴露状態を把握し、ダイオキシン類が人体にどの程度の影響を及ぼしているかについて基礎的研究を行う。またこれにより我が国におけるバックグラウンド値を作成し、もって人体影響データと比較するためのデータベースつくりを目的とする。      
研究方法
生体資料中の微量のダイオキシン類の測定方法の標準化を検討し、血液中のダイオキシン類の蓄積量、および人体各組織中のダイオキシン類の濃度を調べる。また、生体暴露の指標として何がもっとも良いか、ということもあわせて検討する。
血液は50ml採取し、Arnold Schecterらの方法(アセトンーヘキサン抽出)、 Pattersonらの方法(エタノールーヘキサン抽出)、Martin Nygrenらの方法(メタノールー3塩化炭素抽出)、エタノール・エーテル抽出法を比較検討する。
また、血液検体の他にフィールド調査で得られやすい検体を検討し、皮膚ふきとり法による顔面の皮脂の有用性を検討する。
組織中のダイオキシン類の分布を知るために剖検例から各種脂肪組織、血液50mlを保存、ダイオキシン測定することを検討する。組織としては項部脂肪織(brown fatに相当)、腋窩脂肪織、腸間膜脂肪織、腹部脂肪織、眼球・下垂体(開頭例のみ)、肝、脾、腎、膵、胃粘膜、腸管粘膜、乳腺、副腎、骨髄、脳である。なお、胆汁排泄状況を検討するために胆汁も保存した。できるだけ新生児から高齢者までを対象にし、数体分については経時的変化、凍結保存、ホルマリン保存、アルコール固定などの影響を検討する。
結果と考察
結果=血液中のダイオキシン類濃度の測定:血液からの脂質抽出にエタノール・ヘキサン、あるいはアセトン・ヘキサン抽出が良いことが確認された。得られる脂質0.3-0.5gを標準に内部標準物質を加え、ヘキサン抽出、AgNO3シリカゲルカラム、活性炭カラムを用いてダイオキシン類の濃縮をおこない、室温にて溶媒を溜去させ、n―ノナンに溶かしてGC/MSにて測定した。
正常者31名の血中濃度は2,3,7,8-TCDD 1.8+/-0.7 pg/g lipid, 1,2,3,7,8-PeCDD 8.6+/-3.5 pg/g lipid, 1,2,3,4,7,8-HxCDD 2.8+/-1.6 pg/g lipid, 1,2,3,6,7,8-HxCDD 28+/-14 pg/g lipid, 1,2,3,7,8,9-HxCDD 4.9+/-2.8 pg/g lipid, 1,2,3,4,6,7,8-HpCDD 31+/-18 pg/g lipid, OCDD 604+/-453 pg/g lipidであった。Total PCDDのTEQとして 11+/-3.8 pg/g lipid であった。
顔面皮脂ふきとり法では7日から10日間の酒精綿をもちいれば0.3-0.5gの脂質が回収できることがわかった。血液中のダイオキシン類の濃度との比較では2、3、7、8-TCDD、1、2、3、7、8-HxCDDではわりに相関性が良いが、1、2、3、4、6、7、8-HpCDDやOCDDでは皮脂の方が3倍以上も高く、異性体ごとに異なると思われる体内代謝について今後さらに研究が必要である。 人体諸組織としては項部脂肪織(brown fatに相当)、腋窩脂肪織、腸間膜脂肪織、腹部脂肪織、眼球・下垂体(開頭例のみ)、肝、脾、腎、膵、胃粘膜、腸管粘膜、乳腺、副腎、骨髄、脳等の組織について0歳から80歳代まで数例ずつ合計15体分の組織を凍結保存した。胆汁への排泄を検討するために胆汁も保存した。現在これら組織についてダイオキシン類を抽出し異性体のレベルまで測定中である。数例の検索した範囲では肝臓の蓄積量がもっとも多く、脂肪組織、血液がそれにつぐ。ただし、血液中の濃度については近々の食事由来の摂取脂肪の影響を研究する必要がある。
結論
結論・考案=ダイオキシンの発がん性は1997年2月にリヨンで開かれたIARCの発がん評価ワーキンググループで検討され、「ヒトでも実験動物でも発がん性あり」とするグループIに上げられた。20年前の会議ではグループIII、10年前の会議ではグループIIBであったから段階的にあげられている印象を与える。これはダイオキシンの発がんに及ぼす影響はきわめて長期間かかって発現するものであり、初期には確認できなかったヒト暴露による発がん性が実証されてきたことによる。
発がんそのものとは離れるがダイオキシンは内分泌撹乱物質としても知られている。多くの発がん物質がmg/kgオーダーで効果をだすのに対し、ダイオキシンはng/kgオーダーで作用するので、従来知られている化学物質の100万分の1のオーダーである。このような超微量で作用する物質の生物学はまだ未知の分野が多く、測定にも難しい問題が多い。
欧米での肥料工場などの事故によるダイオキシン類への暴露患者の追跡データから、ダイオキシンの半減期は7-9年と見積もられている。志願者による実験で、体内への吸収は胃からが90%以上と考えられているが、脂肪とともに吸収され、脂肪組織に蓄積し、長年かかって皮脂腺や乳腺から排出されると思われる。ダイオキシン類の分解もエーテル環の開裂によって起きるというモデルが提唱されているが、詳細な機構は不明である。
暴露量の推定は通常、脂肪中のダイオキシン類の測定によって行われるが、それが真に生体への影響量と相関があるかという事は検証されていない。本研究により、血液中のダイオキシン類の測定を行っているが、異性体によって脂肪から回収されてくる量と蛋白質分画から回収されてくる量が異なり、肝臓では脂肪よりも蛋白質に結合しているダイオキシンの方が多い。この点については各種臓器への分布の問題を含めて、来年度以降の研究でさらに明らかにする予定である。

公開日・更新日

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