末梢血幹細胞の分化増殖機構の解明と創薬への応用に関する研究

文献情報

文献番号
200500937A
報告書区分
総括
研究課題名
末梢血幹細胞の分化増殖機構の解明と創薬への応用に関する研究
課題番号
H16-創薬-032
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
葛西 正孝(国立感染症研究所免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 高子 徹(第一製薬 東京研究開発センター 創薬第三研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、末梢血中の白血球減少や重篤な骨髄不全等、造血系の異常を示す造血疾患モデルマウス(TSN-KO)を用いて、リンパ球減少症と骨髄不全症の発症に係わる因子の解明と医薬品開発の基盤技術を確立することである。
研究方法
遺伝子欠損マウスのコンジェニック化
Translin遺伝子欠損マウス(TSN-KO)をC57BL/6マウスに戻し交配を繰り返して、遺伝的背景が同じコンジェニックマウスに置き換えた。

定量的RT-PCR解析
末梢血から全RNAを抽出後、逆転写酵素によってcDNAを合成した。 定量的RT-PCR解析は、cDNAを鋳型としてLC Fast Start DNA master SYBR Green I kitを用いて行った。 
結果と考察
我々は、幼年期におけるTSN-KOマウスの末梢血中の成熟白血球数が激減していることを見いだした。この現象は、末梢血リンパ球の成熟が停止していることに因るものであった。 TSN-KOマウスに認められるもう一つの異常は、加齢と共に骨髄の造血能が低下し、生後1年を経過すると骨髄の幼若骨髄系細胞が激減することである。 この現象を明らかにするため、骨髄系細胞の分化に不可欠なPU.1遺伝子の発現をRT-PCR法で解析したが、活性に変化は認められなかった。 しかし、意外なことにbasic helix-loop-helix(bHLH)型転写因子、E2Aとそれに特異的に結合する蛋白、TAL1の発現が低下していた。 E2AとTAL1の複合体形成は、新たなDNA結合ドメインを形成し、骨髄系幹細胞の自己複製や前駆細胞への振り分けに不可欠な遺伝子の発現を調節することを示唆している。 以上の結果を総合すると、Translin遺伝子は幼若リンパ系細胞と骨髄系細胞の分化成熟機構に重要な役割を果たしていると結論することができる。 
結論
TSN-KOマウスを用いた本研究から、Translin遺伝子は幹細胞の自己複製やリンパ系及び骨髄系前駆細胞への振り分け機構に係わる制御因子と結論することができる。 したがって、ヒトの免疫不全で観察されるリンパ球減少症と骨髄不全症のモデル実験動物として有用性が高いと考えられる。 今後、末梢血と骨髄に存在する造血幹細胞の関連が明らかにされなければならない。 また、本研究成果は造血機構の解明と様々な因子の発見につながり、最終的には移植治療の発展と医薬品の開発に発展する可能性を示している。

公開日・更新日

公開日
2006-04-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-09-02
更新日
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