健康増進のための多面的指標および到達目標の設定ならびにその評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
199700092A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進のための多面的指標および到達目標の設定ならびにその評価手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 尾島俊之(自治医科大学)
  • 神田晃(昭和大学医学部)
  • 松下彰宏(大阪府八尾保健所柏原支所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀のわが国の最大の社会問題は、本格的な少子・高齢社会の到来である。その中で、世界保健機関(WHO)憲章にうたわれている「身体的、精神的、および社会的に完全に良好な状態」を達成するためには、従来の健康増進対策の枠を越えた、多面的かつ実効ある健康政策を実施する必要がある。そこで、国は健康日本21計画を策定することとしており、健康寿命の延長と生活の質(QOL)の向上を究極の目的として、関係省庁の協力の下に、国民の健康増進、疾病予防などのために国民の保健医療上重要な分野を設定し、具体的な数値目標を定めて体系化した諸施策を実施していくこととしている。 そこで、この研究は国の「健康日本21計画」策定のために必要な科学的知見を整理し、また新しい方法論を開発し、健康日本21計画の策定を技術的に支援することを目的としている。具体的には、国民の健康水準を向上させるための有効な健康増進事業の方向付けを行うために、健康水準および生活習慣病のリスクに関する科学的な目標値の設定方法を開発し、実際に数値目標を算出する。また、現時点では現状データが無く、目標値の設定もできない指標については、実施可能な情報収集方法を提言することを目的としている。
研究方法
まず、米国における Healthy People 2000 報告書について分析を行い、わが国における適用可能性を検討した。次に、適用可能な指標について、わが国にける現状指標を検索、もしくは算出を行った。具体的には、統計情報インデックス(総務庁統計局編集、日本統計協会発行)、世論調査年鑑(総理府内閣総理大臣官房編集室編、大蔵省印刷局発行)などの書籍による検索、医学中央雑誌、MEDLINE(Index Medicus)のCD-ROMによる検索、インターネットによる検索などを行った。また、それらの検索によって各健康指標に関連がありそうな機関などに対して電話で問い合わせを行った。それらの方法により、邦文および英語の文献、統計資料、各種報告書を検索・収集した。そして、これらの資料に基づいて上記の健康水準指標、リスク指標および健康資源・サービス指標の現状についての把握を行った。なお、この研究において、研究者間での分担は次のように行った。柳川は全体の研究計画および総括を担当した。尾島は、身体活動とフィットネス、栄養、がんを、神田は、タバコ、糖尿病・慢性疾患を、松下は、アルコールとその他の薬物、心臓病と脳卒中をそれぞれ担当した。
結果と考察
<<結果1.健康状態に関する指標>>長野県佐久市での調査結果によると、65~69歳の活動的余命(活動的余命が平均余命に占める割合)は、男12.2年(75%)、女11.8年(58%)であった。厚生省国民栄養調査によると、1995年で、肥満者の割合は、男 12.9%、女 12.6%であった。厚生省国民栄養調査などから、40歳以上のNIDDM有病率9.7%、16.4%、17.1%などのデータが得られた。厚生省人口動態統計より、各種疾患の死亡率を得た。<<結果2.リスク低下に関する指標>>【栄養、運動】国民栄養調査の結果から、各種栄養素および食品の摂取量を得た。厚生省国民栄養調査によると、「運動の習慣あり」の人は、男26.6%、女22.3%。1日の歩数の平均値は、男 7,933歩、女 6,909歩であった。ほとんど毎日運動している人は、15歳以上の 27.7%。週に3~4回以上は 38.8%であった。総務庁社会生活基本調査によると、週に4日以上行っている人の割合は、軽い体操 8.7%、運動としての散歩 4.3%、ジョギング・マラソン 1.0%であった。NHKの調査によると、1日に30分以上スポーツをしている人は7.5%であった。総理府の世論調査によると、余暇時間に「軽い運動やスポ
ーツ活動」をする人の割合は、平日 12.5%、休日 14.1%、3日以上の連続した休日 9.7%であった。【喫煙】喫煙率は、厚生省国民栄養調査で男52.7%、女10.6%、日本たばこ産業の調査で、男56.1%、女14.5%であった。妊婦の喫煙率は、車谷らによると6.1%、外間らによると5.1%、斉藤らによると、妊娠前13.9%、妊娠中4.4%、出産後5.3%であった。川畑らによると、高校3年生の1か月間の喫煙率男子37%、女子15%であり、総務庁の調査によると、中高生で1年間の喫煙率は2割であった。【アルコール、薬物】月に1回以上飲酒する者の割合は、中学生23.8%、高校生44.9%、大学生87.7%であった。1回の飲酒でコップに3杯以上飲む者の割合は、中学生9.3%、高校生34.1%、大学生73.9%であった。成人1人あたりのアルコール消費量は8.7Lであった。高校生・中学生でこれまでに薬物の使用を誘われたことのあるもの7.0%、「乱用を誘発する薬物・食物」(合法ドラッグ)の使用経験1.7%であった。麻薬・ヘロイン等を「恐ろしいものだと思うもの」の割合は88.7%、覚せい剤90.0%などであった。【その他】厚生省循環器疾患基礎調査によると、高血圧既往者の現在の治療状況は、月1回以上通院46.2%、月1回未満通院16.9%、通院なし30.6%であった。厚生省国民栄養調査によると、平均コレステロール値は男性で201.3mg/dL、女性で201.0mg/dL、また、コレステロールレベルが240mg/dL以上の人の割合は男性で14.0%、女性で14.1%であった。貧血割合は、男性で 14.0g/dl未満は 7.7%、女性で 12.0g/dl未満は 14.6%であった。厚生省乳幼児栄養調査によると、栄養方法別割合は、1か月児で、母乳46.2%、混合栄養45.9%、人工栄養7.9%であった。日本フードサービス協会の調査によると、61.1%の人が、何らかの形で外食のカロリー表示をメニュー選択への参考にしていた。<<結果3.対策に関する指標>>【保健事業】循環器疾患基礎調査によると、過去1年間に血圧測定を受けたものは78.6%、血液検査を受けたもの68.2%であった。厚生省老人保健事業報告によると、各種がん検診のカバー率(対対象年齢人口)は、乳がん検診7.66%、子宮頚がん検診 9.41%、子宮体頚がん検診受診率 0.534%、大腸がん検診6.99%、胃がん検診6.85%、肺がん検診10.8%と推定された。また、胃がん精検受診率は81.8%であった。厚生省健康・福祉関連サービス需要実態調査によると、過去1年以内に各種がん検診を受けた人の割合は、乳がん検診5.54%、子宮がん検診8.33%、大腸がん検診2.80%、胃がん検診5.11%、肺がん検診1.93%であった。子宮がん細胞診の精度管理について、日本臨床衛生検査技師会の臨床精度管理調査への参加施設割合は、病院 56.8%、診療所 1.5%と推定された。【学校保健】運動部に所属している子供の割合は、中学生 73.9%、高校生 49.0%であった。小学校4~6年生で、学校の運動部やスポーツ少年団、スポーツクラブ等に所属してスポーツを行っている子供は、55.4%(学校18.6%)であった。神奈川県の養護教諭を対象とした調査によると、高等学校生徒の飲酒問題に対しての各対応策の実施割合としては、予防的生活指導22.0%、問題対応14.4%、講演会・教科指導8.5%、対応策などなし50.9%などであった。【その他の公的事業】東京都の集団給食施設栄養報告によると、基準栄養量以上である施設割合は、エネルギー 67.2%、たんぱく質 91.6%、脂質 73.2%であった。厚生省衛生行政業務報告によると、集団給食施設における管理栄養士もしくは栄養士のいる割合は63.1%であった。小学校・中学校の給食実施公立学校における栄養職員数/学校数は 45.8%であった。厚生省健康・福祉関連サービス需要実態調査によると、過去1年以内に給食・食材宅配サービスを利用したことのある人は 12万4千人、給食・食材宅配サービスを現在利用したい人は 30万1千人と推定される。厚生省の調査によると、全国の市町村で、庁舎を分煙化しているのは全体の9%であった。【産業保健】 労働省労働者福祉施設・制度等調査報告によると、本社の常用労働者が30人以上の民間企業のうち、健康増進施策がある企業の割合は55.4%、健康管理制度80.3%であった。【民間の事業など】
特別用途食品としての表示許可食品は276品目あった。社団法人日本フードサービス協会会員のうち30.0%の企業が何らかの形で外食メニューのカロリー表示を行っていた。社団法人日本栄養士会によると、6048店舗が栄養成分表示を行っていた。飲用牛乳等の生産量において、低脂肪乳が多くを占める加工乳・乳飲料の生産量は31%を占めた。東京の医師を対象にした調査によると、患者に禁煙を(めったに)勧めない医師は、非喫煙医師の14.4%、喫煙医師の30.2%であった。【施設、設備】文部省体育・スポーツ施設現況調査報告によると、人口10万対公共スポーツ施設は全施設種別合計 50.7カ所であった。都市緑地年報の数値を基に、人口10万対都市公園面積は63.0 haと推計された。<<考察1.現状指標の収集および算出>>厚生省所管以外の統計、調査にも、健康増進施策に関連の強いデータが数多くあることが明らかになった。それらの現状指標を収集し、健康日本21計画策定の資料として提供することができた。また、従来、総量統計としてのみ発表されていた統計について、適切な分母を設定することにより、新しい指標として算出することが可能となった。具体的には、子宮がん細胞診の精度管理を行っている施設の割合や、老人保健法による健康診査のカバー率などである。<<考察2.今後の課題>>今後は、わが国における科学的な目標値の設定、およびデータ収集方法についての研究を行う予定である。なお、科学的な目標値の設定の方法としては、現状データを基礎とした目標設定(過去からのトレンドによる目標設定、国内地域間変動による目標設定)、疫学研究結果に基づいた目標値相互の整合による目標設定について研究を行う。また、市町村、保健所単位で、現状分析や、目標値の設定ができるようなワークシートの開発も行っていく予定である。
結論
国の「健康日本21計画」策定のために必要な科学的知見を整理し、また新しい方法論を開発することを目的として、米国におけるHealthy People 2000報告書を分析し、わが国においても適用可能な指標について、現状指標を検索、もしくは算出を行った。その結果、わが国における、健康水準指標、リスク指標、健康資源・サービス指標の現状を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)